ザ・名も無きランナー

50才から始めたマラソン。こころと身体が一つになって燃焼している感じが好きです。楽しんで走っていきたいと思っています。

修正:運動時のエネルギー代謝について

2007年09月29日 | 参考資料

 前回のブログで私は、フルマラソンの終盤で脚が重くなって走れなくなったという自分の経験をきっかけに、いくつかのHPサイトを渉猟して断片的ではあるが、運動時のエネルギー代謝についていろいろと考えを巡らせてみた。その後参考資料にあげておいた「乳酸を活かしたスポーツトレーニング(八田秀雄著)」を一読してみたところ、前回の私の考えに誤解があったことを悟るに至った。恥ずかしながら今、私にはそれを大幅に修正するだけの能力は持ち合わせていない。そこで今回は修正すべき要点のみをここに記しておいた。興味のある方は是非元本にあたってみることを勧める。まさにランナー必読の書である。

 (1) 動物は体内で食物を消化・吸収・代謝し、細胞内でATPを産生し、これをエネルギーとして利用し生きている。私たち人間の主なエネルギー産生手段は解糖系と酸化系の二つである。

(2) 解糖系はグリコーゲンを乳酸まで分解する過程でエネルギーを得る経路であり、酸化系は主に脂肪酸を酸化する過程でエネルギーを得る経路である。解糖系は単純な過程で進むが、酸化系は複雑な過程で進行する。しかし酸化系の方が解糖系よりも大量のエネルギーを得ることができる。

(3) 解糖系は細胞(例;脳、赤血球、速筋)の細胞質内で行われているが、酸化系は細胞のミトコンドリア内で行われているので、ミトコンドリアを有する細胞(例;心筋、遅筋)でしか作動しない。人間の筋肉には遅筋と速筋があり、遅筋は解糖系と酸化系でエネルギーを産出しているが、速筋では解糖系でしかエネルギーを産出できない。

(4) 日常生活での基礎的エネルギー産生は解糖系と酸化系がほぼ1:2の比率で行われており、ふだんでも乳酸は常に産生されている。しかし同時に心筋や遅筋がこの乳酸をエネルギー源として消費しているので、血液中の乳酸レベルは低値で維持されている。

(5) 運動時にはふつう最初に遅筋が利用され、運動強度が上昇すると速筋も動員されるようになる。解糖系でしかエネルギーを得られない速筋が利用され始めると解糖系の比率が高まるので、必然的に乳酸の産生も増加する。したがって運動開始時と途中での運動強度の上昇時には解糖系の比率が上昇し乳酸の産生が増加する(いわゆるLTレベルでは解糖系と酸化系の比率はほぼ1:1といわれている)。

(7) 強度の高い運動で速筋線維内に乳酸が溜まってくると筋線維内が酸性化し筋の収縮力は低下する。しかし乳酸は筋線維外に拡散すると遅筋や心筋に取り込まれてエネルギー源として利用され分解される。

(8) 酸化系の原料である脂肪に比べると、解糖系の原料であるグリコーゲンの体内蓄積量は少なく、肝と筋のグリコーゲンを合わせてもせいぜい2000キロカロリー程度である。したがって私のようにフルマラソンで4時間以上も走るような場合には途中で消費され尽くしてしまうので、解糖系だけでなく酸化系でのエネルギー産生効率を高めておくことが必要となる。

(9) ランニングの場合、酸化系のエネルギー産生効率を高めるとはすなわち遅筋での脂肪酸の酸化によるエネルギー産生量を高めるということに他ならない。そのためには遅筋のミトコンドリアの働きが質的ないし量的に高まることが必要となる。

(10) トレーニングの中でも持久的トレーニングでは遅筋のミトコンドリアが誘導され、ミトコンドリアの量が増えることが知られている。したがって持久的トレーニングによって遅筋のミトコンドリア量が増えると、酸化される脂肪酸の量が増加し、大量のエネルギー産生(ATP産生)が可能となる。一方スプリントトレーニングでは速筋の解糖系が高進して乳酸の産生量は増えるが、乳酸を速筋から遅筋に移動させるトランスポーターの量が増えることにより、遅筋での乳酸分解もある程度は増加すると考えられている。

(11) 前回のブログ記事で問題だったのは、「運動開始約20分後から体脂肪が分解されて脂肪の燃焼が始まり、強力なエネルギー産生が生じてくる」というくだりである。これは八田氏が指摘しているとおり、脂肪の燃焼は日常生活中も進行しているわけだから、明らかに誤りと言える。正しくは、「酸化系は過程が複雑なのでエネルギー需要の変化に敏感に反応できないが、解糖系は過程が単純なのでエネルギー需要の変化に鋭敏に反応できる。そのため運動開始時や運動強度の上昇時にはまず解糖系がすぐさま反応してエネルギー産出が増加する。しかし酸化系は過程が作動するのに時間的な遅れが生じ、それが約20分のタイムラグになる。しかし一旦酸化系が強力に作動してくると大量のエネルギーを得ることができる」と考えるべきなのであろう。



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