ザ・名も無きランナー

50才から始めたマラソン。こころと身体が一つになって燃焼している感じが好きです。楽しんで走っていきたいと思っています。

姑息的、ああ姑息的、姑息的

2007年09月22日 | 参考資料

 いよいよ別海Mが近づいてきた。しかしどうやら風邪をひいたようだ。この数年、この時期は滅法弱くなった!。残念ながら練習はお休みだ。それならばと、洞爺湖M以来ずっと気になっていたことを調査し頭の中を整理してみることにした。それはフルのレース終盤に急に脚が重くなって上がらなくなる現象についてだ。無謀にもマラソンを開始してたった数ヶ月で走った初フル(’04千歳)では、25km過ぎから脚をつくたびに両膝に痛みがくるようになり、たまらず歩いてなんとか時間内ゴールを果たした。この時はまだ脚力ができあがっていなかったからだと自分でも納得できた。しかし今年の洞爺湖Mでは前半快調に飛ばしておきながら、30kmあたりから急激に脚が重くなり、35kmからは歩くことはできても走るために脚を上げることができなくなり、歩くようにしてゴールにたどり着いた。この時いったい何が起きていたのか、これはいったい何というの現象だったのかいまだに納得できていない私なのである。

 このようにランニングで脚が重くなる現象に関し、金哲彦氏は「乳酸が蓄積されると、筋肉は柔軟性がなくなり固くなる。その結果、筋肉の収縮がうまくいかなくなり、脚や身体が重く感じられるのである」(1)と述べている。一方ジョグメイトのヒラオカのゲンさんからは「グリコーゲンの枯渇ではないか」(2)というコメントをいただいた。また同じくジョグメイトのkuriさんは自身のウルトラマラソンの経験から「脚が重くなってもしばらく歩いていれば、またキロ7分程度で走れるくらいになる」(3)と言う。私自身はつい先日まで、序盤のオーバーペースが乳酸蓄積を高め、レース後半には疲労物質である乳酸の濃度がついに一定限度を超えたために、結果として脚が上がらなくなってしまったのだろうと理解していた。しかしクリール10月号の記事(4)によると、「近年の研究で乳酸は疲労したときに出ますが、疲労物質ではなく、エネルギー源であることがわかってきました」とあり、これは一考に値すると思った次第だ。

 ランニングの際、筋肉は自らの内に蓄えたグリコーゲンを分解してエネルギーを得ている、つまりこれが解糖(5)であるが、乳酸の権威八田秀雄氏(6)によれば、乳酸は主に速筋タイプのタイプⅡ筋線維で嫌気的(アネロビック)解糖により産生される。そして乳酸も酸の一種であるから、これが溜まると筋線維が酸性化し内環境が変化し、結果として運動が長く続けられなくなるのだという(新たな知見としては、乳酸が解糖系のいくつかの酵素活性を低下させることでATP産生を抑制し、ミオシンATPase活性を阻害することで筋収縮を抑制する(7)という。エネルギーを電力に喩えて言えば、溜まった乳酸が解糖のスピードを遅くすることで細胞内の発電効率を低下させ、さらに電力を動力に変換するところをブロックして筋収縮を抑制してしまうということか)。しかしこの乳酸は遅筋タイプのタイプⅠ筋線維や心筋に移動させられると、さらに酸化されエネルギー源として利用されるという。だから乳酸の蓄積は産生が消費を上回った場合に生じることになる。遅筋を使った有酸素(エアロビック)運動はグリコーゲンの有効利用が可能で、乳酸もエネルギーとして利用できるというわけだ。走れなくなってもしばらく歩いていることによって遅筋での乳酸利用が進むのかもしれない。これはkuriさんの体験と符合する。

 ところでこのグリコーゲンだが無尽蔵なわけではなく、一般的に体重60kgの人では、体内に蓄えることができる量はわずか1800kcal しかない(8)。GARMINデータによれば、私の場合フルマラソンの完走のために千歳Mでは2714kcal、洞爺湖Mでは2664kcalの消費が必要であった。ということは、42km÷2700kcal×1800kcal=28kmで、はぼ30km手前で私のグリコーゲンは底をついていたことになる。ならば30km過ぎから急激に脚が重くなってきた現象は、いわゆるハンガーノック状態で、まさにヒラオカのゲンさんのご指摘のとおりグリコーゲンの枯渇状態であったと考えられる。またこれは同時に速筋線維内の乳酸蓄積がピークに達していたことを意味しており、ここでしばらく歩いて溜まった乳酸を遅筋で消費できれば、kuriさんのようにまた走りが復活するものなのかもしれない。

 それではみなこのあたりで力尽きるのか、事実は否である。なぜなら運動時にはふつう、まず最初にグリコーゲンの解糖が開始され、続いて約20分後からは体脂肪が分解されて脂肪酸の燃焼(5)が始まり、強力なエネルギー産生が生じてくるからである(8)。ということはなるべく運動開始後の早期から脂肪酸の燃焼スイッチが入りやすいように訓練しておけば、グリコーゲンを節約し乳酸をあまり産生させずに運動を続けていくことが可能と考えられる。一説によれば、運動前に分枝鎖アミノ酸(BCAA)をあらかじめ摂取しておくことにより脂肪酸の燃焼が助けられるというような記載(9)を見ることがあるが、残念ながら今のところ私を説得できるような証拠は見つからない。唯一、アミノ酸の一つであるL-カルニチンは細胞内で謂わば細胞内発電所とも言えるミトコンドリアへ原料となる脂肪酸が出入りするときに重要な役割を果たしている(10)ことが明らかになっており、運動を開始する前にL-カルニチンを摂っておけば脂肪酸の燃焼(β酸化)に促進的な効果を発揮するかもしれない(11)。うれしいことにL-カルニチンは羊肉に豊富(12)に含まれているというから、前日にジンギスカンに舌鼓を打つという手もありだろう。

 つまり運動中のハンガーノック状態を未然に防ぐためには、第一に体内に蓄えた体脂肪を運動のなるべく早くから利用することが重要と考えられるが、それ以外にも運動の途中で糖質やアミノ酸を経口的に補給する方法もあり、そうしたサプリメントがたくさん商品化されている。まず、アミノ酸では、特に分枝鎖アミノ酸(BCAA=バリン、ロイシン、イソロイシン)は運動中にそのまま直ちにエネルギー源として利用可能(5)である。しかし経口摂取してから吸収され筋肉組織に至るまでには約20分を要することから、レース20分前には摂っておく方が望ましいだろう。ただしアミノ酸はエネルギー源というよりはむしろ身体の構成成分としての働きが重要であり、運動によって損傷した筋肉の修復などに関わる(13)ことから、運動後の摂取の方が実は重要なのではないかと思われる。なお、脂肪酸の燃焼でもアミノ酸の分解でもこれらの過程で乳酸が産生されることはない(5)。

 さて運動中の糖質補給に関しては種々の形態のものが多数市販されている。なかでもCARBO SHOTZ(14)とPOWER GEL(15)が人気であり、最近GU(16)も出た。注意すべき点は、含まれている糖の種類である。ブドウ糖は即エネルギー源にはなるものの、同時にインシュリン分泌作用があるためにインシュリンによる細胞の糖利用が急速に生じ、かえって反動的に低血糖を引き起こしてしまう危険性がある。そこでインシュリン分泌作用のない果糖を一緒に含んでいると糖利用が緩徐にすすむので安全(17)である。これらの選択には価格、携帯しやすさ、摂取しやすさ、味なども考慮に入れておいたほうが良い。

 もう今さらじたばたしても始まらない。今季3度目のサブ4挑戦は、当日のコンディション作りに賭けるしかない。せっかく風邪をひいて練習できないのだから、今日はサプリメントをどう利用したら終盤の大失速を予防できるのか頭を悩ましてみた。なんとも姑息的だな~。

 次回再考予定!

<参考資料>

(1)金哲彦:3時間台で完走するマラソン、p.102

(2)personal communication

(3)personal communication

(4)ランニングマガジンクリール2007.10.p.012

(5)代謝マップ:http://133.100.212.50/~bc1/Biochem/index2.htm

(6)八田秀雄:乳酸を活かしたスポーツトレーニング

(7)スポーツ栄養学、運動とエネルギー代謝、解糖系:http://sugp.int-univ.com/Material/Medicine/cai/text/subject09/no4/html/section1.html

(8)VAAMjp、エネルギー燃焼と体脂肪燃焼:http://www.vaam.jp/sports/knowledge/study/burn.jsp

(9)アミノ酸ダイエット:http://www.kenko60.com/koudoku/diet/006.html

(9)脂質と血栓の医学、カルニチン:http://hobab.fc2web.com/sub4-carnitine.htm

(11)L-カルニチンLabo、L-カルニチンって何ですか?:http://www.runnet.co.jp/project/carnitine/what.html

(12)L-カルニチン:http://www.seo-k.com/lcal/

(13)アミノ酸forダイエット、専門知識:http://www.spitz8823.com/diet/senmontisiki11.htm

(14)カーボショッツ:http://www.grad5.jp/shop05/carboshotz/carboshotz/carboshotz.html

(15)パワーバー:http://www.powerbar.jp/

(16)グー・エナジージェル:http://store.yahoo.co.jp/bellezzashop/b-2488.html

(17)パワーバー、スポーツ栄養~炭水化物~:http://www.powerbar.jp/athletes/nutrition/page2.asp



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2 コメント

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インシュリンショック(飲酒ショックではない) (たしろ)
2007-09-23 17:22:20
今回の北の大地さんのレポート大変興味深く拝見しました。
昔、ショーター(ガス抜きコーラ)や瀬古(甘い紅茶)も糖分をスペシャルドリンク入れていたようなのですが、これを参考に僕はいつもフルマラソンでブドウ糖あめを携行しているのですが、インシュリンショックが怖くて口にしたことはありませんでした。やっぱやめておこうかな(笑)

グリコーゲンの枯渇現象についての記述も興味深く拝見しました。
そういえば、朝ランで食事前に長距離を走るのが良いと雑誌かなにかで読んだことがあります。グリコーゲンの少ない(朝食前)時に長距離を走ることによってグリコーゲンが早く枯渇させることにより、早い段階で脂肪を使う体にする訓練だそうです。
僕は腹が減っては戦はできぬ。とあまり気乗りのしない練習なのですが、効果があるのかもしれませんね。
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空腹時練習は効果あるでしょうね (北の大地)
2007-09-23 20:27:27
>たしろさんへ

 空腹時の運動は脂肪酸を燃焼させる刺激としては効果が期待できそうですね。朝の苦手な私には継続練習としてはまず無理なことですが、確かに早朝練習している人たち(カッチさん、ichanさん、kuriさん、カナダさん等々)は、いい走りをしているようですね。
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