★ 宮沢賢治は、ことばの力で、そんな銀河鉄道を幻想第4次の世界として創り出しました。賢治のことばの力に触れることができれば、夜の旅でありながら、彩り豊かな、人びとの姿もはっきりと美しい旅にはいり込むことは難しくありません。
「いきなり目の前が、ぱっと明るくなって、まるで億万のほたるいかの火を一ぺんに化石させて、空じゅうにしずめた・・・・・・」という光景が、賢治の「銀河鉄道の夜」の主人公ジョバンニの旅の始まりです。
★ 大宇宙の漆黒の闇を感じるのは、地上では昼間にあたる太陽の光を浴びている時です。
昼間、地上の空が青いのは、大気があるためです。太陽の光のうち青い波長の光が大気の層にぶつかって拡散するためといわれています。ですから、大気の層がほとんどなくなった地上400キロから宇宙を見ますと、宇宙の闇しか見えないのです。星は、地球が明るすぎるために見えなくなっています。
★ それにしても、賢治がことばの力で創り出した人びとは、宇宙の深い闇につながるようなかなしみをかかえているようにみえます。
かなしみと言えば、賢治のことばの力で私のこころが弾んだ最初の記憶も、やはり、深いかなしみを含んだ詩だったような気がします。
「あの田はねえ」ということばではじまる「稲作挿話」という詩を読んだ時でした。これは夜ではなく、真っ昼間の光景です。たんぼの畦に立つ賢治や農家の少年の汗や稲穂の匂いが伝わってくる昼間です。
★ それでも大宇宙の闇につながる深いかなしみ、ほんの少し怒りを含むかなしみが、そこにはありました。でも、そのかなしみは、最後の祈りのことばで、蒼天に高くのぼっていくようでした。
・・・・・・雲からも風からも
透明な力が
そのこどもに
うつれ・・・・・・
★ 「銀河鉄道の夜」からも、透明な力への祈りは立ちのぼっています。星月夜の静かな明るさの中で、銀色のすすきの海のうねりから、細長いけむりのように立ちのぼったかなしみが、天空の透明な力で、大宇宙の闇にすいこまれていくのが見えるようです。
<秋山豊寛“闇の深さ”―宮沢賢治『銀河鉄道の夜』(岩波少年文庫2000)に記載>