Don't Let Me Down

日々の雑感、引用。
言葉とイメージと音から喚起されるもの。

告白

2013-06-15 14:22:47 | 日記

★ 「聞いてくれ、リズ。差し出がましいことを言うようだが、あの桑の木は枝払いして切り口に薬を塗っておかないと枯れるよ。簡単な作業だ。ま、余計なお節介かもしれないけどな」残り少ない髪の毛が、そよ風に吹かれてとんぼ返りした。

★ わたしが止めたにもかかわらず、彼は十分後、さもうれしそうにチェーンソーを手にもどって来た。
「どんなふうに使うか、やって見せてくれるだけにして、ジョージ」わたしは懇願した。
彼はわたしの頼みをすげなく断った。「いいから、任せとけ」そう言って、ネズミが唇の上を横切ったみたいにちらりとほほえんだ。「公共サービスへのせめてもの恩返しだ。すぐに終るよ。三十分もかからんだろう」
わたしは譲歩し、彼は張り切った。
作業しながら、ジョージはいろいろなことをしゃべった。実際には十五分しゃべって、五分枝を切って、また二十分しゃべって、の繰り返しだった。わたしは腕時計に目をやり、あくびを噛み殺した。すぐに終るって言ったじゃないの。仕事に行くまであと二時間もないのに。

★ 彼はしゃべりながら地面か木を見つめた。三人の未亡人のために芝刈りをしてやったことや、彼女たちの夫の死について話した。(・・・・・・)バトンルージュ郊外のグリーンウェル・スプリングスに買った土地についても語った。「あっちへ引っ越そうと思ってる。じきにな。街暮らしはもううんざりだ。泥棒に入られたら撃ち殺してもかまわないってんなら、話しは別だがな」

★ 彼がわたしを怒らせようとしてわざと言ったのか、本気でそう信じているのかはわからないが、聞き捨てならない言葉だった。そこでさりげない口調で、どこに住んでいようと、相手が泥棒だろうとなんだろうと、人を撃ち殺していいはずはないと諭した。

★ ジョージは口をすぼめ、顎を少し前に突き出し、わたしの車回しに停まっているパトカーをじっと見た。それからはるか頭上の別の枝を切り始めた。ふたたび臀部の逆さのYが、さっきより下まで見えた。わたしは笑をこらえた。同僚の男性警官に話したら、きっと受けるだろう。

★ 枝が地面にどさりと落ちると、ジョージは振り返ってわたしの目をまっすぐ見た。「聞いてくれ。実を言うと、前に人を殺したことがある。ヴェトナム戦争でのことだ。あそこに三年いた。もちろんヴェトコンも殺した。だがおれが言ってるのはそのことじゃない」ジョージがこちらに近づいてきて、体臭がぷんと匂った。わたしは後ろへ下がりたいのを必死で我慢した。

★ 「誰かの頭に銃を突きつけて、引き金を引いたってことを言ってるんだ。あるアメリカ人がいた。おれと同じ軍人だ」彼は頬をリスのようにふくらませ、長く息をついた。「そいつは小さなヴェトコンの娘を十一回も十二回もレイプした。なんの害もない小さな娘をな」彼は視線をさまよわせた。「黙って見てることはできなかった。だからそいつを殺した。聞いてくれ、おれは悪夢に襲われることはあるが、全然後悔してないんだ」

★ ジョージはチェーンソーのスイッチを入れると、向こうを向いて爪先立った。チェーンソーの歯が枝に噛みつき、おがくずが吹き上がった。わたしは今度は笑わなかったし、目もそらさなかった。ジョージのがっしりした身体や、筋肉の盛り上がりやくぼみ、毛虫のような髪の房をしげしげと眺めた。急に彼の半分露出したお尻にそっと触れたくなり、自分でびっくりした。

★ だが実行はしなかった。ただ彼の後ろに立って、あたりにおがくずが蛍のように舞う中、すべてを受け止めた。むき出しのお尻、深い割れ目、そしてわたしたちの壊れた秘密の心を。

<ローリー・リン・ドラモンド『あなたに不利な証拠として』(ハヤカワ・ミステリ2006)>