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僕の読書ノート「もっと言ってはいけない(橘玲)」

2020-01-19 17:00:58 | 書評(進化学とその展開)

「言ってはいけない 残酷すぎる真実」の続編である。前編「言ってはいけない」は、人の性格や知的能力などの性質についての論調が遺伝子決定論に偏っていたが、本書では最後のほうで環境の影響や可塑性(人は変わることができること)についても若干触れることでバランスを取っている。そして、人種と知能の関係、現在世界を席巻しつつあるポピュリズムや差別主義の原因は言語的知能の低さであるという結論を導き出しているところが、本書の最大の主張だろう。気になったポイントを下記に記す。

・同性愛は子孫を残せないので、進化的には淘汰されていくだろうと考えやすいが、実際はそうならないらしい。ゲイ遺伝子の存在は、「遺伝子があなたをそうさせる」の著者ディーン・ヘイマーによる研究でも示唆されている。この遺伝子を男性が持つと子を持てなくなるが、女性が持つと多産になる特性(たとえば男性にもてやすいなど)があれば、進化で残ってくるという理屈らしい。

・リチャード・リンの著書からの引用で、各国(国・地域・民族)別のIQ一覧表が掲載されている。IQがもっとも高い国は、北東アジアに集まっていて、シンガポール:110.8、香港:108.8、中国:106.8、韓国:106.4、日本:105.4である(わずかな差ではあるが、日本より中国、韓国のほうが高い)。もっとも低い国・民族は、サハラ以南のアフリカに集まっていて、ブッシュマン:55.3、ピグミー:57、ガンビア:61.3である。アメリカは人種によって違っていて、ヨーロッパ系白人:99.7、ヨーロッパ系白人とアフリカ系の混血:93.5、アフリカ系:84.3、ネイティブアメリカン:85.2である。

・イスラエルのIQは94.2で、けっして高くはない。ユダヤ人は3つのグループ「アラブ系」「ヨーロッパ系」「オリエント系」に分けられ、それぞれのIQは86、103、91と異なっている。ヨーロッパ系ユダヤ人のIQは高いが、その理由としてあげられているのが、キリスト教世界であるヨーロッパにおけるユダヤ人差別の中で生き残っていくために、一部のユダヤ人であるアシュケナージの知能が高まったとするものだ。アシュケナージのIQは、ヨーロッパで110、アメリカで115とされている。

・言語的知能が低いと(いわゆる口べただと)、世界を脅威として感じるようになり、保守的になるという。なんらかのトラブルに巻き込まれたときに、自分の行動を相手にうまく説明できないからだ。世界を恐れない言語的知能の高い子どもは、新規な体験全般に興味を抱くようになり、「ネオフィリア(新規好み)」で「リベラル」になる。一方、世界を脅威と感じている言語知能の低い子どもは、知らない相手を遠ざける「ネオフォビア(新規嫌い)」で「保守」になる。高度化した知識社会では、ネオフィリア(リベラル)のほうが社会的・経済的に成功しやすく、ネオフォビア(保守)はうまく適応できない。アメリカでは、ネオフィリアは、ウォール街やシリコンバレー、大学やマスメディアで働く富裕層となり「リベラル派」になる。一方、ネオフォビアは、知識社会の敗者としてトランプ支持者となる。(さて、ASD(自閉スペクトル症)も一般的には言語的知能が低いと思われるが、保守になるのだろうか?ASDのグレタ・トゥーンベリさんは明らかにリベラルだ!さらに、日本の自由民主党の国会議員たちは言語的知能がかなり高いと思うが、なぜ保守になったのだろうか?)

・前編では全く考察されていなかったジェームズ・ヘックマンらによる非認知スキルにもふれられている。ここでは、非認知スキルではなく、性格スキル(やる気)とよんでいて、アメリカでは社会的・経済的に成功するためにはこれが必要だとしている。また、知能の遺伝率(約80%)も性格の遺伝率(約50%)は低いので、訓練によって伸ばすことが期待できるとしている。性格の中で仕事の成果(業績)への影響が大きいのは、真面目さ、外向性、精神的安定性の順になっている。外向性は、管理職・営業職など対人関係が必要な業種に高い影響力を持つが、学者・医者・弁護士などでは相関関係がマイナスになる。

・セロトニン運搬遺伝子の発現量が低いSS型のタイプは、日本人に非常に多い。このタイプは「悲観的な脳」になると考えがちだが、実は「悪いことが起きたときに非常に不利にはたらくが、良いことが起きたときには非常に大きな利益をもたらす可塑的な遺伝子である」というエレーヌ・フォックスの説を取り上げている。

・あとがきでこう述べている。知能とアスペルガーのリスクとのあいだには強い相関がある。IQ130 を超えて10上がると、自閉症スペクトラム上に乗るリスクは倍になる。そして、高い知能が幸福な人生に結びつくかどうかわからないと。最後に、天才的な頭脳で大きな成功を成し遂げたイーロン・マスクが、辛い友人関係や結婚生活を送ってきたけれど、けっして一人ぼっちにはなりたくないという彼の魂の叫びを引用して結んでいる。



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