5月29日(日)、今建て替え問題で話題になっている京都会館のウォッチングに行ってきました。
京都市が突然出してきた改築計画。あまりにも唐突にいつのまにか京都会館の命名権が「ローム」に売られていて、岡崎公園再整備計画とやらと関連して京都会館の改築案(90億円もかかる!)はしゃにむに進められようとしています。
日本建築学会賞をとったモダニズムの名建築が建物の本質を失うような大変更を加えられようとしている今、現地で実際に建物を見て考えてみようという企画でした。主催は「岡崎公園と疏水を考える会」。
あいにく、台風の影響による大雨のお天気。
集合場所の会館入口付近に行ってみると、あたりは大勢の人・人・人。
実はこの日は京都会館を会場に合唱祭が行われていたのでした。屋根のあるピロティでは、合唱の練習をする団体の人でいっぱい。
ピロティの天井部分。どことなく和風です。
ピロティがあることによって、道路に向かって建物の足元を開放し、中庭へと自然に人々を誘いこむ石畳が続いています。
ピロティ、中庭、と建物の内部と外部、さらに敷地の外まで水平的に広がる有機的な空間構成によって、そこに集う人達が共に楽しく時間を過ごすことができる、設計者の目指した意図は十分に達っせられているようにみえます。
ウォッチングの人達もたくさん来ていて、約80人程が集まっていました。
人混みを避けて、向かいのみやこメッセの3階に移動、そこからウォッチングすることになりました。
京都工芸繊維大学の中川理教授が解説してくださいました。
京都会館は1960(昭和35)年建築。その設計は村野藤吾、前川國男、尾崎久助(日建設計)の3者による指名設計競技の結果、前川國男が設計を行いました。
その設計説明書には次のように書かれています。
「東山一帯に囲まれた平面的な岡崎公園と、その水平的な性格を象徴するが如き疏水の流れ、それに既存の建物、公会堂、勧業館、美術館等の中層建物の高さなどを考え合わせる時、この場所には巨大なマッスの高層建物を置く事は、公園地帯全域に対して不均衡を来すものと思われる。
このために建物全体を中層の高さに収め水平に延びた屋根面から大ホールの屋根、小ホールの舞台フライの部分のみを突出せしめる水平線的な構成をとった。
この公園のもつ水平線的性格は建物のボリウムの流れのみでなくバルコニー手摺、外壁を構成するブレキャスト版等、全館意匠の細部にまで浸透せしめ附近全域及び周囲の風光との調和を図った。」
東山連山のなだらかな稜線の前に、岡崎の地には高い建物は似合わない、それを見抜いて建てられた建物でした。
3階の窓から見える京都会館。
刈り込みされた植栽はみやこメッセのもので、京都会館は大きな欅の木の向こう側になります。やはり、高さは抑えられていて、すっかりあたりの景観になじんで溶け込んでいます。
建物の特徴である水平的な線を表わすのが水平に延びる大きな庇です。
庇が大きく外に延びていることによって、雨風の多い日本の風土にかなった日本的モダニズムの建物が作られたのです。
しかも、大きな庇でも重々しさ、違和感は感じられません。
浮上しているオペラハウスにするには建物の高さを上げねばならず、下部はそのままでも、上に大きな墓石を載せたようなものになるのではと言われています。岡崎公園に大きな墓石ではねえ。
京都市が折角高さ制限をしている岡崎地区も、規制を緩和せねばならなくなり、地区全体の景観が崩されると共に、静かな文化ゾーンとしての性格が変わっていってしまうのではないでしょうか。
みやこメッセで1時間程お話を聞いたあと、京都会館の中庭に移動、そこでも説明を聞きましたが、雨足がますますひどくなってきて、早目に切り上げられました。
建物の外観ではタイルが特徴的。その貼り方はコンクリートを打ってから後で貼るのではなく、最初からタイルがあってコンクリートが流し入れられているので、剥がれにくく、雨も浸み込みにくいのだそうです。
この日は、会館内部のウォッチングができなくて残念でしたが、以下は別の日に内部(第一ホールのロビー)を写したものです。
スケールの大きな空間で、とてもたくさんの入場者がいても、いつも短時間で出入りできたことが思い出されます。
最近はあまり利用することも少なくなってきていた京都会館(それでも西本智実指揮のコンサートもここでありました)、こうしてウォッチングしてみると、昔は様々な催しの度によく来たものだと、懐かしい思い出もよみがえってきます。
それらの思い出を包み込んだ建物、多くの市民に利用され、なじんできた建物を安易に壊したり変更することなく、より使いやすく、より多くの人が使い続けて行くにはどのように改善すれはいいのか、もっとじっくり検討してもらいたいものです。
そして、岡崎の地に「巨大なマッスの高層建物」だけは建ててもらいたくないものです。
京都にオペラハウスができて、どのくらいの人がいくのでしょうか。西宮のオペラは想像できても、京都のオペラの観客は想像しにくいな。
それから一度高さ規制を緩和したら,後はなし崩しに高いホテルなどが建つのではないかと恐れています。岡崎に高級ホテルなんかいらんわ。岡崎グランドも毎朝利用している人が居るのをみているだけに、なぜなくすのか、わけがわかりません。上記カラーパンフにはグランドの存続に関してはぼやかして書いてあります。ちなみに京都会館については建てかえ、が優良案ということになっています。
そのパンフをたくさん店先においてある神宮道の店をみかけました。お店をやっている方には賑わった方がいいのでしょうが、一般住民には迷惑。いったいだれがこのプランを練ったのでしょう。委員の名簿をみても、かたよってないか、と思ってしまいます。
「夜も賑わう岡崎」って全く何を考えているのでしょう。中川先生も岡崎の地は成り立ちからして、元々の六勝寺から、明治以後の疏水と別荘と図書館・美術館、平安神宮などの文化的ゾーンとして、京都のシンボル的な土地として作られてきており、京都市民の総意の表わされる場所とおっしゃっていました。それをどこの都市にもあるような安っぽい繁華街にはしてもらいたくないものですね。