淳一の「キース・リチャーズになりたいっ!!」

俺好き、映画好き、音楽好き、ゲーム好き。止まったら死ぬ回遊魚・淳一が、酸欠の日々を語りつくす。

「こころの冬」⑧

2021年01月13日 | Weblog
 朝から青空が広がっている。ぴーんと張りつめた冷気が心地よい。
 昨日は天井が溶け出した雪で雨漏りがするということで、少しだけ屋上の雪を片づけてみた。水分を含んだ重い雪がびっしりと屋上を埋め尽くしていて、かなりの重労働を強いられた。結局、途中で作業を諦め、退散する。
 もう飽きた。雪掻きは・・・。

 1月13日水曜日午前9時時点の気温はプラスの1.8度。積雪量は102センチまで減っている。
 それでも、朝の出勤時、いつものように外環状線から南部に向かって伸びる長い直線道路に入ったら、交差する信号機の手前で大渋滞を引き起こしていた。道路脇に詰まれた雪の固い壁のため、大型車が左折出来ないのだ。
 何十台もの車両が数珠つなぎになって一歩も前に進めない状態が何十分も続く。仕方がないのでなんとかギリギリでUターンして戻り、遠回りして、やっとの思いで仕事場へと到着した。40分も遅れてしまった。
 こんなこと今まで一度もなかった。

 土日の「大学入学共通テスト」を控え、今週すべての授業が休講となっているので、校内は閑散としている。
 研究室の暖房を点け、自販機で買った缶珈琲を飲もうとしていたら、向かいの部屋の某部の学部長から、「淹れ立ての珈琲、飲みませんか?」とのお誘いを受ける。
 長年、全国各地で自然学校を展開してきたその分野のトップの方で、授業がない日は毎日のように「八甲田」を含めた県内外に赴き、様々な自然活動を行っている。風貌も「山のひと」そのものだ。もちろん、家族を残して単身での青森赴任である。

 彼は、独りで全国各地の自然界に分け入り、カナダが発祥らしい「イグルー」(かまくらに似た圧雪ブロック)を造り、環境庁などの自然プロジェクトにも数多く参画している。
 年末年始は「八甲田」で行われたある自然プロジェクトのために、大晦日と元日も日中は厳寒の八甲田連邦で「イグルー」制作を行い、家族の元へは帰らず(帰れず)、たった独りぼっち、夜は寮で過ごしていたらしい。

 この人に孤独はない。
 あるかもしれないけれど、飄々としている。威風堂々と前を向いている。
 「独りぼっちで大晦日を過ごすって、淋しくないんですか?」、恐る恐る聞いてみた。
 「えっ? なんで?」という表情を浮かべて笑った。とにかく無垢なのだ。肝が据わっているのだ。

 その、あまりにも純な逞しさに心から憧れを抱く自分がいる。徹底的に弱く、徹底的に女々しく、徹底的に無様で性根の座らないことに心底呆れかえり、自己嫌悪に襲われている自分がいる。

 ああ・・・こんなふうに飄々と生きてみたい。
 小さなことにくよくよ悩み、小心で、他人の家の芝生を絶えず比較し、妙にプライドが強く、それでいて臆病でなにをやるにも中途半端・・・。そんな自分と比べ、なんとまあ、高い矜持といい意味での諦観を内に秘めているのだろう。

 冬だからどうだとか、雪が降って憂鬱だとか、独りは淋しいとか、生きていることが苦痛だとか、小説が書けないだとか、黒い塊が襲って来るだとか、死ぬことの恐怖がどうだとか、もう、んなもん、どうだっていいではないか。好きに生きて好きに死ねばいいだけだろう、人生なんて。
 そんな志を掲げて生きる、それが何も語らない逞しい躯体からたくさん滲み出ている。
 
 とても美味しい一杯の珈琲をその某学部長から頂き、また自分の研究室へと戻った。
 4階の窓から、青い空ときらきら輝く真冬の太陽に反射する真っ白な雪が見える。
 午後からは「教授会」が控えている。

 あの悪夢の豪雪が少しだけ落ち着いた、1月13日水曜日のとても穏やかな冬の朝だ。
 






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