Ⅳ
思わず涙が零れ落ちた。
でも、それをあの人に悟られるわけにはいかない。
わたしたちは、いつもこうして三人だけの夕食を採ったものだ。勿論こんな豪華な食事ではなかったけれど、それでもわたしはとても幸せだった。
わたしとこの子は、明日、彼方の地に旅立って行く。もう、あの人に会うことはない。わたしたちは、明日からまったく別々の世界で生きてゆくのだ。
だから、わたしは今夜、心を込めた手料理を、あの人のためだけに作る。
柔らかくて美味しい子羊の肉を、小麦粉と卵とパン粉につけてバターで丹念に焼き、そこに薬味を乗せる。それから、アンチョビとレモンとオリーブも。そして、こんがりと焼いたパン。デザートは、ミルクと卵をたくさん入れたプディングにした。最後には、あなたがとても好きだった、熱い挽き立ての珈琲を添えて。
わたしたちは最後の晩餐を終え、そのあとであの人が深い眠りについたなら、夜が開け切らないうちにこの映画館を出て行くつもりだ。それは、この世に存在しない亡霊の、避けることの出来ない宿命だから。
もう、映画館を黄昏が支配している。
思わず涙が零れ落ちた。
でも、それをあの人に悟られるわけにはいかない。
わたしたちは、いつもこうして三人だけの夕食を採ったものだ。勿論こんな豪華な食事ではなかったけれど、それでもわたしはとても幸せだった。
わたしとこの子は、明日、彼方の地に旅立って行く。もう、あの人に会うことはない。わたしたちは、明日からまったく別々の世界で生きてゆくのだ。
だから、わたしは今夜、心を込めた手料理を、あの人のためだけに作る。
柔らかくて美味しい子羊の肉を、小麦粉と卵とパン粉につけてバターで丹念に焼き、そこに薬味を乗せる。それから、アンチョビとレモンとオリーブも。そして、こんがりと焼いたパン。デザートは、ミルクと卵をたくさん入れたプディングにした。最後には、あなたがとても好きだった、熱い挽き立ての珈琲を添えて。
わたしたちは最後の晩餐を終え、そのあとであの人が深い眠りについたなら、夜が開け切らないうちにこの映画館を出て行くつもりだ。それは、この世に存在しない亡霊の、避けることの出来ない宿命だから。
もう、映画館を黄昏が支配している。