淳一の「キース・リチャーズになりたいっ!!」

俺好き、映画好き、音楽好き、ゲーム好き。止まったら死ぬ回遊魚・淳一が、酸欠の日々を語りつくす。

ゆきのまち映画館の黄昏 29

2010年11月09日 | Weblog
 この蒸気機関車は意識を持っている。
 いや、意識とも違う。何と言ったらいいのだろう。意思! そう、意思だ。世界の摂理に基づいた規範と言ってもいい。
 夕方近く、この寂れた駅に人を降ろし、そして次の日、太陽が海岸線にその上半身を現すその直後、またこの駅から出発して行く。それさえ多分、何者かの意思によるものだ。 
「大丈夫よ。あなたは何も心配する事なんてないの・・・」
 わたしは隣で震える息子の髪を優しく梳きながら、静かに目を瞑った。
 この子は、あの人と別れることが辛いのだ。何の事情も解らないまま、自分の父親と会えなくなることに耐えられないのだ。
 あの人が蒸気機関車の悲しい鳴き声で目を覚まし、そこにわたしたちを見つけて近づいて来た時、本当を言うと、わたしも余りの嬉しさに思わず抱きつきそうになった。
 わたしは、わたしたちを離れ離れにした、あの忌まわしい数日前の事件を、絶対に忘れる事は出来ない。





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