徒然にふる里を語る

 一市井の徒として、生まれ育った「ふる里」嬬恋村への思いをつづります。

後編

2020-04-11 07:43:29 | Weblog

 プロフィールは西洋翁草です。知人の庭先に咲いていました。昨日、散歩がてらに撮ったものです。私の庭の日本翁草は数年で消えてしまいました。

 昨日の続きを掲載します。古い話でイメージが湧かないかも知れませんが、田舎の中学生の青春の一コマです。

     電 報―後編
 
 しかし、私はこの担任が好きであり、尊敬していた。私が東京へ出ようとしたのも、この先生の影響が大きい。口癖は「大志を抱け、東京を見ろ」である。「我がままで、自分勝手で、強情」な母に反発する私の最大の理解者でもあった。私の外にも、この先生の影響を受けて、東京に出ようとする生徒が何人かいた。
 年が明けると、私達も否応なく受験に向けて臨戦態勢に入った。何しろ戦後のベビーブーム世代で、競争相手は多い。そこに私の第1志望校の入試失敗である。先陣を切った私の不合格で、クラスには緊張感が出てきた。誰もが口数が少なくなり、教室の雰囲気が張り詰めた中で、受験戦争に突入である。
 昼少し前、自習中の教室に担任が入ってきた。そして私の名を呼び、教員室に来るようにと言った。一瞬私の体が硬直した。私は大きく息を吸い込んで、立ち上がり職員室に向かった。教室の仲間は、第2志望校の発表の日だとは知らない。今回、私は自信を持っていたが、最初が最初だけに一抹の不安もあった。私は取り付けの悪いガラス戸を開け、担任の机に向かった。担任はお袋が届けてくれたぞ、と言って1通の電報を私に渡した。それは神奈川に住む姉からであった。
 震えそうな手でそれを開くと、そこには「合格おめでとう」とあった。私は担任に頭を下げ、仲間の待つ教室に戻る。東京でも「頑張れよ」担任の野太い声が私の背中を押した。

2006/6/5


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