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蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

親族の基本構造の結語章9 心理学による近親婚禁止の批判2

2021年10月22日 | 小説
(2021年10月22日)前回は<具体事例を対象とし、経験をもととする論理は、時にそれらを学説として展開せむとする哲学者の「思い込みpressentiment」と結びつく。この一文はフロイトらの「勘違い」説を批判するとした。文の直後;
<A cet égard, l’œuvre de Freud offre un exemple et une leçon. À partir du moment où l’on prétendait expliquer certains traits actuels de l’esprit humain par un évènement, =中略=il était permis d’essayer d’en reconstituer scrupuleusement la séquence. >(562頁)
訳:この点に関してフロイトの著作は一つの例であり、教訓でもある。一つの事例をして人の精神の特定の動きが説明できると主張して、その結末までを巧妙に再現できると己を信じてしまう。
(leçonを教訓とした、前の「一例un example」の不定冠詞とこの語もune不定冠詞で用いられる。後ろ向きの語感が滲む。「反面教師」と受け取ると理解がなお速い。レヴィストロース感性とするよりフランス語での一般用法と受け止めよう。
フロイト著Totem et tabou批判に入る前に要点をまとめると;
1 近親姦忌避の未開人の心情は脅迫神経症患者のそれと類似する。またそれを希求する精神(母親願望)は小児的発達段階でもある。
2 精神は3の発達段階を有する。小児的自己愛。次が近親愛トーテム崇拝。3段階目は外界との交流。(著作を読まずネット情報の取りまとめ)

<L’échec de Totem et tabou, loin d’être inhérent au dessein que s’est proposé son auteur, tient plutôt à l’hésitation qui l’a empêché de se prévaloir, jusqu’au bout, des conséquences impliquées dans ses prémisses. >(同)
訳:Totem et tabouの失敗は著者がその説を進展させようとした筋書きには程遠く、むしろ展開するに戸惑いを感じている事が起因である。この躊躇は著作の最後まで継続し、前提としているところから導かれるはずの結論に至らなかった事実に繋がる。

<Il fallait voir que des phénomènes mettant en cause la structure fondamentale de l’esprit humain, n’ont pas pu apparaitre une fois pour toutes : ils se répètent tout entiers au sein de chaque conscience ; 後略>(同)
訳:以下を留意しなければならぬ。様々な「事象」が人の精神の根源構造から発生するとしても、一の「事象」にすべてが表出することはない。各個の意識のなかでそれらが繰り返し現れ、この過程に総体が認められるのだ。

「事象phénomènes」について。外部にあって個が検知できる事柄との理解が一般と思うが、それは第2義。<tout ce qui se manifeste à la conscience par l’intermédiaire des sens感覚を仲介して意識の内にうごめくすべて。Robertから>が一義。精神の内部現象である。「事象」では外部現象と受け止められてしまう、別語を探すと「心象」が近いけれど心の視覚あるいは感性の記憶の意味が強いから、誤りを伝えそうだ。「内象」こんな語は無いけれど、精神内で外界に呼応して意識として活動するとの意をこめたつもり、これを使いたい。
<内象は人の精神の根源であり、それをしてすべての精神活動の起因とするのだが、現れは一回限りでない。繰り返し現れ、この過程に総体が認められる>
フロイトの精神分析方法論を批判している(と解釈する)。
一の内象が一の外界のモノに呼応する。例えば母親を慕う心情は「小児的姦淫願望」と決めつける短絡を批判する。なぜなら内象の外界への呼応過程は「精神の根本構造」に源を持つから。思母心情は「根本構造」に還元されるべきである。それを幼児願望に結びつける作為はこじつけ。ここに「思い込みpressentiment」を指摘している。

<l’explication dont ils (phénomènes) relèvent appartient à un ordre qui transcende à la fois les successions historiques et les corrélations du présent. >(同) 訳:内象が依存するところの表現は、ある一つの規則に取り仕切られる。それは種の歴史継続性と、現在の連関に優越するのだ。
理解し難い1文だ。何をレヴィストロースは言いたいかと頭を捻るが、こじつけ総動員で頑張ろう!
Explicationとは口頭で表現するではなく、原因、理由の説明、釈明の義が強い(辞書では第二義。C’est votre erreur ! Quelle est l’explication ? これってあなたのミスね。釈明できる-がこの用法)。内象が根ざす「釈明」とは何か、そして釈明はとある規則性に結びつく。その規則が<種の歴史と、その現在の連関に優越する>と教えてくれるのだが。
内象を抱くとは(己の性向、行動などの原因の)釈明に繋がる。ある一つの規則とは文化、社会である。
段階に分けて整理すると;
1 外界に呼応する意識、記憶(phénomènes内象)
2 何故、そうした内象を抱くか、その仕組(explication)を顕にする
3 それは規則(文化)に属す

この文でレヴィストロースは、深層心理を核に置くフロイト心理学とは別個の心理分析をチラつかせている。それは社会学の立ち位置から心理を説明する学説である。
社会と規則が心理を抑制する。人が内象をいだきなぜそれを心に秘めるかの釈明(これがexplication心理、感情、行動です)は大元の規則(文化)に由来する。
婚姻をめぐる部族民の心理展開に、この解釈を当てはめる。特にexplication理由付けはどのように表出するかを推定しよう。

同盟する族民の娘を見初めた、これは内象。思い切って「ボクと交際してくれ」と言い寄る。これが釈明。同盟の娘を選び系統に属する娘には声をかけない。なぜならそれらを姉(妹)で呼び婚姻対象ではないと知るから。社会制度に規制される心理と釈明が見える。
人の行動は「種としての過去の積み重ね=生物学的要素」や「その現在の連関=個人的表現」に二分されるとしてphylogénèse(系統発生)、ontogénèse(個体発生)の語を割り当てている。特に後者は規則=文化の支配を受ける。フロイト的あるいはピアジェ的(精神発達論)発達心理への否定の文である。

前回に提示したパワーポイント図を再掲する。



図は見ての通りです。中央横線を画期としたが、自然(横取り)から文化(共有)への跳躍部分です。婚姻にあってそれは系統と同盟の結合であります。生物学では古くからの系統・個別発生論をグールドが復活させた、本稿では解説しない(できない)。心理の発達(ピアジェなど)は全ての固がその流れを経るのなら系統発生の理屈になるが同調しにくいレヴィストロースの意見を右に入れている。プルードンの無政府主義が文化から自然に逆行するのはご参考に。

フロイト、ピアジェらの心理学は人の心理の「機械的」発達を述べる。機械的とはすべての個の心理が発達するとの意味である。レヴィストロースが「それはphylogénèse系統発生なのかontogénèse個体発生なのか」と尋ねた(PenseesSauvages野生の思考)。レヴィストロースとしては論戦の概念を確認したかったのだろう。ピアジェから返事はなかった。
エディプスコンプレックスとは「発生原理」と関係がないとすれば、タダの色情狂か、すると病気だ、1000人に一人くらいだろうからことさら騒ぐ要はなしと判断したのかもしれない。

親族の基本構造の結語章9 心理学による近親婚禁止の批判2の了


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