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フランスをツアーで旅行した人が、4,5人一緒でパリのホテル近くの日本料理店に行ったそうである。
スキヤキと寿司のセットを注文したが、目の前に出てきた日本食は、盛り付けが大雑把で、和食独特の繊細で、上品なな感じがなかったようで、食べてみて、味付けに何となく違和感を持ってしまった、という話を聞いた。
厨房の方を見ると、働いている人たちは、白人や、明らかに日本人ではないアジア人だったようだ。
恐らくは、正式に日本料理の修業をしたことのない人たちが料理を作っているのではないかと思ってしまった、ということを旅行から帰ってきて、そんな話をしてくれた。
それでも、美味しければいいのだが、「いい加減な」日本料理を食べさせられたという気持ちになって、後味が必ずしもいいものでなかったようである。
考えてみると、現地のフランス人たちは、ここで食べるのが日本料理だと思ってしまい、本来の味を知らないことになるというのは怖い話である。
ニューヨークで入った寿司店では、日本で修業を積んだ寿司職人が握っていて、日本で食べるのと全く同じか、それ以上に日本的な味がした。
目の前で握ってくれたその職人は、
「どうですか!ニューヨークの寿司は、世界一ですよ!」と言っていた。
「東京のどこで食べるのより、ネタもいいし、新鮮で、美味しいはずですよ!」と自慢げに言っていたのを覚えている。
この寿司店などは、まぎれもなく、正真正銘の和食店だと言えると思うのである。
マウイ島のあるリゾートホテルのレストランの中に寿司カウンターがあった。
頭に鉢巻をした、いかにも寿司職人らしい風体だったが、日本人ではなかった。
母親が日系のアメリカ人だということだった。
カウンターに座った日本人のお客が、
「トロ!」とか、
「イカ!」とか注文すると、
「ハイ!」とか、返していたが、ほとんど日本語をしゃべれない。
いろいろ話をする機会があって、彼は、元々自動車の販売店をやっていたが、倒産して、その後の就職口として、どんな経緯かわからないが、寿司を握るようになった。
「私は、寿司職人になるための修行をしたことがありません」と、小さい声で言ったいた。
どこで覚えて来たのか、見よう見まねか、寿司をそれらしく握っていたのである。
「いい加減」な職人が、寿司を握り、出された寿司を満足げに食べる日本人を見ると、考えてみると、日本食も、日本人も舐められたものだと思ってしまう。
大学で、日本語で話しかけてくるアジア出身の学生がいた。
「日本語をどこで覚えたの?」と聞くと、
「ワイキキの日本料理店でアルバイトをしているのです。そこで覚えました」ということだった。
日本語が出来ると、いいアルバイト口があるということで、暇をみては日本語の勉強に精を出したようである。
テーブルを回ってお客さんにサービスする仕事がほとんどだが、忙しい時には、厨房に入って、すしを握ったり、かつ丼を作ったりもすると言った。
オーナーも日本人でなく、アジア系の人だということであった。
日本料理がそんなに簡単に作れて、テーブルに出され、それを食べる日本人も、違和感なく、美味しく食べているのかと思うと複雑な気持になってくる。