こんにちは/こんばんは。
今回はお天気についてのイントロではなく、ここ三日ほどでニュースになっている出来事について直(ちょく)に入ります。一種のBreaking newsなんですね、アイスランドでは。
それは「テロ計画の阻止」です。
清涼感アップ用ピック
Myndin er eftir Daniel_Schoibl@unsplash.com
今、これを書いているのは金曜日なのですが、おとといの水曜日の昼過ぎあたりにニュースが流れました。それは「警察がVikingasveitビーキンガ・スヴェイト(アイスランド警察のSWAT 「バイキング・チーム」の意)を投入して、大規模な作戦に従事している」というものでした。
このニュースは曖昧で、何の目的で、誰を対象にして、どこで行われているのか等については触れていません。後から分かってきた様子では、報道管制というよりは、メデイアも詳細を知らされていなかったようです。
その夜だったか、木曜日になってからだったかはっきりしないのですが、「四人の男性が逮捕され、作戦は終了した」という「お知らせ」的なニュースの入電。
そして、木曜日の昼過ぎになって、「午後三時から首都圏警察本部で記者会見が開かれ、テレビ・ラジオでも中継される」というこれもお知らせ。運転中にラジオで耳にしたのですが「麻薬関係の事件だろうな」と私は想像していました。
ところが、記者会見で明らかにされたことは、これが「アイスランド国内でのテロ計画」の疑いに基づく作戦であったとのこと。
逮捕されたのは、全員二十台のアイスランド人男性たちで、彼らのアジトからは数十丁の銃火器と数千発の弾薬が押収されたそうです。押収された短銃は、すべてかどうかはっきりしないのですが、3Dプリンターで作られたものも入っていたようです。
一部の報道のニュアンスでは、このアジトは一味がせっせと短銃を製作する3Dプリンター工場だったみたいです。とすると、全部3D仕様なのかな?
当局はかなり前から情報を入手し、念入りに捜査作戦を準備していたとのことで、当日は50人の警察官が作戦に従事しました。アイスランドの警察官は全国で750人しかいないそうなので、これはかなりのマンパワーですね。
ちなみに作戦に従事したビーキンガスヴェイトは、アイスランド警察で唯一の完全武装ポリスです。
アイスランドのSWAT ビーキンガスヴェイト
Myndin er ur Visir.is/VILHELM
私自身はこの記者会見は見ていなかったので、どこまでが会見で発表され、どこからがその後のメディアの追跡取材で明らかになったことなのか判然としないことをあらかじめお断りしておきます。
テロの対象とされたのはアルシンキ(アイスランド国会)と警察だったとのこと。さらにしばらくして、来週開かれる警察の年次慰労会がターゲットだった可能性が高いという情報。
ニュースのインタビューに答えていた国家警察(日本語だとちょっと?の響きがありますが、要するに国の警察本部のこと)長官のシーグリズルさんは、「捜査はまだ続いているので、公表できる事実はまだ限られています」
ですから、押収された武器が短銃だけではないかもしれないのですが、爆弾や簡易ロケット砲などの破壊力の強いものは存在しなかったようです。
余談ですが、シーグリズル長官は、私が以前居候していたネス教会の牧師さんの奥さん。アイスランド的人脈規模です。
アイスランドの警察のトップは女性 シーグリズル長官
Myndin er ur Kjarninn.is
で、大陸のヨーロッパ諸国や日本の人たちから見れば、この規模のテロ計画では一大事とまではいかないでしょう。日本でなら「組」の抗争ですらもっとずっと規模は大きいだろうと思いますし、どう見ても「テロのプロ」の仕事のようには見受けられません。
ですが、ここアイスランドでは、このような事件あるいは企てはこれまでなかったことなのです。歴史上の初物。ですから、このニュースはそれなりのショックを社会に与えています。
カトリーン首相もニュースのインタビューを受けていましたが、彼女は作戦進行中から、その内容を承知していたとのこと。他の国会議員は知らされていなかったようです。
「アイスランドが、このような面において他のヨーロッパ諸国のようになってきたことは残念だし、もちろん不安にもなりました」と結構ブルった表情で答えていましたね。そりゃそうですよね。自分がテロの標的になったら普通ビビりますよね。
この夏以降でも、国内の殺人事件は二件。二件ともギャングとかは関係なく、知人・隣人間でのいざこざが原因。麻薬の押収量も着実に増加しているし、この国の犯罪や闇社会の力が上昇中であることは間違いありません。
アイスランドでこういう事件が起きた時に、たとえば日本と多少違うだろうな、と思われるのは、社会が小さい分だけ「身近」な出来事なのですよ。物理的にも心理的にも。
大阪でテロ計画が摘発されても、東京の人には「遠い出来事」でしょうが、同じ町内会で同様のことがあれば、それなりに近隣住民は不安になるはずです。人口が八王子の半分強しかないアイスランドでは、すべてがそういう感じなのです。
今回逮捕された一味の素性はまだはっきりしていません。メディアの観測ではおそらく国内の極右グループの仲間ではないかとのこと。こちらにもいくつかの極右の集まりがあります。
ショックが顔に出ていたカトリーン首相のインタビュー
Myndin er ur Ruv.is
この夏に、難民の人たちが多く宿泊しているアパートのある地域で「難民ではなく、アイスランド人を優先しろ」という内容のアジビラがまかれたりしましたが、これもこれらのグループによるものと推測されています。
そのうちのひとつはNordurvigiノルズルヴィーイ「北の砦」と呼ばれ、ノルウェーの同種の組織の子分のようなグループ。Nordurvigiは声明を出して関わりを否定しています。「我々はテロ組織ではない」と。ウハハ。確かに今はまだ「テロ思想集団」でしょうね。
モルグンブラウズィズ紙の報道によると、逮捕された一味は、2011年にノルウェーのウトヤ島で77人の若者の生命を奪うテロを単独で行ったブレイビクを手本にしていたとのこと。
ブレイビクは労働党の掲げる移民政策に反対し、特にイスラムへの憎悪を持ち、ウトヤ島での労働党ユースの大会を襲撃したのでした。
アイスランドの極右も総じて反移民です。ネオナチ。そうなると、こちらの移民支持者や移民自身がテロの標的になる可能性は事実あります。そう考えると、ワタシもやばいかも。
十年くらい前にもネットのグループチャットとかで、社会で積極的に発言する他の幾人かの移民の人たちと並べられて「日本産の黄色いトマト(Toma-to)たちを一緒に始末しないか」とかの呼びかけがなされたことがありました。
その頃は「そんな実行力ないじゃん」と思ったので、気にもしませんでしたが、最近の負の方向への変化を鑑みると、これからは多少気をつける必要はあるかもしれないですね。
とはいっても、どうやって気をつければいいのか?3Dピストルを持った人間が近づいてきていきなりズドン、とかだったら事実上個人では防ぎようがないですよね。VIPでもない人物を「絶対仕留めよう」と決意したら、それを防ぐのはかなり難しいだろうと想像します。
アメリカCNNでも報道
Myndin er ur Cnn.com
今回の一味にどのような背景があるのか、ノルウェーあるいは他の外国と関係があるのか否か、これからの取り調べで明らかになっていくものと考えます。同時に社会全体の警戒というか、テロ予防の仕方とかも議論されることでしょう。
ですが、それに関連して、もうひとつ気になることを最後にひとつ。
こういう事件が起きると、必ず「反動」があります。もうすでに「警察官の数を増やさないと」「武器も増強しないと」「国境管理を見直さないと」等々の意見がそこここから聞かれています。
本当に必要な対策はもちろんありましょうが、同時に、行き過ぎた反動というものもあります。極右とはいかない右派がこういうニュースを利用しようと動き出したりもするものなのです。だからその点はよくよくフォローしていかないと...
というわけで、今回はIceland Today 「これもアイスランドだから」の回でした。
*これは個人のプライベート・ブログであり、公的なアイスランド社会の広報、観光案内、あるいはアイスランド国民教会のサイトではありません。記載内容に誤りや不十分な情報が含まれることもありますし、述べられている意見はあくまで個人のものですので、ご承知おきください。
藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com
Church home page: Breidholtskirkja/ International Congregation
Facebook: Toma Toshiki
今回はお天気についてのイントロではなく、ここ三日ほどでニュースになっている出来事について直(ちょく)に入ります。一種のBreaking newsなんですね、アイスランドでは。
それは「テロ計画の阻止」です。
清涼感アップ用ピック
Myndin er eftir Daniel_Schoibl@unsplash.com
今、これを書いているのは金曜日なのですが、おとといの水曜日の昼過ぎあたりにニュースが流れました。それは「警察がVikingasveitビーキンガ・スヴェイト(アイスランド警察のSWAT 「バイキング・チーム」の意)を投入して、大規模な作戦に従事している」というものでした。
このニュースは曖昧で、何の目的で、誰を対象にして、どこで行われているのか等については触れていません。後から分かってきた様子では、報道管制というよりは、メデイアも詳細を知らされていなかったようです。
その夜だったか、木曜日になってからだったかはっきりしないのですが、「四人の男性が逮捕され、作戦は終了した」という「お知らせ」的なニュースの入電。
そして、木曜日の昼過ぎになって、「午後三時から首都圏警察本部で記者会見が開かれ、テレビ・ラジオでも中継される」というこれもお知らせ。運転中にラジオで耳にしたのですが「麻薬関係の事件だろうな」と私は想像していました。
ところが、記者会見で明らかにされたことは、これが「アイスランド国内でのテロ計画」の疑いに基づく作戦であったとのこと。
逮捕されたのは、全員二十台のアイスランド人男性たちで、彼らのアジトからは数十丁の銃火器と数千発の弾薬が押収されたそうです。押収された短銃は、すべてかどうかはっきりしないのですが、3Dプリンターで作られたものも入っていたようです。
一部の報道のニュアンスでは、このアジトは一味がせっせと短銃を製作する3Dプリンター工場だったみたいです。とすると、全部3D仕様なのかな?
当局はかなり前から情報を入手し、念入りに捜査作戦を準備していたとのことで、当日は50人の警察官が作戦に従事しました。アイスランドの警察官は全国で750人しかいないそうなので、これはかなりのマンパワーですね。
ちなみに作戦に従事したビーキンガスヴェイトは、アイスランド警察で唯一の完全武装ポリスです。
アイスランドのSWAT ビーキンガスヴェイト
Myndin er ur Visir.is/VILHELM
私自身はこの記者会見は見ていなかったので、どこまでが会見で発表され、どこからがその後のメディアの追跡取材で明らかになったことなのか判然としないことをあらかじめお断りしておきます。
テロの対象とされたのはアルシンキ(アイスランド国会)と警察だったとのこと。さらにしばらくして、来週開かれる警察の年次慰労会がターゲットだった可能性が高いという情報。
ニュースのインタビューに答えていた国家警察(日本語だとちょっと?の響きがありますが、要するに国の警察本部のこと)長官のシーグリズルさんは、「捜査はまだ続いているので、公表できる事実はまだ限られています」
ですから、押収された武器が短銃だけではないかもしれないのですが、爆弾や簡易ロケット砲などの破壊力の強いものは存在しなかったようです。
余談ですが、シーグリズル長官は、私が以前居候していたネス教会の牧師さんの奥さん。アイスランド的人脈規模です。
アイスランドの警察のトップは女性 シーグリズル長官
Myndin er ur Kjarninn.is
で、大陸のヨーロッパ諸国や日本の人たちから見れば、この規模のテロ計画では一大事とまではいかないでしょう。日本でなら「組」の抗争ですらもっとずっと規模は大きいだろうと思いますし、どう見ても「テロのプロ」の仕事のようには見受けられません。
ですが、ここアイスランドでは、このような事件あるいは企てはこれまでなかったことなのです。歴史上の初物。ですから、このニュースはそれなりのショックを社会に与えています。
カトリーン首相もニュースのインタビューを受けていましたが、彼女は作戦進行中から、その内容を承知していたとのこと。他の国会議員は知らされていなかったようです。
「アイスランドが、このような面において他のヨーロッパ諸国のようになってきたことは残念だし、もちろん不安にもなりました」と結構ブルった表情で答えていましたね。そりゃそうですよね。自分がテロの標的になったら普通ビビりますよね。
この夏以降でも、国内の殺人事件は二件。二件ともギャングとかは関係なく、知人・隣人間でのいざこざが原因。麻薬の押収量も着実に増加しているし、この国の犯罪や闇社会の力が上昇中であることは間違いありません。
アイスランドでこういう事件が起きた時に、たとえば日本と多少違うだろうな、と思われるのは、社会が小さい分だけ「身近」な出来事なのですよ。物理的にも心理的にも。
大阪でテロ計画が摘発されても、東京の人には「遠い出来事」でしょうが、同じ町内会で同様のことがあれば、それなりに近隣住民は不安になるはずです。人口が八王子の半分強しかないアイスランドでは、すべてがそういう感じなのです。
今回逮捕された一味の素性はまだはっきりしていません。メディアの観測ではおそらく国内の極右グループの仲間ではないかとのこと。こちらにもいくつかの極右の集まりがあります。
ショックが顔に出ていたカトリーン首相のインタビュー
Myndin er ur Ruv.is
この夏に、難民の人たちが多く宿泊しているアパートのある地域で「難民ではなく、アイスランド人を優先しろ」という内容のアジビラがまかれたりしましたが、これもこれらのグループによるものと推測されています。
そのうちのひとつはNordurvigiノルズルヴィーイ「北の砦」と呼ばれ、ノルウェーの同種の組織の子分のようなグループ。Nordurvigiは声明を出して関わりを否定しています。「我々はテロ組織ではない」と。ウハハ。確かに今はまだ「テロ思想集団」でしょうね。
モルグンブラウズィズ紙の報道によると、逮捕された一味は、2011年にノルウェーのウトヤ島で77人の若者の生命を奪うテロを単独で行ったブレイビクを手本にしていたとのこと。
ブレイビクは労働党の掲げる移民政策に反対し、特にイスラムへの憎悪を持ち、ウトヤ島での労働党ユースの大会を襲撃したのでした。
アイスランドの極右も総じて反移民です。ネオナチ。そうなると、こちらの移民支持者や移民自身がテロの標的になる可能性は事実あります。そう考えると、ワタシもやばいかも。
十年くらい前にもネットのグループチャットとかで、社会で積極的に発言する他の幾人かの移民の人たちと並べられて「日本産の黄色いトマト(Toma-to)たちを一緒に始末しないか」とかの呼びかけがなされたことがありました。
その頃は「そんな実行力ないじゃん」と思ったので、気にもしませんでしたが、最近の負の方向への変化を鑑みると、これからは多少気をつける必要はあるかもしれないですね。
とはいっても、どうやって気をつければいいのか?3Dピストルを持った人間が近づいてきていきなりズドン、とかだったら事実上個人では防ぎようがないですよね。VIPでもない人物を「絶対仕留めよう」と決意したら、それを防ぐのはかなり難しいだろうと想像します。
アメリカCNNでも報道
Myndin er ur Cnn.com
今回の一味にどのような背景があるのか、ノルウェーあるいは他の外国と関係があるのか否か、これからの取り調べで明らかになっていくものと考えます。同時に社会全体の警戒というか、テロ予防の仕方とかも議論されることでしょう。
ですが、それに関連して、もうひとつ気になることを最後にひとつ。
こういう事件が起きると、必ず「反動」があります。もうすでに「警察官の数を増やさないと」「武器も増強しないと」「国境管理を見直さないと」等々の意見がそこここから聞かれています。
本当に必要な対策はもちろんありましょうが、同時に、行き過ぎた反動というものもあります。極右とはいかない右派がこういうニュースを利用しようと動き出したりもするものなのです。だからその点はよくよくフォローしていかないと...
というわけで、今回はIceland Today 「これもアイスランドだから」の回でした。
*これは個人のプライベート・ブログであり、公的なアイスランド社会の広報、観光案内、あるいはアイスランド国民教会のサイトではありません。記載内容に誤りや不十分な情報が含まれることもありますし、述べられている意見はあくまで個人のものですので、ご承知おきください。
藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com
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