私は法律家ではありませんが(それでも一応「法学部卒」なんですけどね、政治学の方で)、仕事の上ではかなり法律を読む必要があります。その関わり方は「法の解釈」云々というよりは、その法が人の権利を正しく保障するものか?ということの方がメインになります。
法というのは「完全」ということがありませんので、何かの法が権利を侵害していたり、不当な差別になっていることもあります。そういう場合には、私はクレーマーになるわけです。
移民や難民の人たちのつながりが職務の中心にありますので、当然これらの人々の権利に関わる法律が、つまり外国人法や外国人の労働権に関する法等が私にとって関わりの多いものになります。
加えて、結婚や離婚に関する法、子供に関する法、公序良俗に関する一般法等も深い付き合いになります。「公序良俗」というのは漠としていますが、実際に問題となるのはいわゆる「ヘイト·スピーチ」に関する事柄ですね。
さて、外国人法は年々着々と?変化しています。今年の一月からは多少大がかりな改正(または改悪)があり、その法案は昨年の夏頃よりフォローしたり、コメントを進言したりする機会がありました。
ですが、私自身が難民申請者の人たちとの実際的なアサインメントが多数あったため、あまり法改正には注意を払ってきませんでした。他にも実際の法律家や、難民の権利のために働いている人も多数ありますので、「お任せ」的にしてしまっていたわけです。というのはつまり怠慢でした。
で、今年の一月になって、私が世話役になっている祈りの会のひとりの難民申請者の青年が、アイスランド女性と結婚しました。この青年は強制送還が迫っており、そのことがその時期での結婚を決意するきっかけになったのです。ですが、これは「偽装結婚」とは違います。
「偽装結婚」というのは、例えば配偶者としての滞在権利を得ることを目的として結婚することです。非常に多くの人がこの「偽装結婚」という言葉を、特に移民や難民に対して使います。もう十年以上前からですが。
私の意見では偽装結婚とは、本当に限られた意味でのみ用いられ得ます。例えば当該のふたりがまったく面識がなく、かつ金銭の授受等が確認された場合などです。
「知り合って三ヶ月でゴールイン」なんていうのは、世にかなりありますからね。それだけで「偽装結婚」呼ばわりされたら憤慨する人が多く出てくるでしょう。
さて、くだんの青年とその奥さんなのですが、彼らはもう一年前から知り合い、付き合っていました。ですが、「結婚」ということはすぐには考えていなかったと言っています。私からしてみれば、とても納得のできることで、やはり「難民申請者」という立場をクリアしてから一緒になりたいと思うのは自然なことです。
ですが、何事にも「きっかけ」というものはあり得ます。結婚されている皆さんはどうでしょうか?結婚を決断するきっかけはまったくありませんでしたか?自然になんとなく一緒になっていたとか?(*^^*)
このふたりは「送還」という厳しい現実に直面した時に、「お互いを失いたくない」という気持ちを実感したのです。そして結婚しました。送還の日の直前でした。
昨年までなら、結婚によって「送還」は差し止めとなり、もう一度レヴューが行われます。よほどの「偽装結婚」の証拠がない限り、アイスランド人の配偶者として滞在許可がおります。
ですから今回もそうなるだろう、と思っていたのですが、実際には彼は送還され北アフリカの国へ戻されてしまいました。そこで初めて、私は一月からの法改正、いや法改悪のひとつが外国人配偶者への滞在許可に関する新条件であったことを知りました。
それは結婚するだけでは不十分で、その結婚が「一年以上継続していること」が必要となったのです。アイスランドは「届け出同棲」が制度化していますが、この場合も同様とされました。
可哀想に、新婚カップルは瞬く間に引き裂かれてしまい、いまだにそのままです。
私はこの改悪の件を知らなかった自分の怠慢を呪いましたが、なぜそんな改悪がぬけぬけと世間の批判を通り抜けてしまったのかも不思議になりました。
そして次の瞬間に別のことに気がつきました。三月末に結婚する予定のアイスランド人青年と邦人女性があり、私が式を担当することになっていました。
花嫁さんは日本からやってきます。ふたりは挙式後はアイスランドで新生活を始める予定だったのです。
(*実はそのカップルの式は昨日めでたく執り行われました)
しかし、この改悪によれば、花嫁さんはアイスランドでの配偶者資格での滞在許可を取れないことになってしまいます。なにしろ新婚ホヤホヤなんですから。一年経っていません。
ということは、これはEU外からの外国人で、アイスランド人と結婚して、ここで新生活を始めることを計画している人すべてにとっての困難となってしまうわけです。
私はすぐにこの青年と連絡を取り、この問題を説明しました。自分でも問題を取り上げて、関係諸庁に訴えようと思いましたが、同時に青年にも法務省へ自分から相談するように勧めました。不平はあちらこちらから聞こえてこないと。
時を移さず、まったく同様の立場にあったアイスランド男性、日本女性のカップルから相談を受けました。その時点でまだ改悪から一ヶ月経ったかどうかという時期でしたよ。
すると、先の青年が私に連絡してくれて「この問題はすでに再改正する方向で話し合いが法務省でなされているそうです。なんでも間違って法律に入ってしまったとか」ハッ?でも再改正されるなら、それは良いこと。
引き裂かれた新婚カップルのこともあったので、これで救いの道が開かれる、と多少慰められました。
そして十日ほど前に、改正案がメイルで届きました。国会では新法の制定や現行法の改正の時に、問題に関わりのある関係者に意見を求めます。これはよい仕組みだと思います。
その改正案を先週熟読したのですが、はっきり言って曖昧なというか不必要に難解な文で、正しい解釈に行き着くのに苦労しました。オフィスのある教会の主任牧師さんに相談しましたが「わからん」新任のかわいい女性牧師さんが法学士とわかり、彼女にも相談しました。「曖昧ねー...」
問題はですねえ、改正されるはずだった一文が改正されていなかったことなのです。それは「(配偶者資格の滞在許可のための)条件は、(略) 当該者が一年以上継続している登録同棲もしくは婚姻関係にあること」。
何だ、何も変わっていないじゃないか?と思い、正直がっかりしました。頭にも来ましたし、イヤになりましたね、この件が。
ですが、法案に付属している説明には「一年間の条件は登録同棲の場合のみに適用される。もとより新外国人法は、外国人配偶者への滞在許可を妨げる意図ではなかった」などと書かれているのです。
で、四時間、考えましたよ。オフィスで。どういう論理的整合性がそこにあるのかを...
そしてやっとわかりました。
迷惑の元、となった条文
問題の条文はこのように読まれるべきだったのです。「(配偶者資格の滞在許可のための)条件は、(略) 当該者が一年以上継続している登録同棲/ (区切り) もしくは婚姻関係にあること」
日本語に訳すと多少ぼやけてしまいますが、アイスランド語ではこれは誰しもが「一年以上継続している」という節が「登録同棲」と「婚姻関係」の双方にかかっていると読めてしまいます。
そうではないことを示すために、後続の文に必要最小限の改正がなされているのでした。これも相当法律の知識がなければわからないようなポイントでした。
ですから、この改正法案がこのまま国会の審議を通過すれば、邦人の花嫁さんらのカップルは何も心配が要らなくなります。送還されてしまった青年も、改めてビザ申請して再度来アできるものと思います。今度はアイスランド人の配偶者として。
加えて、この法案の付属の趣旨説明に見られるように、もし先の改悪が「そうは意図していなかった」というようなミスであったのなら、私は送還された青年と奥さんのカップルは損害賠償を受ける資格があると思います。もともと、送還されるべきではなかったことになりますから。
先に「なぜ、このような改悪がぬけぬけとくぐり抜けたのか?」と問いましたが、おそらくは審議の過程で訂正されたはずの古い草案が、どこかで入れ替わってしまったのではないか、と想像します。
でも、そんなのも言い訳ですよね。罪ない人たちをこれだけ失望させたり、心配させたりしたのですから。法務省、それに国会はもう少し襟を正して自らの責任に向き合ってってもらいたいものです。
応援します、若い力。Meet Iceland
藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com
Home Page: www.toma.is
法というのは「完全」ということがありませんので、何かの法が権利を侵害していたり、不当な差別になっていることもあります。そういう場合には、私はクレーマーになるわけです。
移民や難民の人たちのつながりが職務の中心にありますので、当然これらの人々の権利に関わる法律が、つまり外国人法や外国人の労働権に関する法等が私にとって関わりの多いものになります。
加えて、結婚や離婚に関する法、子供に関する法、公序良俗に関する一般法等も深い付き合いになります。「公序良俗」というのは漠としていますが、実際に問題となるのはいわゆる「ヘイト·スピーチ」に関する事柄ですね。
さて、外国人法は年々着々と?変化しています。今年の一月からは多少大がかりな改正(または改悪)があり、その法案は昨年の夏頃よりフォローしたり、コメントを進言したりする機会がありました。
ですが、私自身が難民申請者の人たちとの実際的なアサインメントが多数あったため、あまり法改正には注意を払ってきませんでした。他にも実際の法律家や、難民の権利のために働いている人も多数ありますので、「お任せ」的にしてしまっていたわけです。というのはつまり怠慢でした。
で、今年の一月になって、私が世話役になっている祈りの会のひとりの難民申請者の青年が、アイスランド女性と結婚しました。この青年は強制送還が迫っており、そのことがその時期での結婚を決意するきっかけになったのです。ですが、これは「偽装結婚」とは違います。
「偽装結婚」というのは、例えば配偶者としての滞在権利を得ることを目的として結婚することです。非常に多くの人がこの「偽装結婚」という言葉を、特に移民や難民に対して使います。もう十年以上前からですが。
私の意見では偽装結婚とは、本当に限られた意味でのみ用いられ得ます。例えば当該のふたりがまったく面識がなく、かつ金銭の授受等が確認された場合などです。
「知り合って三ヶ月でゴールイン」なんていうのは、世にかなりありますからね。それだけで「偽装結婚」呼ばわりされたら憤慨する人が多く出てくるでしょう。
さて、くだんの青年とその奥さんなのですが、彼らはもう一年前から知り合い、付き合っていました。ですが、「結婚」ということはすぐには考えていなかったと言っています。私からしてみれば、とても納得のできることで、やはり「難民申請者」という立場をクリアしてから一緒になりたいと思うのは自然なことです。
ですが、何事にも「きっかけ」というものはあり得ます。結婚されている皆さんはどうでしょうか?結婚を決断するきっかけはまったくありませんでしたか?自然になんとなく一緒になっていたとか?(*^^*)
このふたりは「送還」という厳しい現実に直面した時に、「お互いを失いたくない」という気持ちを実感したのです。そして結婚しました。送還の日の直前でした。
昨年までなら、結婚によって「送還」は差し止めとなり、もう一度レヴューが行われます。よほどの「偽装結婚」の証拠がない限り、アイスランド人の配偶者として滞在許可がおります。
ですから今回もそうなるだろう、と思っていたのですが、実際には彼は送還され北アフリカの国へ戻されてしまいました。そこで初めて、私は一月からの法改正、いや法改悪のひとつが外国人配偶者への滞在許可に関する新条件であったことを知りました。
それは結婚するだけでは不十分で、その結婚が「一年以上継続していること」が必要となったのです。アイスランドは「届け出同棲」が制度化していますが、この場合も同様とされました。
可哀想に、新婚カップルは瞬く間に引き裂かれてしまい、いまだにそのままです。
私はこの改悪の件を知らなかった自分の怠慢を呪いましたが、なぜそんな改悪がぬけぬけと世間の批判を通り抜けてしまったのかも不思議になりました。
そして次の瞬間に別のことに気がつきました。三月末に結婚する予定のアイスランド人青年と邦人女性があり、私が式を担当することになっていました。
花嫁さんは日本からやってきます。ふたりは挙式後はアイスランドで新生活を始める予定だったのです。
(*実はそのカップルの式は昨日めでたく執り行われました)
しかし、この改悪によれば、花嫁さんはアイスランドでの配偶者資格での滞在許可を取れないことになってしまいます。なにしろ新婚ホヤホヤなんですから。一年経っていません。
ということは、これはEU外からの外国人で、アイスランド人と結婚して、ここで新生活を始めることを計画している人すべてにとっての困難となってしまうわけです。
私はすぐにこの青年と連絡を取り、この問題を説明しました。自分でも問題を取り上げて、関係諸庁に訴えようと思いましたが、同時に青年にも法務省へ自分から相談するように勧めました。不平はあちらこちらから聞こえてこないと。
時を移さず、まったく同様の立場にあったアイスランド男性、日本女性のカップルから相談を受けました。その時点でまだ改悪から一ヶ月経ったかどうかという時期でしたよ。
すると、先の青年が私に連絡してくれて「この問題はすでに再改正する方向で話し合いが法務省でなされているそうです。なんでも間違って法律に入ってしまったとか」ハッ?でも再改正されるなら、それは良いこと。
引き裂かれた新婚カップルのこともあったので、これで救いの道が開かれる、と多少慰められました。
そして十日ほど前に、改正案がメイルで届きました。国会では新法の制定や現行法の改正の時に、問題に関わりのある関係者に意見を求めます。これはよい仕組みだと思います。
その改正案を先週熟読したのですが、はっきり言って曖昧なというか不必要に難解な文で、正しい解釈に行き着くのに苦労しました。オフィスのある教会の主任牧師さんに相談しましたが「わからん」新任のかわいい女性牧師さんが法学士とわかり、彼女にも相談しました。「曖昧ねー...」
問題はですねえ、改正されるはずだった一文が改正されていなかったことなのです。それは「(配偶者資格の滞在許可のための)条件は、(略) 当該者が一年以上継続している登録同棲もしくは婚姻関係にあること」。
何だ、何も変わっていないじゃないか?と思い、正直がっかりしました。頭にも来ましたし、イヤになりましたね、この件が。
ですが、法案に付属している説明には「一年間の条件は登録同棲の場合のみに適用される。もとより新外国人法は、外国人配偶者への滞在許可を妨げる意図ではなかった」などと書かれているのです。
で、四時間、考えましたよ。オフィスで。どういう論理的整合性がそこにあるのかを...
そしてやっとわかりました。
迷惑の元、となった条文
問題の条文はこのように読まれるべきだったのです。「(配偶者資格の滞在許可のための)条件は、(略) 当該者が一年以上継続している登録同棲/ (区切り) もしくは婚姻関係にあること」
日本語に訳すと多少ぼやけてしまいますが、アイスランド語ではこれは誰しもが「一年以上継続している」という節が「登録同棲」と「婚姻関係」の双方にかかっていると読めてしまいます。
そうではないことを示すために、後続の文に必要最小限の改正がなされているのでした。これも相当法律の知識がなければわからないようなポイントでした。
ですから、この改正法案がこのまま国会の審議を通過すれば、邦人の花嫁さんらのカップルは何も心配が要らなくなります。送還されてしまった青年も、改めてビザ申請して再度来アできるものと思います。今度はアイスランド人の配偶者として。
加えて、この法案の付属の趣旨説明に見られるように、もし先の改悪が「そうは意図していなかった」というようなミスであったのなら、私は送還された青年と奥さんのカップルは損害賠償を受ける資格があると思います。もともと、送還されるべきではなかったことになりますから。
先に「なぜ、このような改悪がぬけぬけとくぐり抜けたのか?」と問いましたが、おそらくは審議の過程で訂正されたはずの古い草案が、どこかで入れ替わってしまったのではないか、と想像します。
でも、そんなのも言い訳ですよね。罪ない人たちをこれだけ失望させたり、心配させたりしたのですから。法務省、それに国会はもう少し襟を正して自らの責任に向き合ってってもらいたいものです。
応援します、若い力。Meet Iceland
藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com
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