六月の最終週を迎えています。始めに、昨日の土曜日はアイスランドの大統領選挙の投票日でした。今現在(土曜日の正午)、まだ結果は出ていませんが、現職のグビューズ二大統領の再戦は間違いありません。
大統領選の支持率アンケート
Myndin er ur Visir.is
レイキャビクの今年の夏は、昨年のような「奇跡の夏」にはなりませんでしたが、それなりに夏っぽい日々を与えてくれています。レイキャビク界隈では、気温は十二、三度か「もうちょい」くらいまでは達してくれます。
気温はそんなものですが、雨と風の日がこの夏は少ないと実感しています。まあ、統計的というか、実数値を取ると違う結果になるかもしれませんが。あくまで生活実感。
さて、今回は前回の続きです。前回は、アメリカはミネアポリスでの黒人男性に対する警察暴力に端を発したプロテストが、世界に波及する中で、どのようにアイスランドにもやってきたか、ということをお話しいたしました。
当初は、そのような状況がどういう風に私自身の仕事に影響しているか、ということを仕事目線でお伝えするつもりだったのですが、長くなりすぎたため、持ち越しとさせていただいたわけです。
さて、私は教会の牧師ですが、もう二十年以上もアイスランドでの移民の人たちと関係する分野で働いています。ここ五、六年は、活動の中心が難民の人たちへとシフトしてきました。
この分野で仕事をする以上、人種民族的偏見、外国人ヘイト(ゼノフォービア)、「Iceland for Icelanders」的スローガン、文化的な相違による嫌悪と侮蔑、そして様々な形で現れる差別と向き合うことは避けられません。
私も、この仕事に就いて以来、ずっとこれらの問題とは隣り合わせでやってきました。
今回のBLM運動の中で、特にアメリカからよく聞かれる意見が、警察組織の中に組み込まれている黒人への差別と偏見の構図でした。個々人の問題のレベルを超えて、黒人を犯罪者として疑ってかかる図式が、これまでの社会の歴史の中で出来上がってしまっている、というようなことだと理解しています。
そのように、差別偏見がシステムの中に組み込まれてしまっていることを、英語ではなんと言うのでしょうか?Systematic discriminationかな? アイスランド語ではKerfisbundin mismunun ケルビスブンディン・ミスムーヌンと呼びます。
Kerfi(system)+ Bundin(bound)+ Mismunun(discrimination) です。「システムにくくり付けられた差別」ということになります。例えば「同じオフィスワーカーの中で、一律に女性の給与が男性よりも低い」というようなものが、このシステムに組み込まれた差別の典型です。
このシステマティック差別のもうひとつの典型は、法律や規則、公的な事務処理の過程などに差別が盛り込まれている場合です。私の考えでは、「戸籍制度」は日本でもっとも日常に浸透している「差別付きシステム」(あるいは「差別助長システム」)ですが、今回は深入りしません。
教会のチームが国会に送った意見書の第1ページ
アイスランドですが、実は年明けから「外国人法」の改正がアルシンキ(国会)の日程に載せられました。この改正法案は、実際には「改悪法案」で、赤十字をはじめ多くの団体、有識者が問題視するに至っています。
例えば、すでに他国で「保護」を受けている難民の再難民申請を不可能にする、こと。すでに保護を受けた難民は、もはや「難民」ではないので、そのような申請は原則受け入れられません。
それでも現行法では「相当な事由がある場合」には申請を受理することができる「お助け条項」があるのです。
ギリシャ、イタリア、ハンガリー等の国々での「難民保護」は、事実として実体がないものであることは、ヨーロッパでは誰もが目に耳にしているところです。家なし、仕事なし、ヘルスケアなし、では生活できません。
難民の人たちが、「保護」を受けながらも第三国へ逃れてくるには、それなりの理由があります。ですが「改悪案」では、今ある「お助け条項」から、この「難民再申請」をはずすことを謳っています。
この他にも、様々な点で難民や外国人の権利の削減が、この法案には含まれています。
で、私自身、この改悪は黙って見ているわけにはいかない代物だったので、教会のSeekers Ministryという、難民問題に取り組むチームに進言して(ありがたいことに、今はひとりではないのです!) 、国会への公式な意見書を取りまとめる作業を始めました。
それなりに時間と手間がかかるのですが、その真っ最中に、あのBLM運動が広まってきたのです。
アイスランドでの、外国人法「改悪」法案とアメリカから広がってきたBLM運動。別個なものなのですが、「システムにくくり付けられた差別」という観点からは多分に共通するところが多いのでした。
というわけで、アルシンキへの意見書の取りまとめをしながら、私は横目で次々と一歩踏み出して、自らの差別、偏見の体験をメディアで赤裸々に語る外国系アイスランド人や移民の人たちを見ていました。いや「横耳で聞いていた」と言うべきか?
「確かにそうだ」「あるある」と頷けるものも、「まさか!」と、私の知らないような話しもあったので、もう少し深入りしたかったのですが、今は改悪法案への意見書が先。
意見書は無事に取りまとめて送ることができました。ですが、それだけでは不十分。意見書が目的ではなく、法案がそのままで通過することを止めることが目的です。
そのためには、この法案の欠点を広く世間に知らしめ「反対」の声を集めなくてはなりません。そこで、前回にも書きました、メディアでのオピニオン・コーナーに頼ることになります。
私個人は、この法案について、まずもってふたつの意見記事を投稿しました。加えて、国会への意見書を、少し噛み砕いて普通の記事にして、これもメディアへ投稿しようということになりました。これはSeekers Ministryでのグループ作業。
私のオピニオン投稿のサンプルはこちらです。
教会のSeekers Ministryの面々
これはこれでまた結構な作業で、改めてグループ作業の大変さを思い起こさせられました。ひとりでやる方が簡単なこともあるよね、フ〜...
オピニオン一回分としては「長過ぎる」から、三回に分けることになりました。グループでの署名記事だし、それが三回続くというのは、それなりにインパクトも増すでしょう。
大切だったことは、これらの「外国人法案改悪」に反対するオピニオンが、BLM運動で言われている「システムのくっついた差別」と関連するものであることもわかってもらうことでした。
この点に関しては、長さの問題とかもあり、オピニオン記事そのものには組み込めなかったので、Facebookとかでネット記事をシェアする際に強調したのですか、まだちょっと足りないですね。改めて記事をひとつ書き足すことが必要だろう、と考えています。
というような感じで、今回のBLM運動と私自身の職務と重なるようになっているのが、ここのところの私の仕事の状況でした。幸い?なことに、改悪法案はすぐには審議入りしない模様です。
政府が悔い改めたからではなく、コロナで諸々の国会審議が遅れに遅れているのが現実だからです。そのことを法務大臣が認めたので、今現在、久しぶりにホッとしています。先週の金曜日は六月に入って初めてのデイオフにしました。そしてもう七月突入。なんか、やっぱりヘンな夏だ〜!!
日本ではコロナは去りそうで去らないコロナですね。「さあ、もう行かないと...」と言い出してから、さんざんしゃべくっているアイスランドのおばちゃんたちを思い起こさせます。
不自由な現実はありましょうが、それでも十分気を付けながら、楽しんで夏をお過ごしください。
藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com
Home Page: www.toma.is
大統領選の支持率アンケート
Myndin er ur Visir.is
レイキャビクの今年の夏は、昨年のような「奇跡の夏」にはなりませんでしたが、それなりに夏っぽい日々を与えてくれています。レイキャビク界隈では、気温は十二、三度か「もうちょい」くらいまでは達してくれます。
気温はそんなものですが、雨と風の日がこの夏は少ないと実感しています。まあ、統計的というか、実数値を取ると違う結果になるかもしれませんが。あくまで生活実感。
さて、今回は前回の続きです。前回は、アメリカはミネアポリスでの黒人男性に対する警察暴力に端を発したプロテストが、世界に波及する中で、どのようにアイスランドにもやってきたか、ということをお話しいたしました。
当初は、そのような状況がどういう風に私自身の仕事に影響しているか、ということを仕事目線でお伝えするつもりだったのですが、長くなりすぎたため、持ち越しとさせていただいたわけです。
さて、私は教会の牧師ですが、もう二十年以上もアイスランドでの移民の人たちと関係する分野で働いています。ここ五、六年は、活動の中心が難民の人たちへとシフトしてきました。
この分野で仕事をする以上、人種民族的偏見、外国人ヘイト(ゼノフォービア)、「Iceland for Icelanders」的スローガン、文化的な相違による嫌悪と侮蔑、そして様々な形で現れる差別と向き合うことは避けられません。
私も、この仕事に就いて以来、ずっとこれらの問題とは隣り合わせでやってきました。
今回のBLM運動の中で、特にアメリカからよく聞かれる意見が、警察組織の中に組み込まれている黒人への差別と偏見の構図でした。個々人の問題のレベルを超えて、黒人を犯罪者として疑ってかかる図式が、これまでの社会の歴史の中で出来上がってしまっている、というようなことだと理解しています。
そのように、差別偏見がシステムの中に組み込まれてしまっていることを、英語ではなんと言うのでしょうか?Systematic discriminationかな? アイスランド語ではKerfisbundin mismunun ケルビスブンディン・ミスムーヌンと呼びます。
Kerfi(system)+ Bundin(bound)+ Mismunun(discrimination) です。「システムにくくり付けられた差別」ということになります。例えば「同じオフィスワーカーの中で、一律に女性の給与が男性よりも低い」というようなものが、このシステムに組み込まれた差別の典型です。
このシステマティック差別のもうひとつの典型は、法律や規則、公的な事務処理の過程などに差別が盛り込まれている場合です。私の考えでは、「戸籍制度」は日本でもっとも日常に浸透している「差別付きシステム」(あるいは「差別助長システム」)ですが、今回は深入りしません。
教会のチームが国会に送った意見書の第1ページ
アイスランドですが、実は年明けから「外国人法」の改正がアルシンキ(国会)の日程に載せられました。この改正法案は、実際には「改悪法案」で、赤十字をはじめ多くの団体、有識者が問題視するに至っています。
例えば、すでに他国で「保護」を受けている難民の再難民申請を不可能にする、こと。すでに保護を受けた難民は、もはや「難民」ではないので、そのような申請は原則受け入れられません。
それでも現行法では「相当な事由がある場合」には申請を受理することができる「お助け条項」があるのです。
ギリシャ、イタリア、ハンガリー等の国々での「難民保護」は、事実として実体がないものであることは、ヨーロッパでは誰もが目に耳にしているところです。家なし、仕事なし、ヘルスケアなし、では生活できません。
難民の人たちが、「保護」を受けながらも第三国へ逃れてくるには、それなりの理由があります。ですが「改悪案」では、今ある「お助け条項」から、この「難民再申請」をはずすことを謳っています。
この他にも、様々な点で難民や外国人の権利の削減が、この法案には含まれています。
で、私自身、この改悪は黙って見ているわけにはいかない代物だったので、教会のSeekers Ministryという、難民問題に取り組むチームに進言して(ありがたいことに、今はひとりではないのです!) 、国会への公式な意見書を取りまとめる作業を始めました。
それなりに時間と手間がかかるのですが、その真っ最中に、あのBLM運動が広まってきたのです。
アイスランドでの、外国人法「改悪」法案とアメリカから広がってきたBLM運動。別個なものなのですが、「システムにくくり付けられた差別」という観点からは多分に共通するところが多いのでした。
というわけで、アルシンキへの意見書の取りまとめをしながら、私は横目で次々と一歩踏み出して、自らの差別、偏見の体験をメディアで赤裸々に語る外国系アイスランド人や移民の人たちを見ていました。いや「横耳で聞いていた」と言うべきか?
「確かにそうだ」「あるある」と頷けるものも、「まさか!」と、私の知らないような話しもあったので、もう少し深入りしたかったのですが、今は改悪法案への意見書が先。
意見書は無事に取りまとめて送ることができました。ですが、それだけでは不十分。意見書が目的ではなく、法案がそのままで通過することを止めることが目的です。
そのためには、この法案の欠点を広く世間に知らしめ「反対」の声を集めなくてはなりません。そこで、前回にも書きました、メディアでのオピニオン・コーナーに頼ることになります。
私個人は、この法案について、まずもってふたつの意見記事を投稿しました。加えて、国会への意見書を、少し噛み砕いて普通の記事にして、これもメディアへ投稿しようということになりました。これはSeekers Ministryでのグループ作業。
私のオピニオン投稿のサンプルはこちらです。
教会のSeekers Ministryの面々
これはこれでまた結構な作業で、改めてグループ作業の大変さを思い起こさせられました。ひとりでやる方が簡単なこともあるよね、フ〜...
オピニオン一回分としては「長過ぎる」から、三回に分けることになりました。グループでの署名記事だし、それが三回続くというのは、それなりにインパクトも増すでしょう。
大切だったことは、これらの「外国人法案改悪」に反対するオピニオンが、BLM運動で言われている「システムのくっついた差別」と関連するものであることもわかってもらうことでした。
この点に関しては、長さの問題とかもあり、オピニオン記事そのものには組み込めなかったので、Facebookとかでネット記事をシェアする際に強調したのですか、まだちょっと足りないですね。改めて記事をひとつ書き足すことが必要だろう、と考えています。
というような感じで、今回のBLM運動と私自身の職務と重なるようになっているのが、ここのところの私の仕事の状況でした。幸い?なことに、改悪法案はすぐには審議入りしない模様です。
政府が悔い改めたからではなく、コロナで諸々の国会審議が遅れに遅れているのが現実だからです。そのことを法務大臣が認めたので、今現在、久しぶりにホッとしています。先週の金曜日は六月に入って初めてのデイオフにしました。そしてもう七月突入。なんか、やっぱりヘンな夏だ〜!!
日本ではコロナは去りそうで去らないコロナですね。「さあ、もう行かないと...」と言い出してから、さんざんしゃべくっているアイスランドのおばちゃんたちを思い起こさせます。
不自由な現実はありましょうが、それでも十分気を付けながら、楽しんで夏をお過ごしください。
藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com
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