「お父さん」と呼んで!

先日ネットでお気に入りの番組のひとつ「警視庁捜査一課9係」を見ました(渡瀬恒彦ファン)。とても面白かったのですが、見終わった後で考えさせられました。

物語りはTV出演でも人気のあるシェフが殺されるところから始まります。このシェフはまだ若く、バツイチで5歳くらいの娘が前妻と暮らしています。前妻は50過ぎの公務員と再婚していました。この男性は初婚で家庭を持つことに憧れてきました。彼は新しい「父親」たるべく娘にとてもよくしますが娘はなつきません。娘はシェフである実の父親とは半年ごとに会えることになっているのですが、もっと頻繁に会うことをねだり、「新父」は時々娘をシェフのところへ連れて行きます。

しかし、それを繰り返すうちに彼は思います。「このままでは俺は絶対に父親にはなれない。娘は二人の父の前で混乱している。父親はひとりであるべきだ...」そして、シェフを殺害してしまうのです。ところがその後になって判明します。シェフ自身同じことを考え、実の娘の前から身を引くことを決意していたのです...

日本のドラマではおなじみのパターン、継父継母が子供にとっての「父」「母」になれるか？のバリエーションです。「あの子がやっと“お母さん”と呼んでくれたの!」は日本人受けするセリフです。

日本では「離婚は子供との別れ」という考えが昔から強いということで、離婚後は(主として父親が)子供に接触することを子供のためにならないこと、と考えてきているようです。

実際、厚生労働省が1997年にした調査によると離婚後に自分の子供に「一度も会っていない」と答えた親はなんと40%に昇ります。さらに「定期的に会っている」は僅か30％に過ぎません。ネットで調べた範囲では、15年後の現在でも、離婚後の子供への面会交渉権については随分と議論されているものの、 (数字的には)大きな変化はないようですね。

以前、大学で日本語を学ぶこちらの学生を相手にこの話しをしたことがあります。皆、唖然として口を開けていました。ここアイスランドでは離婚率はほぼ50％に達していて、離婚そのものは日常的と言ってもいいほどの出来事です。ある家庭に子供が4人いるのを見たら、そのうちの一人は異なる片親を持っている、と推測しても間違いないと個人的には思っています。

さらに言うと、その場合、子供の父親の後妻、あるいは母親の後夫は決して「新父」「新母」にはなりません。当該者は子供から見れば「お父さんの奥さん」「お母さんの旦那さん」なのです。アイスランドでは2003年から共同親権が原則となっています(片親が親権を持つのは家庭内暴力等の著しい子どもにとっての －親でなく－ 不利益が存在する場合)。別れた親同士が憎み合ってしまっている場合は、親権を巡るいざこざも起ります。親が子供には最上の環境を与えることで一致している場合には、実の親－新しく来た親の点で問題が生じることは少ないようです。

もちろん、この問題で日本が遅れているとか、アイスランドが進んでいるとかというような単純な結論を引き出すつもりはありません。結婚とは何か、家庭とは何か、ということは十分に議論するに値する問題です。

ただ、それでも私は、離婚後は親権を持たない方の親は子どもに接触すべきではない、という考え方には大きな疑問を覚えます。本当にそうでしょうか？実は私自身バツイチで二人の子供が前妻のもとにいます。離婚そのものは既に13年前ですが、それ以降も子供たちとは頻繁な行き来があり、何の問題もありません(子供たちは父母が一緒にいることを望んでいるかもしれない、ということを除いて)。問題どころかむしろ良い結果になっていると思います。

離婚後、私自身はできれば再婚したいと思っているのですが、なかなかそう容易くは問屋が卸してくれません。ただ、もし叶ったとしてもその女性は私の奥さんであって、子供たちの「お母さん」では断じてありません。特に子供が幼少の場合、片親の新しい配偶者が父親、あるいは母親の役割を背負うことはわかりますが、それでも実の親を葬り去るほどの理由にはならないでしょう。

実際にそのような状況で生活をされている方も多くあると思いますので、継父、継母が「父」「母」にはなれないとか、なるべきではないと言うつもりはありません。個別の事情にもよるでしょう。では逆に、いついかなる場合も、どうしても「父」「母」にならなくてはいけないのでしょうか？
十分に考察する必要がある問題ではないかと考えます。