*汚染エリアの境界で地下水を迂回させるか、それは不可能なようであるが、放射性物質は消失しない、
東京電力福島第1原子力発電所の汚染水対策に新たな課題が浮上している。東電は汚染水の増加に歯止めをかける方策として「凍土壁」を整備する考えだが、原子力規制委員会が安全性の判断に慎重な姿勢を示しており、目標とする3月の完成に不透明感が漂い始めた。未曽有の事故から5年目の今春、汚染水対策は正念場を迎える。
「原発の海側にある井戸からの地下水のくみ上げにより、1日約400トンの高濃度汚染水が発生している」。昨年12月18日の規制委の検討会で、東電は新たな問題を報告した。
これまで事故時に飛び散った放射性物質が敷地を流れる地下水に入り込み、その一部が港湾に流出していた。対策として東電は昨年10月、原発の海側に、長さ約30メートルの鋼管を地中に打ち込んで並べた「海側遮水壁」を整備した。
海への流出は止まったが、予想外の副作用も起きた。せき止められた地下水が敷地内にあふれるのを防ぐため、東電が海側の井戸からくみ上げを始めたところ、一部で放射性トリチウムが比較的高い濃度で検出されたのだ。計画ではくみ上げた地下水は浄化して海に排水するはずだったが実行できず、高濃度汚染水をためている建屋に送らざるを得なくなった。
くみ上げた1日約400トンの水は、建屋内で新たな汚染水となっている。これに先だって1~4号機周辺のサブドレンという井戸で地下水のくみ上げを始め、建屋への地下水流入が減って汚染水の発生が減ると見込んでいたが、その効果も打ち消す格好になっている。
東電が打開策として期待するのが凍土壁だ。建屋周辺を囲むように土壌を凍らせ、地中に壁を築いて地下水の流入を止める。完成すれば建屋に直接流入する地下水のほか、海側に達する地下水も減り、汚染水の増加を防げると見込む。
冷却液を流す凍結管を埋め込む工事は完了し、3月までの完成が目標だ。だが作業の安全を監視する規制委は慎重な姿勢を崩しておらず、計画は遅れるかもしれない。
凍土壁によって地下水の流入が止まれば、建屋周辺の地下水位が下がる可能性がある。もし建屋内の汚染水の水位を下回ったら、建屋内の高濃度汚染水が周囲の土壌に漏れる恐れがあるという。
そうなったら漏れ出る汚染水の濃度はこれまで海に流出していた地下水の比ではない。規制委は「安心できる判断ができなければ受け入れられない」(田中俊一委員長)として、漏洩を防ぐ明確な説明を東電に求めている。
汚染水を巡っては、これまでも想定外のトラブルがしばしば起きてきた。新たに浮上した問題の解決に道筋を付けられるかどうかは、廃炉作業の今後を占うことになる。(生川暁)