中国電力業界を牛耳る「赤い貴族」に汚職取締りが及ぶ?
「太子党ビジネス」カラクリ暴露、*14/05/01日(Thu) 弓野正宏 (早稲田大学現代中国研究所招聘研究員)
冀文林は2013年1月に海南省副省長に就任し、その後、ボアオ・プロジェクト責任者となり、大きな動きを見せた。1年も経たずに1000畝〔ムー〕(合計約67ヘクタール〔東京ドーム約16個分〕:筆者)近くの土地を私企業に割譲することを承認したのだ。この私企業の出資元は李小琳女史が役員を務める香港の会社だった。中国の電力業界で活躍してきた李女史が海南の不動産業に参入し、登記額わずか1万香港ドル(約1280ドル)の小さな会社が巨額な土地資産を動かすことになったのだ。
海南省政府の海南省発展改革委員会ページには昨年11月に同委員会が認可した「ボアオ娯楽城国際養老・養護模範地区プロジェクトの認可採択」、「同城国際リハビリ療養センタープロジェクト採択」などの文書が掲載されている。事務局に問い合わせたところ、担当者は、「海南緑健生態都市開発有限公司」への認可を明かした。同社の出資元は香港の「緑色健康発展有限公司」だった。同社の実態について担当者は審査するだけで詳細は不明と回答した。
香港人でありながら、党員でもある
中国の電力業界で「姉御」と称される李小琳女史。香港の「紅籌株」(中国政府系の背景を持つ香港市場で上場された株式:筆者)上場企業では唯一の女性CEOであり、100億ドル近くの価値を有す中国電力(北京)を率いる。李女史は北京が海外に派遣した幹部であり、国有企業の高官であり、その資産は国有だ。彼女は大型中央企業(エネルギー、軍需など国の基幹産業は国有であり、その中心的な企業113社が中央企業と称され、国有資産監督管理委員会の管理下にある:筆者)の幹部であると同時に私企業の役員でもあるわけだ。中国国内に身分を持つと同時に香港の永住権も持つ。香港人でありながら、党員でもある、
李女史は香港の私企業の役員として海南省の土地開発に目標を定め、外資の身分で海南省に投資会社を登録したというわけだ。同社はわずか3カ月で海南省から5つの土地プロジェクトの認可を受けたのだ。資本たった1万香港ドルの企業が、百億元(約16億ドル)を超える土地を動かし、派手な開発劇を繰り広げようとしている。ちなみに「緑色健康発展開発」社は彼女が采配を振るう「赤い上場企業」中電新能源が入る華潤ビル敷地内にある。
理解に苦しむのは国有資産のプロジェクトの土地獲得で私企業が参入していることだ。国有企業が香港で上場する中電国際と中電新能源のトップである李小琳女史は、国有企業である中国電力投資集団公司の常務副総経理でもあり、党中央組織部が管理する官僚でもある。香港の永住権も、帰郷証も保有している。しかし、国内の大型中央企業の高官で党組織メンバーなら本来、香港永住権の保有は許されていないはずだ。李女史は政府高官の身分と私人の身分を持って香港と中国の間でビジネスの海を自由に泳ぎ回っている。
海南省(島)は中国の5つの経済特区(深圳、珠海、汕頭、厦門、海南:筆者)のうち面積では最大だ。しかし、開発は停滞し2009年の一人当たりのGDPは2800ドル超と全国で中の下レベルだ。ただ美しいビーチ、新鮮な空気が多くの観光客を引きつけてきた。国連世界観光機関(UNWTO)と海南省政府は共同で「海南省観光発展総体計画」を策定したが、それには2020年までに同省にアジアで一流の国際的なリゾート地を作る計画が記されている。国務院も2009年に海南国際観光島構想を打ち出し、医療と観光が融合した国際競争力のある景勝地を作ろうとしている。
中国では土地を調達するということはすなわち富を手に入れるも同然であり、李女史は1年もせずに広大な土地を手に入れた。彼女はかつてこうに述べていた。「私の成長は自分の一歩一歩の努力の成果によるものです。…能力以外の資本はゼロに等しいのです」と。確かにその通りだ。海南ボアオ娯楽城プロジェクトの用地で李女史の成功は資本投資によるものではなかった。上層部からの青信号で道を開けさせただけだから。
【解説】
李女史はさっそく反撃した。インタビューに答え、不動産業に進出したこともなければこれからもない、と反論した。憶測には「法的手段」を取る可能性さえ示した。香港の報道機関は李鵬一族が緊急家族会議を開いたと報道した。記事は彼らの急所を突いたといえるかもしれない。この記事は政府高官の子弟が権益を背景にビジネスに乗り出す様子を克明に記述しており、記事に中国国内を含む多くのメディアも追従した。習政権の汚職取締りでは更迭された閣僚、高官は既に20人を超え、石油業界を中心に力が入れられてきたが、このレポートが出てからにわかに電力業界にその矛先が向くのではないかと関心を呼ぶようになっている。
李鵬首相の牙城であった三峡ダムの建設、管理を管轄する国有大型企業(国有「中央企業」の一つでもある)である長江三峡集団に対して党の中央規律検査委員会の巡視グループが入り査察を行った。そのプロセスでトップ2人が職を辞したことからいよいよ「虎退治」が三峡ダム関連や電力業界に向くのではないかとマスコミが色めきたった(ただ少ししてから曹広晶董事長は湖北省副省長に、陳飛総経理は政府の三峡工程建設委員会事務局副主任に就任したことからマスコミの勇み足かもしれない)。そして李鵬元首相一族では李小琳女史だけではなく、元首相の息子、李小鵬〔山西省省長〕氏も注目を浴びている。
しかし、ここで私見を述べれば、習政権が展開してきた「虎、ハエ退治」が華僑メディアで騒がれるように李鵬一族にまで手が及ぶとは信じがたい。汚職取締りを元首相というナンバー2経験者まで含めるとほとんどの高官がひっかかり、その結果、権力闘争が激化し、政権が揺らぎかねないためだ。
とはいえこれまでタブーであった中国政府内部の汚職が海外華僑メディアに触発され、中国国内でも変化球のような報道が出るようになったのは薄煕来事件以降の新しい傾向だろう。紹介した『亜洲週刊』は香港誌だが、中国国内にも骨のある記者はいる。政治改革が掛け声だけで終わらないためにも、「第四の権力」としての役割を発揮すべくマスコミには頑張ってほしいものだ。