田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

1960年代邦画ベストテン その4 『日本のいちばん長い日』『男はつらいよ』

2020-01-15 18:34:14 | 俺の映画友だち
 
 
『日本のいちばん長い日』(67)(1974.8.14.)
(1982.5.13.文芸地下 併映は『生きものの記録』)

 テレビで見たのも含めると今日で3度目になるが、何度見ても、徹底したドキュメンタリータッチから受ける衝撃はすさまじいものがある。中でも畑中少佐役の黒沢年男の大熱演が印象に残る。

 のろのろと終戦の準備を行う政府、それを尻目に飛び立つ特攻機、このシーンは何度見ても怒りが湧く。あんたたちがのろのろとしている間に、一体、何人の死ななくてもいい人たちが死んでいったのか、という怒りである。
 
 そんな、われわれ戦争を知らない世代の怒りに弁解するかのようにこんな言葉がつぶやかれる。「何しろ帝国日本の葬式だからな…」。だがそれは戦争を推し進めてきた上層部が持つ感慨に過ぎないのではないか、という気がする。
 
 それ故、岡本喜八は庶民における終戦として『肉弾』(68)を撮ったのだろう。上からの命令や教育で正しいと思い込まされて死んでいった無数の人々。彼らの姿こそが、戦争、あるいは軍国主義の愚かさを、われわれ戦争を知らない世代に、教えてくれるのだから。天本英世が叫ぶ「襲撃第一目標鈴木内閣総理大臣」の命令に笑いが起きた。これは現総理の鈴木善幸への皮肉か。
 
 
『男はつらいよ』(69(1974.4.1.東京12チャンネル)
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/40719f5f8740de1ab4cd1157c56fd299
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1960年代邦画ベストテン その3 『冷飯とおさんとちゃん』『東京オリンピック』

2020-01-15 07:23:57 | 俺の映画友だち
 
 
『冷飯とおさんとちゃん』(65)(1989.10.19.NHK BS)
 
 日本映画本来の良さと、東映時代劇の本領を改めて知らされた。何と言っても、中村錦之助の一人三役が見事であり、べらんめー調の江戸弁のセリフ回しの心地良さに酔わされた。また、錦之助を囲む脇役たちも適材適所で好演を見せる。そして、原作の山本周五郎の世界が、監督・田坂具隆、脚本・鈴木尚之、音楽・佐藤勝という強力スタッフによって、見事に映画として生かされていた。
 
 ところで、同年に黒澤明が同じく周五郎原作の『赤ひげ』を作っていることも興味深いが、両作の大きな違いは、黒澤が超大作として仕上げたのに対して、この映画にはいかにも小品の佳作といった味わいがある点だろう。その分、「冷飯」のユーモア、「おさん」のもの悲しさ、「ちゃん」の人情といった、原作の持ち味が、まるで古典落語を聴くかのように、素直に心にしみてくるのだ。
 
『東京オリンピック』(65)(1975.1.1.東京12チャンネル)
(1983.5.4.)
 何度見ても、市川崑による映像美や、単なるスポーツの記録にとどまらない人間描写に感動させられてしまう。今回は新たに、この映画が先頃見た『炎のランナー』(81)に多大な影響を与えていたことを発見した。『炎のランナー』の男子100メートル決勝の撮り方は、この映画のそれとそっくりだ。

 以前、マラソンランナーを描いたマイケル・ウィナー監督の『栄光への賭け』(70)にも、この映画の影響を強く感じたが、それが今最もスポーツを鋭く描いたと思われる『炎のランナー』にまで受け継がれていたことに驚いた。公開時は、賛否両論が飛び交ったというこの映画。市川崑は何年も先の感覚を取り入れていたのだろう。それにしても、あの雑然とした閉会式は感動的だ。
 
マラソン映画
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1960年代邦画ベストテン その2 『赤ひげ』

2020-01-14 13:55:11 | 俺の映画友だち
『赤ひげ』(65)(1982.11.20.千代田劇場 併映は『姿三四郎』)
 
 
 まずは観客の多さと熱狂ぶりに驚かされた。久しぶりに映画館の前に並んで待ち、おまけに3時間あまりのこの映画を立ち見で見るはめになるとは…。改めて黒澤映画の人気の高さを知らされた思いがした。
 
 さて、映画本編の方だが、先に山本周五郎の原作を読み、小林桂樹、あおい輝彦主演のテレビドラマの印象もあり、今まで見てきた黒澤映画とはいささか違った接し方になるかもしれない、とは思っていたものの、そのあたりを差し引いて考えても、あまりいい印象が浮かばない。もっと素直に感動できると思っていたから、拍子抜けすらしてしまった。
 
 確かに、黒澤ヒューマニズムの頂点とも言える作品であり、短編集である原作を、一つのドラマとして見事に映画化しているのだが、どうも上から見下ろすような視線を感じさせられた。三船敏郎演じる赤ひげ=新出去定の人物像に、スーパーマン的なところがあって素直になじめない。その対照として浮かんできたのが初期の監督作である『酔いどれ天使』(48)だったのである。
 
 あの映画の志村喬演じる酔いどれ医師は、決してスーパーマンではなく、地位も腕力もないが、この赤ひげに勝るとも劣らないほど病や悪を憎み、人を愛していた。それに比べると赤ひげは悪に立ち向かう腕力も名声もある。この違い!  
 
 そうは言っても、実際、これほどのスケールの大きさを持った面白い映画を撮れる監督は皆無なのだが、彼の過去の映画をほとんど見終わった今感じるのは、ヒューマニズムを貫きながら変容した姿だった。そんなわけで、終映後に期せずして起きた拍手の中で、取り残された自分がいた。

 三船、加山雄三をはじめ、藤原釜足、山崎努、杉村春子、そして天才子役の二木てるみと頭師佳孝…個々の俳優の演技は本当にすごかった。
 
 (佐藤忠男さんの『黒沢明の世界』に感化されていた頃に書いた一文。今はこんなふうには思わないから、気恥ずかしいものがある)
 
 
『赤ひげ』と山本周五郎原作映画1
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/155329009d0d95e785d4aced7ca898e9
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1960年代邦画ベストテン その1 『用心棒』『キングコング対ゴジラ』『私は二歳』『天国と地獄』『飢餓海峡』

2020-01-14 10:45:56 | 俺の映画友だち
 さる映画同好会で1960年代邦画ベストテンのアンケート結果が発表された。最多得票を集めたのは黒澤明の『天国と地獄』(63)だった。
 
    
 
自分が選んだベストテン(製作年度順)(初見)は。
 
『用心棒』(61)(1979.10.25.蒲田宝塚)
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/9b82cd9ed7edf5a2245107033de223ea
 
『キングコング対ゴジラ』(62)(1970.3.浅草東宝)
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/15933c015f12ba350b0c9e78bb82c1d7
『文化の泉 60年代特集』から
 
『私は二歳』(62)(1977.9.23.NHK)
『山田洋次監督が選んだ日本の名作100本:家族編50本』から
 
『天国と地獄』(63)(1980.11.7.ゴールデン洋画劇場)
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/bf476550665faa50cb66af31224e4fa6
『天国と地獄』『黒澤明の世界』(佐藤忠男)『黒澤明の映画』(ドナルド・リチー)
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/288cc39acc9763ba35cc3522e7530541
 
『飢餓海峡』(64)(1975.2.2・9.東京12チャンネル)
(1994.11.28.)
 約20年ぶりの再見。今回はワイド版での放送だったので、内田吐夢があえて使用した16ミリフィルムのざらつき感が、ドキュメンタリータッチに効果を与えていたことが確認できた。
 先頃、テレビで原作者の水上勉が「松本清張に影響されて書いた」と語っているのを聞いた。確かに、清張の『砂の器』にも似た悲しい過去の清算故に犯される殺人、あるいは旅の物語としての影響は見られるが、そこに水上独特の宗教くささが加わった異色社会派推理劇になっている点が、本原作のユニークなところ。それを、内田吐夢の執念と鈴木尚之の見事なシナリオが第一級の映画に仕立て上げたのだ。
 
『私説 内田吐夢伝』(鈴木尚之)
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/ef6a4c4061089a78d06ed8624bfa0709
 
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昔のテレビの洋画劇場の音楽

2020-01-10 10:52:02 | 映画いろいろ
こういう時、YouTubeは便利だ。
 
 
  
 
「日曜洋画劇場(NET→テレビ朝日)解説・淀川長治
オープニング曲「日曜洋画劇場のテーマ」作曲・神津善行
https://www.youtube.com/watch?v=C5djXLv3ZGE
エンディング曲「ソー・イン・ラブ」作曲・コール・ポーター、演奏モートン・グールド
https://www.youtube.com/watch?v=NTxJY8rfKTs
 
「月曜ロードショー」(TBS)解説・荻昌弘
https://www.youtube.com/watch?v=fV-G4TpxM2A
オープニング曲「ピーターパン」序曲
https://www.youtube.com/watch?v=kpVJatnVVpg
エンディング曲「パーティーズ・オーバー」演奏レイ・アンソニー
https://www.youtube.com/watch?v=O1VHlK9s5c0
 
「水曜ロードショー」(日本テレビ)解説・水野晴郎ほか
https://www.youtube.com/watch?v=Okt2Y3gEfRQ
オープニング曲「水曜日の夜」作曲、演奏ニニ・ロッソ
https://www.youtube.com/watch?v=sW6PWzXcj5w
 
「木曜洋画劇場」(東京12チャンネル→テレビ東京)解説・河野基比古ほか
オープニング曲「不明」
https://www.youtube.com/watch?v=3ztpFuxVKiM
エンディング曲「Fのロマンス・テーマ」(『小さな恋のメロディ』から)作曲・演奏リチャードヒューソン
https://www.youtube.com/watch?v=yXElOfN2Adg
https://www.youtube.com/watch?v=2usdyLmHwvU
 
「金曜ロードショー」(日本テレビ)解説・水野晴郎ほか
オープニング曲「フライデー・ナイト・ファンタジー」作曲、演奏ピエール・ポルト
https://www.youtube.com/watch?v=JGYHVCfWcls
https://www.youtube.com/watch?v=wCDiRGUTfq0
 
「土曜洋画劇場」(NET)解説・増田貴光ほか
エンディング曲「惑星(木星)」作曲・ホルスト
https://www.youtube.com/watch?v=cmWvDtIGCv0
 
「ゴールデン洋画劇場(フジ)解説・高島忠夫ほか
旧オープニング曲「不明」作曲・高山某、
https://www.youtube.com/watch?v=16y6oQzB-_M
新オープニング作曲・八木正生(タイトルデザイン・和田誠)
https://www.youtube.com/watch?v=NnvTKLCI-NA
 
「日本映画名作劇場」(東京12チャンネル→テレビ東京)解説・白井佳夫ほか
オープニング曲『面影』から作曲・ミシェル・ルグラン
https://www.youtube.com/watch?v=-DEg8xr2TRQ
 
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『小さな恋のメロディ』

2020-01-10 08:44:07 | 映画いろいろ
『小さな恋のメロディ』(71)(1976.5.2.日曜洋画劇場)

 

 2人でトロッコを漕いでいくラストシーンが印象的。マーク・レスターとトレイシー・ハイドに挟まれた“第三の男”トム役のジャック・ワイルドが良かった。レスターは今は整骨医をしているのだとか。
 
 この映画は、ビージーズの「イン・ザ・モーニング」「メロディ・フェア」「若葉の頃」、クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングの「ティーチ・ユア・チルドレン」を使った音楽も印象的だが、隠れた名曲は、リチャード・ヒューソン・オーケストラの「Fのロマンス・テーマ」。東京12チャンネル(現テレビ東京)の「木曜洋画劇場」のエンディングテーマとしても使われたので、この曲を聴くと他の映画のことも思い出してしまう。
 
イントロが大好きな「Melody Fair」
https://www.youtube.com/watch?v=BQnTCB_rX84
 
「Fのロマンス・テーマ」
https://www.youtube.com/watch?v=2usdyLmHwvU
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【ほぼ週刊映画コラム】『フォードvsフェラーリ』

2020-01-09 18:29:28 | ほぼ週刊映画コラム

エンタメOVOに連載中の
『ほぼ週刊映画コラム』

今週は
最近は珍しくなった骨太な男たちの熱血ドラマ
『フォードvsフェラーリ』

詳細はこちら↓
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1210293

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映画評論家と呼ばれた人たち

2020-01-09 12:29:13 | ブックレビュー
 
 最近、植草甚一さんに始まって、野口久光さん、双葉十三郎さん、飯島正さんの著作を読み直している。思えば、DVDもインターネットもなかった時代に、映画について書くことはとても大変な作業であり、誰もが映画評論家になれるわけではなかった。今のように、誰もがネットで映画について自由に語れる時代とは違い、彼らは特別な存在だったのだ。

 もちろん、今となっては、彼らの仕事にも功罪相半ばするものがあるが、古典を読むような気分で接すれば、まだまだ学ぶことは多いし、その時代の映画に対する生の感覚を知ることもできる。
 
 飯島正1902~96(94)、田中純一郎1902~89(87)、岩崎昶1903~81(78)、南部僑一郎1904~75(71)、南部圭之助1904~87(83)、津村秀夫1907~85(78)、植草甚一1908~79(71)、大黒東洋士1908~92(84)、野口久光1909~94(85)、淀川長治1909~98(89)、双葉十三郎1910~09(99)…。皆さん明治生まれで、ご長寿だった。
 
 例えば、こんな本を作った時は、随分とお世話になったものだ。

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「007」シリーズ その1

2020-01-09 08:57:48 | 映画いろいろ
 テレビ東京の「午後のロードショー」で「007シリーズ20作品大放送!」をするらしい。
 
   
 
 
『007/ゴールドフィンガー』(64)(1974.4.7.日曜洋画劇場)
『007/死ぬのは奴らだ』(73)(1974.6.15.有楽シネマ 併映は『スコルピオ』(73))
『007/ロシアより愛をこめて』(63)(1974.7.7.荏原オデヲン座 併映は『ダラスの熱い日』(73)『ジャッカルの日』(73)
『007/サンダーボール作戦』(65)(1974.9.1.東急レックス)
『007/黄金銃を持つ男』(74)(1975.1.8.渋谷宝塚)
『007/ドクター・ノー』(62)(1975.6.14.渋谷全線座 併映は『007/ダイヤモンドは永遠に』(71))
自分にとってはロジャー・ムーアの主演作がリアルタイムであり、ショーン・コネリー主演のものについては、リバイバルや名画座で見たのだった。
 
 以前、こんな記事を書いた。「007シリーズの魅力とロケ地を紹介」その1
  
    

リアルタイム、ジェームズ・ボンド=ロジャー・ムーア逝く
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/0c742d87c0389c395b52009b04863563

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『キャッツ』

2020-01-08 14:00:52 | 新作映画を見てみた

 ブロードウェイや劇団四季の公演でも有名な、T・S・エリオット原作、アンドリュー・ロイド・ウェバー作曲の舞台劇を映画化。監督はトム・フーパーで、『レ・ミゼラブル』(12)以来2度目のミュージカル映画の演出を担当した。

 主人公のヴィクトリア役にロンドンロイヤル・バレエのフランチェスカ・ヘイワード、そのほか、大ベテランのジュディ・デンチ、イアン・マッケラン、喜劇畑のジェイソン・デルーロ、レベル・ウィルソン、個性派イドリス・エルバ、ジェームズ・コーデン、そしてジェニファー・ハドソン、テイラー・スウィフトらが“猫”を演じる。

 ロンドンの裏町を舞台に、ジェリクルムーンの夜に、猫たちが集まって天井に上る1匹を選ぶ様子が描かれるのだが、ストーリーらしきものはなく、何だか各キャラクターの顔見世興行を見せられたような気になる。

 そして、擬人化された猫たちの珍妙なリアルさに違和感を覚えて思わず失笑してしまった。デンチなど、まるで『オズの魔法使』(39)の弱虫ライオンのように見える。「メモリー」をはじめとする楽曲、キャストの歌とダンス(猫の動き)などは見事なのだろうが、全体的には、珍妙なものとしか思えなかった。

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