『スピード』(94)(1994.12.5.渋東シネタワー)
高速バスに、時速50マイル以下に減速すると爆発する爆弾が仕掛けられた。ロス市警のジャック(キアヌ・リーブス)は、走っているバスに飛び乗り、スピードを落とさずに乗客たちを救出しようとするが…。
これまでポール・バーホーベン、ジョン・マクティアナン、リドリー・スコットたちの監督作で、撮影監督をしてきたヤン・デ・ボンの監督デビュー作。またまた異邦人のハリウッド参入である。
この映画は、例えば、全体は『ダイ・ハード』(88)、バス内のドラマは『駅馬車』(39)、減速不可は『新幹線大爆破』(75)、そしてヒーローと犯人が善悪の裏返しであり、実は似て非なるものであるという構図は最近の『ザ・シークレット・サービス』(93)といった具合に、過去の様々な映画のエッセンスが取り入れられている。減速不可というアイデアとしては、幻に終わった黒澤明の『暴走機関車』が最も近いのかもしれない。
そして、『ダイ・ハード』同様、無駄なバイオレンスや殺人の描写を極力見せずに、日常の中の異常を、タイトル通りの抜群のスピード感で押し切ったところがいい。これはドラマを巧みに転がしたグレアム・ヨストのシナリオのうまさに寄るところも大きいだろう。
加えて、これまではなよなよとした二枚目役のイメージが強かったキアヌのヒーローとしてのイメージチェンジ、話が進むにつれて魅力が増してくるサンドラ・ブロックの存在感、ジェフ・ダニエルズの好助演、デニス・ホッパーのいかにもの犯人役といった、俳優たちの生かし方も見事だった。
ただ、エレベーター、バスまではいいのだが、ラストの地下鉄までくると、しつこさを感じて少々もたれるところがあった。すでに「パート2」が準備されているようだから、そのあたりの絡みもあったのかもしれないが、作っている最中から“続き”を考えてはいかんよな、と安易なシリーズ化に一言苦言を。
ところで、このデ・ボンによるアメリカ版の「ゴジラ」とは一体どんなものになるのだろう。この映画を見る限りでは、アクション面では期待できそうだが。
【今の一言】アクションヒーローとしてのキアヌは『マトリックス』(99)でさらに飛躍。逆に『スピード2』(97)はキアヌが降りたこともあって失敗作となった。また『GODZILLA』(98)はデ・ボンが降りてローランド・エメリッヒが引き継いだが、これも失敗作となった。こうして現在から過去を見ると、映画製作がいかに水物であるのかがよく分かる。