ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

WBC世界S・フライ級TM 川嶋勝重vs徳山昌守

2005年07月18日 | 国内試合(世界タイトル)
前王者徳山が、川嶋を明白な判定に破り王座に返り咲いた一戦。

これまでの両者の対戦成績は1勝1敗。世界戦のリングにおいて、
日本のジム所属の選手同士がラバーマッチ(3度目の対戦などのこと。
決着戦)を行うのは史上初。1度目は王者だった徳山が無難に判定勝ち、
2度目は川嶋が電光石火の1ラウンドKOで借りを返し、世間をあっと
言わせてみせた。つまり今回は川嶋が王者、徳山が挑戦者という立場であった。

戦前は徳山不利の予想が多かった。その根拠はまず1年以上に及ぶ
徳山のブランク、そして常識破りとも思える過度の筋力トレーニングだ。
それが裏目に出て、深刻な減量苦や、スタミナやスピードの低下に陥る
のではないか、などと懸念されていたのだ。スピードの方は特に落ちて
いるとは思えなかったが、確かにスタミナは後半から明らかに落ちていた。
しかし、それが筋トレのせいかどうかは分からない。

ただ、今回の徳山は、体がずいぶん大きく感じられた。川嶋が一つ二つ下の
階級の選手に見えたほどだ。もちろんこれまでも身長差はあったわけだが、
それに加えて徳山は体の厚みも増していたため、今までの2度の対戦では
そこまでは感じなかったのだ。これは筋トレの成果だろうが、それにしても
ただでさえスーパー・フライ級では長身の徳山だから、今回の減量は相当
きつかったはずだ。

元々スタミナや耐久力に不安のあった徳山だが、今回も後半はバテバテになり、
一発打っては相手に体を寄せて反撃を防ぐという巧い(悪く言えばずるい)
戦い方をしていた。それは確かに見る者にとっては退屈だったかもしれないが、
徳山ばかりを責めるのは不公平だ。

強引に振りほどいて打つなどして、こういった状態を打破することが出来なかった
川嶋にも問題があったし、またそれをさせない「何か」が徳山のテクニック
だったのだろう。あるいはそれこそが筋トレの一番の成果だったのかもしれない。
本来パワーのあるはずの川嶋が振りほどけないのだから、徳山もパワーを増して
この試合に臨んできたということなのだろう。

前半にポイントを奪っておいて後半逃げ切るという形は、徳山の最も得意とする
勝ちパターンだ。確かに徳山の後半の戦法は見栄えが悪かったかもしれないが、
日頃から「つまらない展開に持ち込めば俺の勝ち」と語っている徳山にすれば、
まさに会心の試合運びだっただろう。徳山が自分のボクシングを貫き通した形だ。

一方、川嶋は過去の3戦中で最も悪い出来だった。体調は万全だったかもしれないが、
作戦がまずかった。川嶋陣営は、当たればいつでも倒せるという余裕からか、まだ
徳山の堅さがほぐれていなかった序盤にも、それほど攻めては行かなかった。
徳山は必ず後半にバテるから「勝負は後半」と見ていたようだが、不器用なファイターで
ある川嶋に、そんな小賢しい策など必要だっただろうか。無尽蔵のスタミナを活かして
序盤からガンガン手を出していけば、中盤には徳山をストップできていたかもしれない。
そもそも、試合運びやポイントを奪う術にかけては、かつて世界王座を8度も守ってきた
徳山の方が断然上なのだ。まあ全ては結果論に過ぎないが・・・。

それにしても徳山はよくやったと思う。川嶋のプレッシャーに煽られスタミナを失い、
最終ラウンドにはスリップ気味ではあったがダウンも喫した。ポイントでは明らかに
優位に立ちながらも常に危機感のある苦しい展開の中で、集中力だけは最後まで
途切れなかった。「要は気合い」が口癖の徳山だが、今回ほどその精神力が前面に
出た試合もなかったのではないだろうか。

体力的、あるいは年齢的な不安のため、2度目の「徳山政権」が前回ほど長続き
するとは考えにくいが、あくまで川嶋への雪辱を目標にして再起した徳山にとって、
そんなことはもはや大した問題ではないのだろう。ただ、既に初防衛戦の相手に
決まっているホセ・ナバーロとの技術戦は非常に楽しみだ。ナバーロは五輪の
アメリカ代表で、川嶋に挑戦して微妙な判定で敗れているものの、その実力が
認められてランキング1位の座をキープしている。

実戦で身に付けた泥臭いテクニックを持つ徳山と、王道とも言えるアマチュア
キャリアを積んできたナバーロ。同じアマ出身、同じテクニシャンといっても、
全く違った印象のある両者。果たしてどんな展開になるんだろうか。