ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

浅井勇登、世界に挑む

2001年07月12日 | その他
いよいよ来週の日曜(7/15)、浅井勇登(はやと)がWBC世界フライ級
王者、タイのポンサクレック・シンワンチャーに挑む。

この浅井という選手、全国的には日本タイトルに2度挑戦して2度敗れて
いるだけに決して評価が高いとは言えないようだが、名古屋では随分前から
その素質の高さが注目され、世界チャンピオン候補と言われ続けてきた。
と同時に、精神面でのモロさを指摘され続けてもいたのだが・・・。

雑誌の記事などを読むと、かつての浅井はどうも、頭に血が上りやすい
性分だったようだ。スパーリングでもパンチをもらうとついカッとなり、
攻撃がラフになったり。ボクシングでは冷静さを失った方が負け、とは
よく聞かれる言葉である。

あるいは2度目の日本タイトル挑戦となったセレス小林(現WBAスーパー・
フライ級王者)戦では、ダウンを奪ってもなお余裕を見せず攻めて来る王者に、
精神的に呑まれてしまったことを後に告白している。

早くから「世界」を期待されたホープが、こともあろうに日本タイトル
「ごとき」で2度もつまづいた。本人の絶望感は相当なものだっただろう。
事実、セレス戦後に浅井は、引退すら真剣に考えたという。

しかし僕は、この挫折こそが浅井を「本物のボクサー」にしたのだと思う。
失意のドン底からそれでも復活を決意した浅井は、再起2戦目で何と
世界ランカーと対戦、いきなり序盤にいいパンチをヒットされピンチに陥る。
今までの浅井なら、ここで勝負を投げてしまっていたかもしれない。
だが浅井はこのピンチを凌ぎ切って徐々にペースをつかみ、後半にダウンを
奪って見事に判定勝ちを収めたのだ。そしてその勝利によって世界ランク入りを
決め、今回のチャンスをつかんだわけだ。

チャンピオンのポンサクレックは、あのセレス小林と引き分けてタイトルを守った
マルコム・ツニャカオを、何と1RKOで下してベルトを奪った男である。
セレスに完敗した浅井と、セレスと引き分けた男に圧勝したポンサクレック。
その戦歴から考えれば、悲観的な予想がなされるのも仕方ないだろう。

しかし逆に言えば、今回が初防衛戦でもあるポンサレックには世界戦の経験が
まだ1ラウンドしかなく、試されていない部分も多々あるということだ。
また、現在のWBCフライ級はコロコロと王者が入れ替わり、本当に強いのは
誰なのか分からない状況になっている。浅井にも勝機は充分あるのだ。

今の浅井はセレスと戦った頃の浅井とは違う、と僕は思う。
元々持っていた素質に加え、挫折から這い上がることで精神的な強さを、
そして自らの拳で逆境をはね返したことで自信を、彼は身につけたはずだ。

ぜひとも、最大の舞台で最高の結果を出して、日本全国のボクシングファンを
あっと言わせて欲しい。2年前、先輩の戸高秀樹がそうしたように・・・。