016)浸食谷

 黄土にはやっかいな性質があります。固まっているときはカチンカチンで、スコップも立たないくらい。いったん耕すとフワフワのパウダーになり、春先の風に舞い上がって黄砂になります。水にはとてももろくて、ちょっと雨が降るとドロドロのグリス状になるんです。
 そのうえ黄土高原は、木も草も少ない。年間降水量は400ミリと少ないんですけど、その大部分が雨期の夏に集中します。激しい雨のたびに大地がえぐられて、深い浸食谷ができます。
 深さ100メートル以上になることもあります。それが連続しているようすをみて、「小型のグランドキャニオンですね」と話すツアー参加者もいました。
 最初のころ私もこれが珍しくて、崖のフチまでいって写真を撮ったものです。あるとき、足元に深い裂け目があるのを発見して、血の気がひけました。
 20年も前、黄河の三門峡での測定では、1立方メートルの水に38・2キロも土が含まれており、一年間に黄河は16億トンもの土を運び出したんだそうです。
 その土で、幅1メートル高さ1メートルの堤防をつくると、延長は100万キロ以上で、赤道の周りを27周もすることになります。大陸の環境問題は、日本人の感覚ではとらえられないんですね。
 水と土はすべての生命の源です。水と土がこのように失われることを、中国のある知識人は「大動脈出血」だと警告しました。
 【写真】植生の乏しい大地を雨が洗い、深い浸食谷ができる。
 (2003年7月5日号)
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