はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

QuickStart(1)

2009-06-07 13:05:29 | マンガ
「QuickStart(1)」安達洋介

 テーブルトークRPG(以下TRPG)版「あずまんが大王」というと身も蓋もないけど、そんな話。入学したての女子高生・桃子と仲間たちが出会い、あっというまに意気投合し、共にTRPG部を立ち上げキャンペーンを開始するまでの日常を描いている。
 TRPGなんてまったく知らないという人のために説明すると、紙と鉛筆とダイス(サイコロ)を使った卓上演劇のことだ。ぶっちゃけていってしまうと、演技だけでコンピュータゲームのRPGをやってしまおうという試みだ。つまり、ドラクエやらFFやら、世に有り余るRPGで感じた様々な矛盾・理不尽、「なんでそこでそんなことするんだ?」というWHYをフォローすることができる。ゴブリンとのバトルひとつにしたって、「攻撃する」という単純なコマンドは存在せず、自分の頭とキャラの能力の範囲内でできるあらゆることができる。石を投げたっていいし風呂敷をかぶせたっていいし、アイテムを差し出して命乞いなんていうことまでできてしまう(命の保証はないけども)。
 演技する恥ずかしさを凌いでしまえば、とてつもなくフリーな娯楽の空間が待っている。だが最大の問題点はというと、甚だしくマイナーなジャンルだということ。同好の士は一握り。プレイヤーを集めるのに最適なのは学校だが、当該同好会がない場合はなんとかして見つけるしかない。幸いぼくの場合は在籍した大学に二つも(!)当該同好会があったし、新入生への説明会で偶然隣り合った人が同好の士だった(いまでも奇跡だと思う)。
 本作には、高校入学までに仲間がいなくてキャラシートを作って妄想するしかなかったフミという女の子が登場する。フミはすぐにプレイすることに馴染んでしまうので、知らない人とセッションする恥じらい、なんていう初心者にお馴染みの光景は見られないけど、身近にTRPG環境が出来た喜びが痛いほど感じられる。顧問の高見先生の「……学生のうちはほんとに存分に遊ぶといいわよ」というつぶやきにも、社会人になって味わうセッション機会の少なさ、という切実な現実がうかがえる。かくいうぼく自身も、今や完全に引退の身だ。身近にTRPG環境がないのはもちろん、仮にあったとしてもセッションする暇がない。キャンペーンなんて夢のまた夢だろう。
 登場するゲームがF.E.A.R製ばかりだったり、各ゲームへの説明がやたら少なかったりという欠点はあるものの、桃子たちの周囲にあるTRPG漬けの環境を見るだけで、ぼくには深く感じ入るところがあるのだ。