はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

とめはねっ!

2007-06-07 21:02:27 | マンガ
 高校生くらいの少女が仁王立ちで棒を頭上に持ち上げている。50センチほどの長さで手貫きがついていて、先端には黒く染まった長い毛足がついていて……。
 題名と考え合わせると、ひとつしか答えはない。でも待てよ。いやいやまさか。そんなもの絵になるわけが……。

「とめはねっ!」河合克敏

 そのまさかだった。「帯をギュッとね!」で柔道を、「モンキーターン」で競艇を描いた河合克敏の最新作は、まさかまさかの書道もの……。
 カナダ帰りのがっかり帰国子女(そうは見えないという意味で)大江縁は、入学式でひたすら感動していた。書道部有志による揮毫「青春アミーゴ」に……ではなく、隣の席に座った望月結希のかわいさに。3人しかいなくて廃部寸前の書道部が思いを込めて書いた力作ではなく、生身の人間に。ほのかな想いがその後おかしな形で実を結ぶとは露とも思わずに、ただ望月の隣に座れた幸運に感謝していた。
 のぞきに間違われたことをネタに書道部に入れられた縁と、その縁を怪我させたことをネタに無理矢理書道部と柔道部の掛け持ちをさせられた望月。なんとか部員を5人揃えて形を保てた書道部は、とにもかくにも二人の育成に励む。一という字を一日500本書かせ、それができたら今度は十を書かせ、その次は永(「永字八法」といって一つの中に書道に必要な技法がすべて入っているらしい)の字を書かせ、さらには書道大会用の出典作品を書かせと、スポ根チックな展開もある。
 ともに書道とは無縁の生活を送ってきた二人。だが字のうまい祖母と幼い頃から手紙をやり取りしていた縁と、柔道しか知らずに育った普段着ジャージの望月では出来に雲泥の差がある。男らしくない縁に女らしくない望月が焼いたり、逆に望月の男らしさに縁が感心したりといったシーンもあるし、この二人の対比と融和が作品通しての筋なのだろうか。
 天使のようにやさしい部長ひろみ。元ヤンくさい加茂、策士の三輪と、書道部を構成する面子(全員女性)も賑やかで飽きない。
 全体的にソツなくまとまっているのはさすがだが、どうも一抹の不安が拭えない。それはやはり、書道というテーマ性だ。喧嘩だったら相手をぶん殴る。スポーツだったら決まった得点を入れる。テーブルゲームだったらゴールを目指す。ミステリだったら犯人探し。サバイバルだったら生き残り。なんにだって目標ってものがある。また、そうでなければ盛り上がらない。書道の場合はどうだろう。コンクールで賞をとることか? 基準はどうする? 美醜なんてどうやって表現するのだ。
 もちろん、あらゆる話がきっぱりはっきり何かをすることを目的として作られているわけではない。はっきりしないもやもやしたものの中に答えを見出す作品なんていくらでもある。だから不安なのだ。柔道に競艇といったわかりやすい作品ばかり描いてきた人がいきなり新分野に挑戦するのが。まだ1巻しか出ていないが、この先打ち切られずに続けていけるのか。目新しいネタだけに、是非完成させてほしいという気持ちが強い。河合克敏の今後に期待だ。

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