はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

アガペ(1)

2008-04-25 20:26:27 | マンガ
アガペ 1 (1) (MFコミックス)
鹿島 潤
メディアファクトリー

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 奇麗事がきらいだ。ご立派なお題目を唱える人を見るとぞっとする。その論説が正しければ正しいほど、美しければ美しいほど胡散臭く感じてしまう。
 人間は醜い。自分自身がそうであるように、他の多くの人もそうだと思う。口では他人の幸せを願っていても、実際には自分のことしか考えていないに違いない。
 でも、信じたいとは思うのだ。どこにあるとも知れぬ、ついに見つけることかなわぬかも知れぬ、人の善性を。

「アガペ(1)」画:石黒正数 原作:鹿島潤

 刑事部捜査1課特殊班捜査第ゼロ係。日本の警察機構に初めて設立される犯罪交渉人専門チーム。ハイジャック、人質篭城、誘拐……そんな凶悪犯罪において、強行突破や武力制圧ではなく犯人との交渉・説得によって事件の解決をはかるスペシャリストチーム。
 構成員は3名。
 心理学、精神分析、プロファイリング、犯罪学、あらゆる学問とデータから構築された「交渉術」のプロ・武市。
 日本の警察が培ってきた「落とし」、「吐かせ」の技術を身につけた人情派敏腕刑事・小宮山。
 そして空白だった最後の席についたのは、100%利他的な、見返りを求めない無償の愛「アガペ」の人格を持つ女子高生・一乗はるか……。
 この世に巣食う憎しみの連鎖を止めるのは、技術でも経験でもない愛だ。ギリシャ語で「神の愛」を意味するアガペの人格を持つはるかは、父を殺したバスジャックを投降させ、学校を占拠した教師を説得する。身に寸鉄も帯びず、身体一つで相手の懐に飛び込んで。彼女は愛してしまうのだ。壊れ狂った犯罪者の心の穴を埋めようと、心底にある何かがその者を愛せよと告げるのだ……。

 感情表現に乏しく何を考えているかもわからない女子高生はるかが、何一つ接点のない犯罪者を愛する。根拠のない愛を浴びた犯人は、たちどころにほだされ、投降してしまう。
 その時点で眉をひそめる人が大半だと思う。愛なんていう曖昧な概念ひとつで、追い込まれ開き直った犯罪者を救えるわけがない。
 僕も同じ事を思った。おまえ誰なんだよ。何言ってんだよと。
 だが、そこがつけ目なのだ。真顔で愛を語るいびつな女子高生に違和感を持たせるのが狙い。気がつけば、とてつもなく壮大な大風呂敷の結び目に釘付けになっているという寸法。
 ほら、あなたも目が離せない……。

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