はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

果断 隠蔽捜査2

2010-09-24 18:34:27 | 小説
果断―隠蔽捜査〈2〉
今野 敏
新潮社

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「果断 隠蔽捜査2」今野敏

 警察庁長官官房から所轄の警察署長に異動、つまりは飛ばされた竜崎だが、もちろん意識の高い人なので腐ったりはせず、今の自分だからこそできる理想的な署長を目指して日々努力を怠らない。その署長っぽくない無私無欲な勤労ぶりは、最初こそ周囲から奇異の目で見られたものの、所轄を揺るがす大事件の中で、徐々に受け入れられていく。
 事件、というのは検問を破った強盗事件の犯人が、拳銃を所持した状態で管内の飲食店にたてこもるというものだ。事件の成り行きに疑念の拭いされない竜崎は、警察庁の刑事部長・伊丹に署での指揮を任せ、自分は現場の指揮本部へと向かう。
 一方、良妻賢母を具現化したような竜崎の妻・冴子の身に危険が迫っていた。血を吐いて倒れ、緊急入院したのだ。
 管内で強盗犯人を取り逃がして立てこもられ、家庭では妻が倒れと、公私ともにぼろぼろな竜崎。だが、どんな状況でも彼は徹底している。警察官僚として、選ばれた人間として出来うる最大限の努力をするのみだ。

 警察官僚・竜崎の活躍を描いた異色作品の第2弾。
 ノブレス・オブリージュというのは高い身分の者に伴う義務のことだけど、竜崎にふさわしい言葉としてこれ以上はない。自分が難しい局面で物事を判断する立場にある事、責任の意味を誰よりも理解していながら、決して守りに入らない。その場その場で常にベストと思われる手を打つ。損得も署の面目もまったく抜きの最善手。周囲には奇異にしか映らないそれが、作中では効果的に描かれていて、どこかコミカルさを醸し出している。「踊る~」の室井管理官がガンガンいっている感じ、というと掴めるか。
 1巻でもそうだったけど、竜崎は家族関係もないがしろにはしない。いや、竜崎自身はないがしろにしているのだが、作者と状況がそうはさせない。長男の麻薬使用の次は、妻の入院。しかも実質的に家のすべてを仕切っていた冴子が倒れたことで、一気に竜崎の生活に支障が出る。食事が出てこない、どこに何があるかわからない、家に戻れば何もできない中年にすぎない竜崎の不安げな様が見れるのが面白かった。