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はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

PRIDE34 ~KAMIKAZE~

2007-05-02 01:02:31 | 格闘技
PRIDE34 ~KAMIKAZE~

リストを眺めたかぎりでは面白そうにも見えないが、蓋を開けてみると意外と好試合揃いだったPRIDE34について。
 
○中尾"KISS"芳広VSエジソン・ドラゴ× 1R9:15袈裟固め
ヒース・ヒーリングに試合前にノックダウンされて以来完全に道を踏み外した感のあるアマレス・エリート中尾。溢れるボクシングセンスに恵まれながらも結果を出せないドラゴ。未完の大器同士の一戦となったこのオープニングマッチは、中尾の成長が目立った。ボクシングの攻防ではドラゴに遠く及ばないものの、バックスピンキックや前蹴り、大振りのフックからのタックルや片足タックルなど仕掛けの多さでドラゴをボクシングに集中させない。それはテイクダウンしてからも同様で、パウンド、膝などのプレッシャーで相手の注意を反らしてポジショニングの攻防を有利に進め、アームバーなどの関節技を狙うという流れが完全に体に叩き込まれている。最後は袈裟固めで文句なしの一本。強くなった。中尾。

○バタービーンVSズール× 1Rアームロック
180㌢185㌔のバタービーンと200㌢185㌔のズール。スーパーヘビーの名にふさわしい二人の戦いは、意外な早期決着となった。ゴングと同時に両者突進。ノーガードのどつき合いで場内を沸かせると、そのまま転がった……もとい、グラウンドに雪崩れ込んだ。上になったのはバタービーン。さすがに自分と同じ体重のものが上に乗ると身動き取れないのか、ズールまったく抵抗らしい抵抗ができない。鉄槌を落とされ脇に膝を叩き込まれ、アームロックで極められるまで一切いいとこなし。経験の差が素直に勝敗を分けた。

○瀧本誠VSゼルグ"弁慶"ガレシック× 1Rアームバー
右目の眼窩底骨折から復帰した瀧本の対戦相手はCAGERAGEのミドル級チャンプガレシック。弁慶のコスプレで登場した「変な外国人」。
ガレシックの強さの秘密は長い手足だ。薙刀のように長いリーチから飛び出すテコンドー仕込みの蹴りが良い。予備動作のほとんどないところからすんなりとつま先が飛ぶ。ロー、ミドル、ハイと散らし序盤瀧本を追い込むも、足を払われてグラウンドに持ち込まれてからはずっと瀧本ペース。踏みつけからの崩れでマウントを奪ったり、サッカーボールキックを打ったりと見せ場を作るも、最後はアームバーで仕留められた。
瀧本は今までの試合のイメージが悪く、まったく注目していなかったものの、今回は練習の成果なのか素晴らしい動きを見せてくれた。特にグラウンド。まず動きを止めない。ひとつの技がダメならもうひとつの技へ。ポジショニングの攻防も含めて常に攻め続ける姿勢を見せる。下半身の使い方も抜群だ。のしかかったり押さえつけたりするだけではない。相手の体の各所にからみつくような独特の動きは他の選手にはないものだ。

○ギルバート・アイブルVS小路晃× 1R3:46TKO
打撃のアイブル対寝技の小路、というような見方ではない。PRIDE創成期から出場し続けている小路が、ぶっちゃけどこまで生き残れるのか。そういう試合だ。途中足関の取り合いという謎の展開も挟んだものの、最後はやっぱりアイブルの暴力が勝った。

○ジェームス・トンプソンVSドン・フライ× 1R6:13TKO
いい試合だった。熱い戦いだった。力でもなくテクニックでもない、純粋な精神力のぶつかり合い。彼らは勝ち負け以上のものを賭けて競い合った。
総合格闘技草創期より最前線で輝き続けてきた男と、その男に憧れて育った男の対決。グラウンドもあるけれど、関節技もあるけれど、やっぱり決め手はどつき合い。互いの首根っこを掴みあってのガチンコ勝負に観客は酔いしれた。男塾対パンク塾なんていうバカな煽り文句も気持ちの良い、実にPRIDEらしい戦いは、百発近いパンチを被弾しながらも倒れないドン・フライのスタンディングダウンで幕を閉じた。

○青木真也VSブライアン・ローアンユー× 1R三角締め
寝技のスペシャリスト青木。今回の対戦相手は元囚人にしてカンフー仕込みのキックボクサー、ブライアン。切れ味鋭い飛び膝、激しいパウンドの前にひやりとさせられる場面はあったものの、終わってみれば今回も1R少々の瞬殺一本劇。
二発あった飛び膝を二本ともキャッチし、二本目で仕留めた。グラウンドに持ち込むや否や、いつもどおりの詰将棋。わざと上をとらせておいて足を相手の首に回し、瞬時の三角締めに切って落とした。

○ソクジュVSヒカルド・アローナ× 1R1:59TKO
アントニオ・ホジェリオ・ノゲイラを倒し、一躍時の人となったアフリカンファイターソクジュ。彼の前に立ちはだかったのは、同じBTTのチ-ムメイトの敗北がフロックであったことを証明するためにやってきたヒカルド・アローナ。いわずとしれたアブダビコンバット王者。
ミイラ取りがミイラ、とはまさにこのことだろう。ソクジュの重いローと、ジャブすら当たらぬフットワークに焦ったアローナは、成就しなかった片足タックルの体勢で変に粘ってしまった。手打ちながらもパンチを被弾し、たまらずの離れ際、強烈なソクジュの右のアッパーカットをもろにくらってしまった。そのまま吹っ飛ぶように倒れ、追い討ちをかけられたところでレフェリーが止めに入った。
特筆すべきは運動神経。アローナほどの男に片足をとられ、押されても引かれてもびくともしないバランス感覚。チャンスを見逃さない狩猟本能。寝技系のトップクラスを二人食った野生の獣の次なる標的は誰だ?

○ジェフ・モンソンVS藤田和之× 1Rチョーク
PRIDE・UFC対抗戦第1弾は、ジェームス・トンプソン戦で根性を見せた藤田とUFCヘビー級で王者を争うモンソン。
ぶん回すフックが得意な藤田。まっすぐストレートのパンチ主体のモンソン。スタイルの違いこそあるものの、打撃のテクニック自体はほぼ互角。タックルを全部切っていた藤田のほうが若干戦況を有利に進めていた。しかし勝利に対する執念はモンソンのほうが各段に上だった。四点ポジションをとられ圧倒的に不利な姿勢に追い込まれながら、筋肉と瞬発力でひっくり返す機会を耽々と狙うモンソンに対し、圧力にびびって膝蹴りを打てない藤田。メンタルの差はそのまま試合結果に繋がった。藤田の足をとりひっくり返したモンソンはポジショニングの争いに勝利し、バックマウントからチョークを極めた。

UFC70~NATIONS COLLIDE~

2007-04-26 21:16:00 | 格闘技
UFC70~NATIONS COLLIDE~
4月21日に英国はマンチェスターM.E.Nアリーナで行われたUFC70の結果。WOWWOW放送分以外の試合はわからないが、見た限りは以下の通り。ウェルター級1試合ライト級1試合ライトヘビー級2試合ヘビー級2試合の計6試合。試合前に流れた高阪の「グラウンドでの肘打ち講座」がおそろしく皮肉に見える結果となった。

○ジェス・リアウディン(1R 1分21秒 腕ひしぎ逆十字固め)デニス・シバー×
開始早々スタンドでのもつれ合いからグラウンドへ。下になったジェス・リアウディンがデニス・シバーの腕をとり、そのまま腕ひしぎを極めてあっさり勝利。

○テリー・エティム(1R 4分48秒 フロントチョーク)マット・グライス×
スタンドはほとんどないグラウンドでの展開。細っこい印象のムエタイ戦士エティムが終始パウンドを落とされ攻められていたのだが、スタンドでグライスの首をとり、不自然な姿勢ながらも背筋を器用に使って締め上げ、最後はグラウンドで胴締めしながらフロントチョークでグライスの意識を刈り取った。

○LYOTO(判定 3-0)ディヴィッド・ヒース×
猪木の愛弟子、というどうでもいい名をいただく空手マンLYOTO。対戦相手がグリフィンからディヴィッド・ヒースに変わったことが影響したのかしないのか、慎重な出だし。特徴の伸びる左ストレートと左ミドル、出足でのローとハイを生かし、徹底して中間距離で戦う。結論からいえばそれがよかった。1、2Rともに接近戦はほぼなし。時折飛び込んでくるディヴィッド・ヒースを軽くさばき、自分の得意な攻撃を単発で当てていく。コンビネーションがないので際立って追い詰めるということこそなかったものの、ディヴィッド・ヒースの腹を赤く染めたミドルはなかなかのもの。3R中盤、豹変したように膝で猛ラッシュ。勢いでグラウンドに雪崩れ込み、サイド→マウント→バックマウントともっていくものの極めきれず、時間切れ終了。フルマークの判定勝利も、観客席からブーイングが途絶えることはほとんどなかった。

○マイケル・ビスピング(2R 1分21秒 TKO)エルビス・シノシック×
シノシックの片足を掴んで倒したビスピング。シノシックがクローズガードに入るも構わずパウンド、肘の嵐。いまいち精度に欠けるも、なりふり構わぬ猛攻で圧倒的なアドバンテージを稼ぐ。2R最初こそシノシックの間接技で危ない場面があるものの、最後はやっぱりパウンドパウンド。たまらずレフェリーが止めにはいる。

○アンドレイ・アルロフスキー(判定 3-0)ファブリシオ・ヴェウドゥム×
サンボ世界王者と柔術世界王者。元UFC王者とミルコの寝技師匠。肩書きは互角だが総合での実績に開きのある二人のカードは、いまいち面白みに欠ける展開となった。ある程度の力のある者同士だからか、互いに間合いに踏み込めず、散発的な打撃を繰り返すのみ。どちらかといえばファブリシオが攻勢だが、グラウンドを嫌がるアルロフスキーの前につまらない試合展開となる。判定フルマークでアルロフスキー勝利となるものの、なんだかすっきりしない。ミルコとの練習でめきめきと打撃の実力を上げているファブリシオの今後に期待したい。

○ガブリエル・ナパオン・ゴンザガ(1R 4分51秒 右ハイキック)ミルコ・クロコップ×
世紀の大番狂わせ?しかし試合を見れば納得だ。ゴンザガ強い。ミルコの左ハイとミドルを避けるためミルコの左に回るなんてのは誰でも考えることだが、ゴンザガはそこからさらにアグレッシブに攻めていった。そのためミルコも追いきれず、打撃を出せない。ストライカーがパンチもキックも打たせてもらえない。じりじりとした展開の中でようやく出したミドルを同タイミングでタックルにきたゴンザガにキャッチされ、そのままグラウンドへ。そしてここに、PRIDEならぬUFCならではの洗礼が待っていた。クローズガードをとるミルコの顔面に、容赦のない肘、また肘。横からだけではなく頭頂部からも落ちてくるゴンザガの肘によってミルコ出血。何発かいいのをもらい、会場騒然となる。と、ここで怪しい裁定。残り35秒となったところで謎のブレイク。そしてスタンドで再開。露骨なミルコへの援護射撃にスタジオにも微妙な空気が流れる。その雰囲気を一変させたのは残り10秒で放ったゴンザガの右ハイだった。わかりやすい攻撃だと思ったのだが、グラウンドでの攻防で疲れきっていたミルコは思わずミドル用のガードをとる。がら空きの顔面をゴンザガの右足がとらえ、まさかまさかの失神KOとなった。

K-1 WORLD GP 2006 12/2

2006-12-03 00:16:44 | 格闘技
セーム・シュルト
身長212㌢
体重130㌔
巨体を生かした重い打ち下ろしの打撃と、長い手足を生かした間合いの攻防で、現在他を寄せ付けない圧倒的強さでもってK-1を席巻している。とくに空手ベースの前蹴りと、顔面まで届く膝蹴りは脅威で、正直今の立ち技シーンでその制空権を侵せる選手は見当たらない。




……だからどうした?




誰もがそう思っていた。
ジェロム・レ・バンナ
アーネスト・ホースト
ピーター・アーツ
K-1レジェンド総がかりの完璧な布陣。ことにリザーブファイトを勝ち上がってきたピーター・アーツの仕上がりは完全に近く、観客の誰もがドラマの始まりを予感していた。
みんな、信じていたのだ。
人より身長が高いとか。
人より手足が長いとか。
ただそれだけの、もって生まれた素質だけで勝ちあがれるほどK-1は甘くないと。才能だけですべてがうまくいくなんて、そんな理不尽なことなどこの世にはないんだって。努力すればできないことはないんだって。そう信じたかったのだ。
でも、かなわなかった。
ローが効いて試合を優勢に進めていたアーツの身体に異変が起きたのは2ラウンド目。シュルトのボディ攻撃が実り、アーツの勢いは完全に殺された。
その後は、無残なものだった。ダウンを奪われ、何発も何発も有効打を被弾し、アーツの敗勢は決定的と見られた。
俺自身は、対戦中1度もアーツが左ハイを打ってないことから、最後に隠し玉としてとっているのだと祈るように思っていた。それしかすがるものがなかった。今のアーツを築いたもの。これからも、きっと目の前に立ちはだかる敵をなぎ倒していくもの。伝家の宝刀。その出番はついに訪れなかった。ボディが効いてしまっていて、とても打てる状態ではなかった。
試合後の空白を、俺はぞっとした気分で迎えた。ひさしぶりに盛り上がったK-1の会場が、一斉に引いていた。才能、素質、そんな、どうしようもないものの存在が、空白を支配していた。

その他の試合
<K-1 WORLD GP 2006 準々決勝 3分3R延長1R> 
○セーム・シュルト(オランダ/正道会館)
×ジェロム・レ・バンナ(フランス/レ・バンナエクストリームチーム) 
判定3-0

<K-1 WORLD GP 2006 準々決勝 3分3R延長1R> 
○アーネスト・ホースト(オランダ/チームミスターパーフェクト)
×ハリッド“ディ・ファウスト”(ドイツ/ゴールデングローリー) 
延長判定3-0

<K-1 WORLD GP 2006 準々決勝 3分3R延長1R> 
○グラウベ・フェイトーザ(ブラジル/極真空手) 
×ルスラン・カラエフ(ロシア/マルプロジム)
1ラウンドKO

<K-1 WORLD GP 2006 準々決勝 3分3R延長1R> 
○レミー・ボンヤスキー(オランダ/チームボンヤスキー)
×ステファン“ブリッツ”レコ(ドイツ/ゴールデングローリージム)
判定3-0するも、ローブローが効いてしまい、準決勝欠場。

<K-1 WORLD GP 2006 準決勝 3分3R延長1R> 
×アーネスト・ホースト(オランダ/チームミスターパーフェクト)
○セーム・シュルト(オランダ/正道会館)
判定3-0

<K-1 WORLD GP 2006 準決勝 3分3R延長1R> 
×グラウベ・フェイトーザ(ブラジル/極真空手)
○ピーター・アーツオランダ/チーム アーツ)
2ラウンドKO

<スーパーファイト(リザーブファイト1)3分3R延長1R>
○ピーター・アーツオランダ/チーム アーツ)
×武 蔵(日本/正道会館)
1ラウンドKO

<スーパーファイト(リザーブファイト2) K-1ルール3分3R延長1R>
○レイ・セフォー(ニュージーランド/レイ・セフォーファイトアカデミー)
×メルヴィン・マヌーフ(オランダ/ショータイム)
1ラウンドKO

<スーパーファイト K-1ルール3分3R延長1R>
○バダ・ハリ(オランダ/ショータイム)
×ポール・スロウィンスキー(オーストラリア/ファインダーズ ユニ ムエタイジム)
 判定3-0

<オープニングファイト>
○堀 啓(日本/チーム・ドラゴン)
×キム・ギョンソック(韓国/Team Lazenca)
判定3-0

<オープニングファイト>
×野田 貢(日本/シルバーアックス)
○澤屋敷 純一(日本)
判定2-1

<オープニングファイト>
○佐藤 匠(日本/極真会館)
×高荻 勉(日本/チーム・ドラゴン)
2ラウンドKO

生きるべきか死ぬべきか

2006-10-12 15:03:42 | 格闘技
タブロイド、というのは新聞の用紙サイズのことを指す言葉だ。
かつて、ゴシップ紙やスポーツ紙にこのサイズのフォーマットを選択した新聞紙が多かったため、信憑性に欠ける飛ばし記事を書く新聞紙のことをタブロイド紙と呼ぶようになった。
2006年9月27日。日本タブロイド紙の草分けともいえる新聞紙が休刊した。
「週刊ファイト」。1967年から実に39年間、大衆娯楽としてのプロレスを発信し続けた。
個人的にはそれほど愛着のある新聞紙ではない。興味のある記事が掲載されている時に思いつきで購入するくらいで、「毎回欠かさず読んでました」的読者層とはスタンスも違う。
だが、やはり伝統的紙媒体がひとつ消えるのは悲しい。それは活字メディアを愛する者として、プロレス興業を愛する者としての感想でもある。

同紙の休刊理由は、マット界の沈滞と、活字メディアの衰退。
ゴールデンタイムのお茶の間に流れていた昔と違い、今のプロレス中継は主に深夜帯。明らかなアングラ扱いだ。
ネットなどがそもそも存在しなかった当時、プロレスを語れるのは紙面の上だけだった。今は拡大したネット上で、試合速報でも中継でもあっという間に手に入る。望むなら眉唾な「裏情報」までも。
いい意味でも、悪い意味でも、プロレスは世界の成分に拡散していった。総合格闘技がもてはやされる昨今、その存在は一部のマニアのためだけのものになってしまった。
冷静に考えるなら、「週刊ファイト」の存在意義はもはやないのだ。少なくとも紙媒体である意味がない。あるとすれば1と0の世界だけ。ネット上で細々と配信してくれることを願うしかない。発行者が、死に体のままい続けることに納得がいくのなら。

怪物とサイボーグのノーサイド

2006-10-01 07:23:25 | 格闘技
会場中が息をのんだ。
28センチの身長差から降ってくる丸太のようなパンチの連打をかいくぐり、バンナがホンマンの懐に飛び込んだ。
直後、鉤のような右フックがホンマンの顔面を掠めると、大きな歓声が沸き起こった。

K-1レジェンドと呼ばれる選手がいる。ピーター・アーツにアーネスト・ホースト。K-1草創期を支え、今にいたる絶大な人気をもたらしつ、なおも現役の選手たちのことだ。
その中の一人に、ジェロム・レ・バンナという男がいる。ハイパーバトルサイボーグ、K-1の番長と呼ばれ、「掠っただけで失神KO」と称される圧倒的なパンチの破壊力と攻めの姿勢から多くのファンをもつ生粋のストライカーだ。
2000年。フランシスコ・フィリオの登場によりK-1に極真-ブラジルの嵐が吹き荒れた時、その嵐の真っ只中に飛び込み一撃でノックアウトしたのはバンナだった。
2006年。今度の黒船はコリアンモンスター、チェ・ホンマンだった。
誰も止められなかったホンマンを止めるのは……やはり彼しかいない。
試合前の予想通り、面白い試合だった。
K-1最強のバンナの右ローを浴びて動きの止まったホンマンの懐に、危険を顧みずに突撃するバンナ。しかも熱くなりすぎてセコンドの指示を聞かず、パンチ主体の戦いに打って出たバンナ。
その猛攻を受けて、ホンマンは笑っていた。苦しみでも怒りでもない。その表情にあるのはまぎれもない嬉しさだった。
バンナは、ホンマンがデビューする前から憧れていた選手らしい。その選手が自分の予想通り強かったことが嬉しかったのだろう。その憧れと戦えているという事実が嬉しかったのだろう。
試合後に、ホンマンがバンナを抱きしめたこともよかった。それは純粋に格闘技を楽しんでいるということだから。対戦相手をリスペクトし、遺恨の残らぬ綺麗な殴り合いをしたということだから。K-1にもノーサイドはあるということだから。

ボクシングが死んだ日

2006-08-12 01:44:38 | 格闘技
表題は二宮清純の言葉。
8月2日に行われた亀田興毅VSファン・ランダエタ戦に寄せられたものだ。
あれから10日が経過しているものの、いまだ騒ぎはやまない。擁護派批判派分かれて喧々諤々の主張を繰り返している。放送元のTBSに対してわずか1日で5万件の抗議が殺到したというのだから、事後の混乱もやはり尋常ではないのだろうが……。
間違ってはいけないのは、亀田親子や本人に責任はないのだということ。
八百長判定もホームタウンデシジョンも、今に始まったことではない。
ボクシングだけではなく多くの格闘技の興業には、程度の差こそあれ利権が生まれる。どうしたってそこに闇は生まれる。世の中には、勝ってはいけない選手が存在する。
8月5日に行われたHERO'Sの桜庭和志VSケスタティス・スミルノヴァス戦においても、似たような状況が生まれた。
顎を打ち抜かれた桜庭が明らかにグロッキー状態になったのだが、なぜかレフェリーは止めもせず、試合をいつまでも続けていた。
それは凄惨なもので、結果的には桜庭がスタミナ切れを起こしたスミルノヴァスに腕ひしぎ逆十字で逆転一本勝ちを納めたものの、試合後は微妙な空気が漂っていた。
判定と一本勝ち。一見違うようにも見えるが、この両者の戦いは本質的に非常に似ている。
TBSが亀田に期待したように、桜庭も勝たなければならなかった。お膳立てのできた試合のブックを覆してはならなかった。
この、ごく近い期間に行われたふたつの試合は、どんなに望んだとしても勝ってはいけない選手が存在するということの証左を見せてくれた。

ヒーロー

2006-06-30 21:04:08 | 格闘技
2004年7月10日。
東京ドーム満員の観衆が一斉にどよめいた。そのどよめきは絶叫となり、すぐに熱狂に変わった。
小橋建太が愛弟子秋山準に対し、トップロープ最上段から「場外」に投げ技を放ったのだ。しかも、当の小橋建太自身はその直後に血を吐いている。
その瞬間、俺は思った。以前より思っていたことが、確信へ変わった。
こいつ、バカだ。

ヒーローと呼ばれる存在がいる。
多くの者に尊敬され、愛される存在がいる。
俺にとってのそれは、プロレスラーだ。名を小橋建太という。以前は小橋健太と名乗っていた。
彼の戦闘スタイルは単純明快だ。一息に言って、気合いと根性。他の選手の何倍もの練習量によって培われた防御力と体力でもって相手の技をすべて受けきり、さすがにもうダメかと思われるようなダメージの蓄積をものともせずに立ち上がり、打破する。握り拳を作ってトップロープに登る後ろ姿には、感動すら覚える。
熱血で朴訥で天然。1988年のデビュー以来、彼はプロレスに人生を捧げたともいわれるその真摯な姿勢によって、多くのファンを作ってきた。怪我に泣かされ、戦線離脱を余儀なくされた時も、皆が彼の復活を待ち望んだ。
復活、そして絶対王者とも呼ばれた長期政権。低迷に喘ぐプロレス界を一人支えてきた。
鉄人。ミスタープロレスを体現した男。ジャパニーズ・レジェンド。どれだけ言葉を尽くしてみても、すべてを表現することが出来ない。
そんな小橋が悪性の腎腫瘍に冒されていると判明したのは6月29日のことだ。その報に接した時、俺の中の時間が止まった。多くのファンも、きっと同じ気持ちだろう。
願わくば神よ。俺たちから小橋を取り上げないでくれ。
そして小橋よ、病魔の攻撃をも受けきって、また雄々しく立ち上がる姿を俺たちに見せてくれ。

ある格闘少年の夢

2006-06-04 00:49:50 | 格闘技
果敢に前に出た。
緊張で震え出しそうな膝に喝を入れ、歯を食い縛った。一歩踏み込めたらもう一歩、さらにもう一歩。ディフェンスなど考えなかった。攻め続けること。番狂わせがあるとしたらそこにしかない。だから、ひたすらパンチを繰り出した。拳の先には世界があった。

K-1ソウル大会
堀啓VSピーター・アーツ
2ラウンド半ば。伝家の宝刀、左ハイ。
キャリアも実力も桁違いの二人。軍配はもちろんアーツに上がった。勝敗自体も、しごくあっさりとかたが付いた。
だが試合後は、誰もがふたりに惜しみない拍手を送った。堀啓がアーツに憧れて格闘技の世界に足を踏み入れたことを知っていたから。
自分の憧れた選手と一緒のリングに上がる。それはすべての格闘少年の夢だ。俺だって、もちろん例外じゃない。
羨ましかった。アーツの猛攻の末、完全に意識を刈り取られるようにして前のめりに崩れ折れた堀啓が。彼は本気のアーツと戦えたのだ。アーツが堀啓の気持ちに応えてくれたのだ。
でも、たとえ力を出し尽くしたのだとしても、格闘家の本能として、負けたいわけではなかったに違いない。
充足したような気分と裏腹の気持ち。それがまぶしかった。会場を埋め尽くした観客の間にも、同じような空気が流れていた。
堀啓が見せてくれたもの。それはかつて、彼が夢見た世界だった。

言葉も出ない

2006-05-16 20:05:16 | 格闘技
不意をつかれた。
意識の外からの一撃だった。
左のボディのさらに「下」をかいくぐるような膝へのタックル。
そして世界トップクラスのグラウンドテクニック。
挽回どころかたった一度のエスケープすら許されず、絶対王者は1R半ば、肩固めに沈んだ。

PRIDE武士道10
五味隆典VSマーカス・アウレリオ
4月に行われたこのカードについて、なぜ今頃語るのかといえば、単純につい最近見たからだ。録画したものをDVDに保存し、いつか見よう見ようと思いながらも見る勇気が出なかった。
格闘技を愛している。好きな選手に勝ってほしいという気持ちは誰にも負けない。
火の玉ボーイが燃え尽きることを事前に聞かされてしまって、どうしても見るのが怖かった。
見たのは夜中。部屋を真っ暗にして、だ。マーカス・アウレリオの完璧な試合運び。五味の圧力のなさ、精彩のなさ。ぐうの音も出なかった。加えて試合終了後のインタビューだ。
疲れた?
もっとも聞きたくなかった言葉が、今も耳に残っている。

もうひとつの敗北

2006-05-08 10:32:18 | 格闘技
 この世の中には、届かぬものがある。手を伸ばしても、命をかけて望んでみても、かなわぬものがある。
 五月五日のPRIDEオープンウェイトトーナメントにおいて、強烈なインパクトを残した試合がもうひとつあった。高阪の派手な引退試合とは異なる、苦い敗北。

 吉田秀彦対西島洋介

 前回ハントと好勝負を繰り広げた西島と、柔道王とのマッチメーク。
 試合が始まる前のインタビューで、西島はいった。「柔道よりボクシングのほうが強い。なぜなら相手の身体が触れる前に倒すことができるから」。細部は違うかもしれないが、要約するならそういうことだ。
 決して、ボクシングが弱いわけではない。グローブをつけた男同士の殴り合いなら、たしかにボクシングが最強だ。まして西島はかつて世界を制した男。自負心を責められるいわれなどない。
 だが戦いには、様々なファクターがからんでくる。体調。環境。ルール。ウェイト。
 サブミッションがない。足技がない。クリンチしても解決にならない。総合という戦場において、ボクサーは圧倒的に不利なのだ。今まで多くの世界ランカー達が総合のリングに立ったが、誰一人として結果を残せた者はいない。
 ハントのようなストライカー相手ならともかく、吉田が相手では…。試合開始以前から、危ぶまれていた戦いではあった。それでも、西島のキャラと実績。シンデレラマンの伝説になぞらえて、このカードはメインイベントとして成立することとなった。
 結果は……苦いものだった。西島は吉田に一発のパンチを浴びせることもなくダウンを奪われた。ロープを掴んだ左手が払いのけられた瞬間、試合は終わった。情け容赦のない結末。会場はため息に包まれた。西島の悔し涙の意味を、誰もが知っていた。