治しやすいところから治す--発達障害への提言

花風社・浅見淳子のブログ
発達障害の人たちが
少しでもラクになる方法を考える場です。

ちゅん平の初任給

2011-04-16 07:28:38 | 日記

三月の終わりから働き始めたちゅん平。
昨日初任給が入ったそうだ。
おめでとう!
自分で働いて稼いだお金で生活することの喜びをかみしめているという。
一人でも多くこういう自閉っ子が増えますように。

障害がある子どもが少しでも将来味わう苦労が減るように
一生懸命育てる親御さんたちがいる。
挨拶を教える。
それを同じ親仲間から「名誉健常者を目指している」などと言われて傷つく。
そういう展開を腹を立てながら見ていた。

でもね
この震災で、福祉はたぶん変わるよ。
現場にいる人たちほど、それを実感しているでしょう。
今この国は、救うべき人があまりに多い。
支援があれば自立できる人には自立してもらいたいのが本音だろう。
そしてますます、支援は「自立のため」の方向へと変わっていくだろう。

逆に言うと今ほど、障害がある子も自立できるように育てるのが報われる時代はないはずだ。

もっとも支援者でも方針は千差万別。
「あくまで社会があわせるべきだ」と主張し実践している人も多い。
その人たちが将来その子を食べさせてくれるわけじゃないことは
勘定に入れておかなくてはいけないと思うけど。

「あくまで社会があわせるべきだ」という主張が仮に正しいとしても
目の前にいる子どもは、支援者の政治的な信条を実現するためにいるのではなく
今後の日本社会の現実を生きていかざるをえない生身の存在であることは
いつも忘れてはいけないと思う。

この震災後に療育の方針がみじんもゆらがない支援者がいるとしたら
その支援者の社会性を疑う。私ならね。
3.11の前と後では、生きていく世界が違うのだから。

でも悪いほうばかりではないと信じたい。
4月3日、ここにも書いたように、子どもたちは未曾有の震災から大事なことを学んでいるようだ。
被災地では引きこもっていた大人たちが
避難所で人のために働き活躍しているという話も入ってくる。
昨日読んだ本によると
人のために働くという行為は脳内物質を変えるらしいので
実際に治療効果があるのかもしれない。

さて、私はお裁縫上手ではないが
最近お裁縫上手な人を羨ましく思っていた。
日本手芸普及協会で「被災地の子どもたちににスクールバッグを送ろう!」という呼びかけをやっていて
周囲で何人か、かわいいスクールバッグを作っていた人がいたからだ。

すごい数が集まり
現地にどんどん送り出されているようだ。
何もかも流された人たちがたくさんいるからね。

その中で感動した手紙に出会ったので貼り付けます。
特別支援学校の生徒さんたちも、これに参加したらしいです。

=====

お忙しいなか、申し訳ありません。
私は埼玉県立大宮北特別支援学校さいたま西分校の長谷川敦子と申します。今回、Twitterで『被災地にスクールバッグを贈ろう』の取り組みを知り、今年度一番最初の授業の題材にさせていただきました。
私が勤務する学校は、特別支援学校の分校(高等部)です。普通高校の中に間借りする形で設立されました。
週に8時間の職業学習の時間があり、私は手芸を通した職業教育を担当しています。
4時間の授業で自分の手でスクールバッグを作り上げた生徒たちに、この取り組みを紹介し、このバッグを被災地に贈ることを知らせたとき、生徒たちは驚きとともに、人の役にたてる喜びに最高の笑顔を見せてくれました。

震災以降、みんなが自分たちできることをさがしています。
軽度の知的障害をもつ本校の生徒たちも、同じです。
この取り組みに参加させていただいたことで、生徒たちは『自分たちにできること』がちゃんとあるという自信を持つことができました。
そして彼らにものづくりを教えてきて本当に良かったと、心から感じることができました。

素晴らしい機会を作ってくださり、本当にありがとうございました。
中には技術の拙さが目立つものもあったかもしれませんが、どうかご容赦ください。

=====

震災以降、みんなが自分たちにできることをさがしています。

本当にそうだなあ。

大地君も募金を頑張っている。
そのためにお手伝いを増やした。
お手伝いで稼いだ以外のお金はおうちのお金であり、大地君のお金ではない。
でも大地君は自分が募金をしたいのだから、自分が働いて稼いで送るという。
二人の妹ちゃんたちもそうしているらしい。

誰かの役に立っているという喜び。

こういう喜びから支援者の信条で当事者を遠ざけてはいけないと思う。
ただただ守られるべき存在だという自分の信条を実現するために当事者を使う。仮にそういう支援者に取り囲まれていたら
ちゅん平がこの日を迎えることはなかった。

ちゅん平の周りの支援者は、幸いそういう人たちではなかった。

ちゅん平の成功は一つのエピソードにすぎない?
生存バイアスがかかっているだけ?

ならば次の成功エピソードを目指せばいい。
生存者を目指せばいい。

そう思える人が、これからも花風社の読者でいてくださるのだと思っている。
私がこれから出す本は
「脳には可塑性がある」ということを前提にしたものばかりだから。


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