壺中日月

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「俳句は心敬」 (86)すべての風体を学べ②

2011年05月19日 20時21分52秒 | Weblog
 ――冷泉派の見解に立てば、和歌には十体の風体があります。けれども、俳句の基本型はたった二つです。「一物仕立て」と「取合わせ」です。
 こう言うと、俳句は非常に簡単そうに思えます。ところが……
 切字「や・かな・けり」を使った場合に限っても、その位置などを勘案して分類すると、二十パターンほどにもなるのです。これ以外の条件を加えたら、一体いくつのパターンになるやら、見当さえつきません。だから指導者は「自由にお作りなさい」と言うのです。
 けれども初心者にとっては、「自由に作れ」と言われることほど《不自由》なことはないのです。そこでおすすめなのが、つぎの句のような型を、まずマスターすることです。

        椋の実や京紅を売る檜皮屋根     あけ烏

 この句は、[季語+や+中七+名詞]の型をしています。また、中七と下五が一つのフレーズになっています。
 この型のポイントは、季語と中七・下五のフレーズの内容を(表面上は)無関係にすることです。参考として掲げたあけ烏師の作品を音読し、この要領を身につけてください。
 初心者にとっては、このパターンの句が最も作りやすく、しかも俳句の基本型であると、私は確信しています。どうぞ初心者は、この型をしっかりマスターされた上で、個性的な作品を目指し、ご精進ください。頑張る必要はありません。一所懸命に努力することが大事なのです。
 ご参考までに、「や・かな・けり」を含んだ、あけ烏師の句を例示しておきます。

         初霜やけさおとなしき鹿島灘
        仲秋や籠の文鳥影をもち
        川音や蕗叢を行く膝の丈
        天飛ぶや軽への道の稲咲きぬ
        新聞をひらけば付くや冬の蠅
        あたたかな冬のはじめや樫に雨
        焚き口に火の気や声のみそさざい
        光環の日や木や草やひがし吹く
        望郷は墳山の山法師かな
        いつの日もとほき目をせる蝗かな
        椿の実太りて海の荒るるかな
        数へ日の土の乾きも鹿島かな
        春寒の枝を一禽離れけり
        大阪に雨の降りけり初暦
        萩は実になりけり雨の千代尼の忌
        やうやうに水澄む思ひありにけり
        かばかりの菜殻を焚いてをりにけり
        稲架組みのそのあと雨になりにけり


 以上の例句を声に出して、何度も読んでください。暗誦できるまで。


      彫像にひそみたる稚気 風薫る     季 己