壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

卯の花

2011年05月01日 22時35分29秒 | Weblog
          五七の日追善の会
        卯の花も母なき宿ぞ冷まじき     芭 蕉

 普通であると、垣根のあたりにやさしい趣を添えているはずの卯の花が、忌に籠もっている家で見られると、その白さも、細かい雪のような感じも、まったく寂寥の気を帯びて、すがりどころを失うような感じがする。そこをつかんだもので、まことに鋭い把握である。
 其角は母の死に際し、「身にとりて衣かへうき卯月かな」と詠んでいる。

 「五七の日追善」は、其角の母の五七日の追善の会である。其角の母は榎本氏、妙務尼という。貞享四年四月八日没であるから、五七の日は五月十二日になる。
 「卯の花」は、うつぎの花。五六尺の高さになり、枝が多く分かれる落葉灌木。五月ごろ、白い小さな花を一面につける。
 「冷(すさ)まじ」は、『枕草子』や『徒然草』では、主として時節にはずれて趣の荒れた感じをいっているが、ここでは、母なき宿なので、もともとやさしい風情のこの花も、凄涼なとりつきがたい感じがしているのをいう。「冷まじ」は、古くは清音で「スサマシ」と発音したらしいが、鎌倉・室町時代には「スサマシ」「スサマジ」と清濁両様に発音された。

 季語は「卯の花」で夏。卯の花の初夏らしいやさしさ、すがすがしさを踏まえ、これを底に沈めた上で、その凄涼感をつかんでいるのである。

    「この白い可憐な卯の花も、母をうしなって忌に籠もっているこの其角の家では、
     凄涼な近づきようのない感じがしている」


      甲斐駒を遠くにちしほうつぎかな     季 己