「4月に昇進して課長になってしまいまして……」──こうため息をつくのは某有名企業の営業職の女性・Aさん(30代後半)だ。日本は「ジェンダーギャップ指数2021」で調査対象の156か国中120位で、主要7か国(G7)では最下位に。世界的にも女性の社会進出が進んでいないことが問題視されているが、Aさんの意見を聞くと、なぜジェンダーギャップが低いのか、その理由の一端も垣間見える。
「課長になってしまいまして……」という言葉に表れるように、Aさんは、本音では昇進したくなかったのだという。「自分の仕事ぶりや能力が評価されることはありがたい」とは思うものの、Aさんはむしろ自由に現場仕事を続けていきたいと考えている。そこには男性・女性関係なく「私はこのように働きたい」という意思がある。
これまでAさんの肩書は係長だったが、今後は課長の立場で、グループリーダーとしての責任を負うことになる。
「立場が上に上がっていくほど責任も増えて大変になります。当たり前のことですが、上にいけばラクできるのではなく、やること、求められることが多くなるんですよ。係長時代は一担当として自分の仕事だけをしていたのですが、その方が気分的にラクでした。元々私はそんなに出世欲もなかったので、今回の昇進は正直、気が重いです。自分の仕事をしながら、会社全体のことも考えて色々と提案しなくてはいけません。3人の部下は係長時代から引き継ぎましたが、肩書だけは『課長』になり、責任が増えました」(Aさん・以下同)
Aさんが課長になったことで、周囲の見る目も変わったと語る。自分よりも年上の男性社員の中にも課長になっていない人がいて、気まずさを覚えることもある。さらに、課長になったことで、ベースの給料は上がったものの、管理職ということで残業代はつかなくなる。Aさんは元々そこまで残業をしていなかったため大きな影響はないが、周囲には課長になったことで、給料が下がる人もいるという。その他にも気になることは多いようだ。
「私の会社でも、自分の元部下が上司になるケースは時々あります。でも私は、そういうのも気にしてしまうんですよね……。別に自分がそんなにデキる社員だという自信もないので、周りの目が気になるんです。『あいつ、課長になったけどそこまで大したことがない』と思われるのがイヤです」
「部長になるのはさらにイヤ」
さらに、社会全体を覆う「女性が活躍すべき、管理職をもっと増やすべき」という空気についても、「自分でなくてもよいのでは?」と本音を吐露する。
「うちの会社の場合、私みたいに上昇志向がなく、『そこそこの給料で、そこそこの責任で働いていたい』という女性社員も多いんですよ。もちろん会社としては、対外的にも女性管理職比率を上げなくてはならない、というのは理解しています。女性の営業職で管理職に着かせることは、会社の『ジェンダーギャップ』の改善実績にもつながりますからね」
Aさんは、今回の出世をあまり喜んでいないようだが、今後、部長になるなどさらなる出世の可能性があることについても、気が重いという。
「それなりに給料ももらえているので、ここで辞めたところで今より条件いいところへ転職するのは難しいでしょう。私は同期でも早く課長になったので、今後部長になることもあり得ると思います。会社としても女性を積極的に出世させる方向でしょうし、それに後押しされるかもしれません。
本音を言うと、部長になるのは課長になるよりもさらにイヤですが、やるしかない。役職を与えられたのであれば、やって、ダメだったら外されるだけです。そうなると会社には居づらくなるでしょう。だから、とりあえずやれるだけやるしかないという諦めの境地です」
会社が今になって急に女性管理職を増やそうと意気込んでも、当の女性社員たちの気持ちがそこに追いついていない面もある。これまで培ってきた男性中心の企業風土を変えるには、まだまだ時間がかかるかもしれない。