「アフガニスタン崩壊」をどのように受容するか
「タリバーンはテロ集団ではなく、社会運動組織」と言っていた中村哲さん
中村哲さんは「タリバーンはテロ集団ではなく、社会運動組織」と言っていました。カルザイ政権前には「アフガニスタン・イスラム首長国」としてタリバーンが支配する正当国家として存在していました。多くの民衆は不正のない“真面目”なタリバーンを信頼し歓迎していました。
アメリカが戦争をしかけ、米軍を派遣し、ドルを注ぎ込んで引き起こした格差拡大・腐敗に国民の不満がつのる
そのアフガニスタンがアル・カーイダのビン・ラーディンを匿(かくま)ったことが気に入らないと、米国とNATOなどが攻撃し、タリバーン政権を崩壊させ、カルザイ大統領の下に「アフガニスタン・イスラム共和国」を成立させました。(写真はカルザイ氏。タリバンの駐国連代表だったが、後に反タリバーンに転じた人物)
米国は米軍を派遣し、“ドル”をジャブジャブと注ぎ込み一見豊かになったようになり、その中で利益を得るアフガニスタン人も存在していました。しかし、格差が拡大し、ガニ大統領の下で腐敗が進み多くの国民には不満が募っていたのでした。(写真はカルザイ氏の次の大統領ガニ氏)
カルザイ⇒ガニ政権の機能不全
アメリカの軍事力とドルの力で支えられていたカルザイ⇒ガニ政権の「機能不全」について、「タリバンの復活」という本には、こういうことが書かれています。
➀ 治安の悪化
前のタリバーン政権の崩壊により一般犯罪が増加し、2007年の世論調査で「アフガニスタンの直面する最大の問題は何か」という問いに32%が「治安問題」と答えた。(2位の「経済問題」は9%)
➁ 政府の腐敗
あるタリバーン司令官のBBC放送での証言「アフガニスタン政府に拘束されていたが、役人に1万5千米ドルの賄賂をはらって、自由の身になった。2004年、2005年にも同じように賄賂を使って刑務所から出た」
また、カルザイ大統領の実弟が麻薬取引の元締めであることも公然の秘密
➂ 根強い部族の伝統
タリバーンの考え方は「昔ながらの伝統を墨守する」ということで、部族の人びとから根強い共感がある。1919年にアフガニスタンの国王になったアマヌラー王はアフガニスタンの「近代化」を進めようとして国内の反発を招き、退位に追い込まれた。訪欧した際、王妃がヴェールを着用せず、多くの国民が憤慨した。
➃ 「名誉のための殺人」
我々日本人にはわかりにくいが、部族社会の女性についての考え(タリバーンの考えでもある)は、女性は大事なもので、保護しなければならず、そのためには女性を隔離する必要がある、というもの。基本的に外出を伴う就労は認められない。もし、そのように大事にしている女性の貞節が疑われるのであれば、その保護者が自ら処刑しなければならない、ということになる。つまり、不思議に思えるが、女性を大事に守ることと、「名誉殺人」で処刑することは表裏一体である。
アフガニスタンの民族分布
アフガニスタンの最大の民族はパシュトゥン人(タリバーンもパシュトゥン人)。
タジキスタンと接する北部はタジク人が多く(有名なマスード将軍や北部同盟のドスタム将軍もタジク人)、バーミヤン周辺はモンゴル系でイスラム教シーア派のハザラ人がいる
タリバーンが力を持つようになる前は、多数派のパシュトゥン人ではなく、タジク人が政府の要職を占めたりしていた。
今年7月にはまだカブール政府支配地域も多かったが、タリバーンが急進撃で全土を制圧
トランプ氏は米軍撤退で、金のかかる軍事力による世界覇権を転換し、アフガニスタンの経済を牛耳ることをねらっていたが…
米軍撤退をトランプ前大統領が積極的に進めたのは、金のかかる軍事力による世界覇権を転換して、食料と医薬品の特許(知的財産)を米国の企業が握ることによって、米国のプレゼンスを維持しようというものでした。世界ではすでに軍事力は陳腐なものに変容しているということです。
日本は「戦争をしない国」として国際的立場を得ているのに、自衛隊機を派遣したことは大失敗
そもそも日本には「平和憲法」があり、国際社会からは戦争をしない国としての立場を得ていました。それが米国に追随して、イラク戦争に参戦したり、米国の核の傘を強調することなどで、日本の国際的評価は大きく下がっているのが現実です。アフガニスタンの混乱に対して、欧米とは違う日本独自の支援ができるはずなのですが、カブール(現地の言葉では「カーブル」)に自衛隊機を派遣したことは大きな誤りだったと思います。
カルザイ政権とタリバーンが同席した2012年日本のシンポジウム
2012年同志社大学のチャペルを会場にカルザイ政権の幹部とタリバーンの幹部が同じテーブルについたシンポジウムが開かれました。イスラーム地域研究を続けてきた内藤正典さんのコーディネートでした。
アフガニスタンにおける和解と平和構築 | 同志社大学 一神教学際研究センター CISMOR
シンポジウム後には出町柳の料理屋で懇親会まで開かれたと聞いています。ハラール(イスラームの教えで許される食べ物)か不明な京懐石料理には手を着けなかったと聞きましたが、内藤さんがサーブした魚と野菜の鍋には、仲良く手を着けたといいます。
米軍の撤退による現在のアフガニスタンの混乱はアフガニスタンやタリバーンそのものの問題ではなく、西欧の価値観に基づく国づくりの失敗の結末です。
欧米の価値観とイスラーム世界の価値観の違いを自覚することが大切
欧米の信じる価値とイスラーム世界の価値の原理とは大きく違います。タリバーンは西欧的価値による人権や民主主義の原理はイスラーム世界を蝕む不正だと理解しています。この点で折り合いをつけることは不可能で、お互いが違う神話の世界に生きていることを自覚する必要があります。
インド人に「カースト制の廃止」を言うのは、日本人に「天皇制の廃止」を言うようなもの
ボクの授業ではインドのカースト制について「カースト制の廃止を言うのは、日本で天皇制廃止を言うようなこと」(ボクは天皇主義者ではありませんが…)と例示していました。まずはお互いの譲れない原則を確認し、どちらかの価値を押し付けあうのではなく、認めながら混乱を収拾していくことに力を注ぐことだと思っています。
安倍政権で弱くなった日本の外交力。日本国憲法の精神を掲げて、押し付けがましくない外交政策を行うことが大切
日本は平和憲法を持ち、西欧世界とは違う価値を持っています。その立場を有効に利用すればアフガニスタンの安定に貢献できると思います。しかし、安倍政権で日本の外交力は弱くなり、外交官の知恵も乏しくなっているようです。外務省の政策立案能力の低下は、日本にとって大きな損失となっています。今こそ、日本国憲法の精神を掲げて、押し付けがましくない外交政策を行うことが大切だと考えています。間違っても「宗教戦争」のような対立にしてはならないことは明白です。日本のような宗教に柔軟、悪く言えばデタラメ(神社に初詣、結婚式は神前と教会、クリスマスやハロウィンで盛り上がり、葬式は仏式)という宗教文化の国の役割を自覚的に果たすことが重要だと考えています。(近)
(編集部より)
「住みたい習志野」の以下の記事もご覧ください。
ペシャワール会”アフガニスタン支援活動"再開。中村哲さん肖像画や女性のかぶりものについて - 住みたい習志野
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