水産北海道ブログ

北の漁業と漁協がわかる情報満載です

漁業経済学会大会シンポ『食料安全保障と水産業』 洋上風力発電、漁場確保、漁業経営、担い手対策など議論 共同体的な資源管理を評価し、養殖より漁船漁業で水産物供給を

2023-06-16 13:48:26 | ニュース
 ロシアによるウクライナ侵攻以来、輸入に依存度が高い日本の食料需給は重大な危機を迎え、農業はもとより、水産業の役割が問われている。漁業経済学会(会長・佐野雅昭鹿児島大教授)の第70回大会シンポジウムが6月9日午後から東京海洋大学の品川キャンパスで開催され、『食料安全保障と水産業〜食料危機と水産業の意義』をテーマに5人の専門家から報告を受け、活発な議論を交わした。洋上風力発電と沖合漁業の競合、資源の共同管理による漁村・漁業の存続、自国EEZ漁場の確保、漁業経営への支援、担い手対策などで持続的な水産物の供給、生産性向上に向けた課題が浮かび上がった。ウェブ併用のハイブリット式で開かれ、会場と合わせ100人超が参加した。

 

 コーディネーターの佐野会長が「食料安保の問題が世界的にクローズアップされる中で、水産業においても問題解決の取り組み、研究が問われている」として新たな研究プロジェクトのテーマを紹介し「養殖による生産向上が求められているが、漁船漁業を貢献させる発想がない」と水産分野における新たな視点による食料安保の議論を活性化するシンポの趣旨説明を行った。
 最初に、多くのメディアで活躍する鈴木宣弘東大教授が「日本漁業がの食料安全保障とそのリスク」をテーマに現在の食糧危機の背景にあるクアトロ・ショック(コロナ禍、中国の爆買い、異常気象、戦争)を解説し、食料自給率が低下した歴史的要因(米国の余剰生産物受け入れ、リスク認識の欠如など)に持論を展開した。問題解決には「日本の漁業・漁村を守ることが大切で、企業的な漁業の推進では地域社会の崩壊につながる」と日本漁業の共同体的な資源管理のメリット見直しを強調し、食料供給、国土保全の両面から漁業の役割を強調した。
 次いで長谷茂人東京水産振興会理事(元水産庁長官)が「日本の食料安全保障と水産政策上の課題」をテーマに水産基本計画における自給目標(2032年94%)、資源管理ロードマップにおける生産目標(2030年440万㌧)、養殖業産業化総合戦略の生産目標2030年ブリ類24万㌧、マダイ11万㌧など)、輸出目標(2030年水産物1.2兆円)といった将来の想定値を紹介。一方、各地で推進される洋上風力発電は「漁業に支障が見込まれない水域に促進区域を指定」という条件を堅持し、「適当な棲み分けがなければ、水産物供給に甚大な悪影響」を及ぼすと問題提起した。
 続いて末永芳美農林水産政策研究所客員研究員が「国際的視点から見た日本の水産業と食料安全保障」をテーマに200海里規制を機に日本が自給国から輸入国に転換した経緯をたどり、周辺国のEEZに隣接する漁場を守り、漁業者の所得格差是正(年金の増額対策)による食料自立の確立、持続的な漁業の条件確保を強調した。
 工藤貴史東京海洋大教授が「日本漁業の意義と課題 食料安全保障の視点から」をテーマに日本の食料における水産物の位置付けを示し、食料政策として新しい経営支援の必要性を提起し、「水産物は数少ない自給可能な食料であり、その存在意義は高まっている」とし、適正価格対策、生産費や所得の補償といった経営対策を検討を求めた。
 佐々木貴文北大大学院准教授は「安全保障の視点から見た日本漁業の担い手問題」をテーマに漁業の担い手不足の現状分析を踏まえ「日本漁業が担い手問題を解消し、食料安保に資する産業として持続性を確立するために生産性の向上は不可避」と述べ、「労働環境や待遇を高め、過度な外国人依存を避けるためにも生産性を高め、省力化の実現が大切」とした。
このあと、佐野氏が司会となって総合討論を交わし、全国各地の海を舞台に議論されている「漁業か洋上発電か」の問題について、長谷氏は「沖合に浮体式の洋上風力発電を設置すると、漁業の操業に支障が出るので、調整が必要になる」と指摘し、産業界の要求、脱炭素化(再エネ)の社会的趨勢に対し「共存できるよううまく対応すべき」とした。また、積極的な水産物消費を促すため、工藤氏は「魚を食べるための仕組みづくり、社会的費用としてコストを負担するべき」とし、養殖による食料安保の解決について佐野氏は「儲けるために養殖は有望だが、食料問題では別。漁船漁業が重要になる」とした。コーディネーター・司会の甫喜本憲水産大学校教授は「水産資源の変動に対応して供給するためには持続性が前提となり、食料安全保障に役立つ生産性が求められ、現場で働く外国人の労働者へのメッセージも必要になる」と感想を述べた。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿