Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「幻影の書」ポール・オースター著(柴田元幸訳)新潮社

2008-12-02 | 柴田元幸
「幻影の書」ポール・オースター著(柴田元幸訳)新潮社を読みました。
語り手ディヴッド・ジンマーは大学講師。
彼が突然みまわれた人生の危機のなか、生きる気力を引き起こさせてくれたのは喜劇俳優のヘクター・マン。ディヴッドは、その男の消息を追う旅に出ます。
失踪して死んだと思われていたヘクター・マンの意外な生涯。
オースターの最新長編です。

ヘクター・マンの人生が本当にまるで映画のようにドラマチックで、ぐいぐい読み進んでしまいます。才能あるハリウッド時代から、ある事件、そして失踪後の生活・・・。
彼の人生の転機をすべて女性がいろどっているのはやはりモテ男だから?

ヘクター・マンの一作一作の映画の描写がみごと。
作中映画の一作がオースター脚本・監督で実際に映像化されているそうですが、う~む、実際に形になっているとなると見たいような、見たくない、ような。

途中ヘクターが「森の中で木が折れる。それを誰も見ていなかったら木は折れたのか?折れていないのか?」という哲学的な問いを問いかけるのですが、この本はまさにそういった「幻影」にいろどられています。
当事者以外誰も見なかった映画、読まれなかった本。
それを喜びとしたフリーダ、悲しみとしたアルマ。
自分の(誰かの)生きた証を残したいという欲望、すべてを捨て去りたいという美学、読者の自分としてはどちらもわかるだけにせつない結末。

この作品にはオースターファンにはおなじみ?の「ルル・オン・ザ・ブリッジ」などにも出てくる「青い石」が登場。