接客が示す「地球上で最も礼儀正しいのは日本人」
■再生の時代 もてなし精神と洗練された立居振舞
最近入った居酒屋で、受けた接客に新鮮な感動を覚えた。日本の飲食店の接客は総じて気持ちがいいが、接客の可能性をとことん追求する所が近年、高級店ではなく庶民的な飲食店に現れているようだ。若い店員さんたちが、お客が期待する以上のもてなしをしようと全力を尽くしてくれる。ほがらかな笑顔で礼儀正しく、気が利いた受け答えで楽しませてくれて、きびきび動いてお客の望みを先回りで察して叶えてくれる。さらに注文外のサプライズをいくつもしてくれて、思わず私も歓声をあげた。
外国でのお店の接客で、店員のやる気のなさ、粗雑な身ごなし、そっけない対応に呆(あき)れた方は多いと思う。丁寧な接客を受けたとしても、チップをはずんでもらおうという下心がちらちら見える。日本のように、店員さんが直接の対価のためではなく、最高のおもてなしをしようと志をいだき、お客の喜ぶ顔を何よりの喜びと思って接客してくれることは、他の国ではまずないだろう。
もてなしの精神や美しい振舞はいつから日本人に共有されてきたのか、歴史的にさかのぼってみるとかなり古い。幕末維新期に日本を訪れた外国人たちの多くも、「地球上で最も礼儀正しい民族」「住民すべての丁重さと愛想のよさ」「素晴らしい歓迎」などがとても印象的だと、手紙や日記に残している。日本人の親切に対して彼らがお礼の品を渡そうとしても、決して受け取らなかったという。
もてなしの精神と洗練された立居振舞をその源までたどると、戦国時代に大成した茶の湯に行きあたるといえるだろう。お茶を客人に差し上げてもてなすのは世界中でなされているのに、それを、美と精神性を追求する文化に確立させることは、日本でのみ起こった。一期一会の精神も、察しのいい気遣いも、美しく謙(へりくだ)ったしぐさも、茶の湯から広がり、庶民にも根付いて現代人にも伝統として確かに伝わっている。
今では飲食店の接客の全国コンテストもあり、プロたちの水準を達人級に高めるのに役立っているようだ。日本の伝統を生かしつつ、これまでになかった新しい接客の形を創造する可能性も開かれている。サービス業は世界の先進国の産業の中心であり続けるだろうから、世界一の水準の接客を生かせる道は多いと思う。