Men's wear      plat du jour

今日の気分と予定に、何を合わせますか。 時間があれば何か聴きましょう。

大晦日

2011-12-31 | Others
 頼まれた買物をすませ、八百屋のおネェさんと年末の挨拶をかわしてしばらく歩いていると、この瞬間日本で、ネギや大根がいちばん似会うのは自分じゃないかという思いがフツフツと湧いてきました。



「銀座百点」12月号に、名取裕子さんのスパッと切れ味鋭いエッセイがあります。

 今年もこうして変わらぬ美しいクリスマスを迎えられるのが夢のようだ。だれの胸にも去年までとは違うクリスマスが心に染み入ることだろう。三月十一日から今日まで、あっという間のようで、とても長かった。震災や原発事故への政府や東電の対応に失望し、なにもできない自分が歯がゆく、焦燥感ばかりがつのる。
そんななかで、勇気ある人々の存在を知り、発言や行動、技術力のすばらしさ、個人個人の知恵と志の高さに驚嘆。希望を見いだすことができた。リーダーにこそ恵まれていないが、日本の国民一人ひとりには優れた資質があるのだ。

さすが京都地検の女。

池波さんは、政治家っていうのはどうしようもない人たちだ、と昔のエッセイで嘆いています。
その頃はピンときませんでしたが、今年はいやでも思い知らされました。

今上映されている「山本五十六」は見ていませんが、夏に再放送されていたドキュメンタリー番組では、開戦までの道のりを分析して見せました。
問題の先送りで決断すべきタイミングを逸する、国民にとってはどうでもいいような面子に拘って、内輪揉めから最悪の選択肢を取らざるを得ないはめに陥るなど、現在の状況からもそう遠くない傾向が見られます。
そういう意味で、政治家というのは昔からずっと変わっていないのではと勘繰りたくなります。

先の「銀座百点」には、作家の半藤一利さんが対談でその時代について偶然語っており、ドキュメンタリー番組でうけた印象がそう間違ってなかったことが確認できました。

新しい年が、そんなことのない、より良い年になるよう願わずにはいられません。

あっという間に大晦日です。今年もお引き立てを賜り、誠にありがとうございました。
新年を遠い所で迎えられる方も、故郷でむかえる方も、今年はたいへんな一年だったことでしょう。
皆様には、どうぞ良い年をお迎えくださいますようお祈り申し上げます。

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師走の車中にて

2011-12-29 | Others
 電車に乗ってしばらくし、ふと本から顔をあげて向かいの座席を見ると、端のお二人がそっくりで兄弟じゃないかというくらい似ています。
さらに視線をずらしていくと、隣の二人も互いに相当似ています。そして次のペアも。
たまにこういう事ってありませんか。
そんな大袈裟なことでもないんですが、私は年に数回遭遇します。

体調がいいと(?)3ペアどころかフルハウス、4カードなんてのもあるから不思議です。
自慢じゃありませんが、向かいの七名全員が似ていたというのだってあります。
へんな達成感にこみ上げる笑い、ドッキリかと用心してしまいました。



先日の朝、ちょっと面白い人たちを見掛けました。
先ず一人目は基本トム・ブラウンなのですが、そこに「もう中学生」の髪型というか「ルネッサーンス」の片割れ樋口君をたしたような雰囲気です。

フランス有名ブランドのトートに、トレンチ・コートを提げていました。
奥さん、あるいは誰かに縛られているのか、アンクレットがそれを訴えています。
というふうな捻りを加えてはいますが、黒グレイン・レザーのロング・ウィングを履いたところが、忠実なトム・ブラウン信者たるところを表明しています。
本当に見ているだけで楽しい気持ちになったので、気持ちを伝えたい衝動にかられました。
怪しまれるのがオチなのでようやく思いとどまりましたが。

もうお一方は、勝新似のシブ目のおじさんです。
朝日をうけて、眩しげに遠くを見据えて動かないところは、会った事ありませんが瓜二つに見えます。
ブリーフは穿いてたかどうか分かりませんでしたが、仕込杖を持っていなかったのは確かです。

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今年のベスト○○○

2011-12-29 | Others
 本屋へ行くと、タイトルだけでちょっとそそられるのがあります。
「ミルク世紀」.........あら、何だかなーと思うと、もっと牛乳を飲みましょうという内容らしいです。
「日本の島ガイド SHIMADAS」.........日本全国の850島を網羅した、島ガイドの決定版。財団法人日本離島センターというよく解らない所から出ていて、3150円。

テレビ東京の番組でも「シマダス」という企画がありました。カラテカ矢部というお笑いさんの片割れがよくレポーターとして離島に行かされていました。



昨年末の小堺くんの番組で、その相方がエンディングの一分ほどで語った話......

まだ売れてない頃、引越し屋のバイトをかけもちしていたそうです。
指導してくれた先輩から、お客さんに失礼にあたるので、「疲れた」「腹へった」「こんなもの」の3つは絶対言っちゃダメだと念を押されていました。
仕事にも慣れてきた頃、ある日予定時間をおしてしだいに暗くなり、無意識に「あー、腹へった」と呟いてしまいます。

それを聞きつけた先輩は、ものすごい形相で「バカヤロー、俺だって疲れてんのにこんなもん運んでんだよー」と理性のテイボーが決壊してしまったようにえらい剣幕で叫んでいました。
先輩のほうが2つも入ってんじゃないですか.......って話です。

笑いはナマモノなので、こう書くとたいして面白くないかも知れませんが、その時は大笑いしてしまいました。
年末に今年の十大ニュースみたいな企画がありますが、個人ですと上半期の出来事は記憶からもれがちです。
なので、去年一番笑ったのは、年末のその話だったように感じます。

さて今年は何かなと思い返してみると、津々井さんが商店の人との遣り取りで、
「これはネゥと読むんですか」
「いぇ、ニューです」
って何のことかよく分かんないですよね。



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記録更新中

2011-12-27 | Others
 おかしな話ですが、年末までもう少しあるように感じていたのが、大きな錯覚でした。
気がつけば大晦日まであと幾日もなく、半年に一度の割で会う神戸の方から、先日「良いお年を」と言われ少しウロタエテしまいました。
ウカウカしていたのです。けっしてブンガブンガじゃありません。 



ブンガブンガとは大きな落差ですが、日頃の家事で、カミングアウトする前のシンデレラみたいな手になってしまいました。
がさがさで、カシミヤだろうが、Super150だろうが、判別できなさそうな指先です。

そういえば、今年6月に開かれた羊毛の品評会で、10.5ミクロンの記録が出たそうです。
毎年のように更新されるこの記録ですが、一体どこまで細くなるのか不思議です。
すでにカシミヤをはるかに凌いで、無理にも表示したらSuper250を超えてしまいます。
細ーい繊維をただ薄く織ったものには食傷気味ですが、思いっきり贅沢に打ち込んでなお隠しようもない自然なしなやかさが出てくるような生地だったら、触っているだけでもさぞかし楽しいことでしょう。


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おろろージォ 

2011-12-24 | Others
 先日、道を尋ねられた老夫婦から「あら、いい時計してるわね」と言われ、謙遜でなくたいしたものじゃないんですと申し上げたのですが、素人のわりにナリのいい二人は解放してくれません。
聞くと二人合わせて170歳という高齢者に、そのうち時計を奪われる自分を思い浮かべて可笑しくなってきました。



松山さんの書いたもので、婦人科系のガンで療養している人向けにメーカーが綿のランジェリーを提供してしているという話を読んだのは、20年以上前のことです。
そこに何ものかを嗅ぎ取った松山さんは、ご自身と家族の身のまわりから化学繊維を出来るだけ遠ざけていこうと思うと書いていました。

ずっと気にはなっていましたが、自分で調べることもせず、興味の優先順位に導かれるままその件は棚上げになっていました。

先夜、長谷井さんのところで、進境著しいモッズ小田君にいじられながら楽しいお酒をいただいていると、その松山さんがいらしてたのでお話をさせていただきました。

あの記事のあと、その手の業界から何かリアクションとかなかったか伺ったところ、まったくありませんとのこと。
私が無理矢理引きこんだので、歴史の浅い化学繊維が人体に及ぼす危険性などの話題で、楽しいはずのお酒がかたい話になってしまいましたが、折角の機会だからと、加藤和彦さんの話までうかがって深みにはまるばかり。

一段落すると松山さんが、「さっき見えたんだけど、その時計どこの」と仰います。
松山さんが時計の専門家なのを思い出して「えっ、やだなー。得体の知れないところので、たいしたのじゃありませんよ」と数日前の老夫婦とのやりとりを思い出し、「言ったじゃないですかー」なんて初対面なのにドーンとどつきそうになってしまいました。


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年の瀬

2011-12-22 | Others
 忘年会だ、クリスマスだと自ら慌ただしい毎日を、無理矢理年末気分を、盛り上げている気もいたしますが、先日は日本酒がメインの集いがありました。
みんながこれ飲んでみてと出してくれたお酒は、今これがはやってるらしいのに「ダッサイ」という山口の酒でした。
スパークリングというのもいただきましたが、普通の方が好みです。
後から従来の銘柄もいくつか飲むと、まるで別のカテゴリーみたいに感じました。



そんなふうにジャンジャンいただき過ぎて、言ってる事にドライブがかかり過ぎ、おかしなこと言ってる人がいました。
「どんなコが好きなんですか?」
「そうですねぇ、清潔感のあるコがいいですね」
「最近の人にしては珍しいこと言いますね」
「えぇ、清潔感があったら多少キタナクても」
「?」

かと思うと、
「えぇ、もう健康第一ですから」
「ほんとにねぇ」
「えぇ、健康だったら命もいらないってくらいのもんです」
「はぁ?」

先のダッサイは漢字で「獺祭」と書くそうですが、初めの字はカワウソです。
「銀座百点」みたいな小冊子「月刊 日本橋」に、南伸坊さんが近所でハクビシンを見たと書いていました。
人工繁殖中のトキを襲ったことで有名なヤツです。

ちょうど一年くらい前、うちの近所でも何だか細長い生物に遭遇しました。
その晩、ゴミを出しに行くと、向こうから小さな黒いかげが真っすぐ近づいて来ます。
互いの距離がせばまっても、警戒するふうもなく、同じ速度ですぐ脇をすれ違ったヤツは、どうやらフェレットのように見えました。
まるで用事でもあるように、考え事してるみたいに、前だけ見詰めてテンポよく進むフェレット。
二度ほど見掛けましたが、その後見ていません。

先日、忘年会の帰りのこと、家の近所までくると街灯の下にたたずむ猫かと思ったら、タヌキがいました。そんなの出るとは聞いていませんでしたが、最近の大規模な開発で追われてきたのでしょう。
ちょっと不憫な気がします。


かわうそ

内臓の疲れか、シャツとタイの格子の大きさが近過ぎて失敗。



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Lee Wiley / Night in Manhattan

2011-12-20 | Jazz
 最近ご無沙汰していますが、このブログによく登場していただく方に辻静雄さんがいます。
本屋をのぞいていたら、辻さん関連の本があったので、ひとに差し上げようと買い求めました。
パラパラしていたら、もう十度目くらいなのについ読み始めると止まらなくなってしまいました。



そういえば長谷井さんの所にお邪魔した時、このブログでも始めてすぐの頃取り上げた、リー・ワイリーの「ナイト・イン・マンハッタン」が流れていたことがありました。
ある晩、飲んだ時それを思い出して、若いのになぜそんなの知ってるのか尋ねたことがあります。

すると、以前お客さんから薦められた一枚で、しかも「これは自分で買うべきものだ」と注釈をつけてくださったそうです。
なかなか言えない一言です。私なんかついあげちゃったりしますが、そこが凡人の悲しさでしょうか。
しかも伝えた事も、たいてい右から左だったり忘れられたりして、聞き入れる方も稀な気がします。

価値のある一言をいえる方と、聞く耳をもった人の幸運な出会いで、好きな盤がさらによく聴こえるような気がします。





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Having a party.

2011-12-15 | Others
 人口5700万人の国で、法人登録が2000万社。国民全員が社長の国イタリア.......と「イタリア人の働き方」(内田洋子・S.ピエールサンティ著:光文社新書)にはあります。
子供とリタイアした高齢者意外みんな独立独歩、それぞれの目指すところを求めているそうです。
そういう面の裏返しで、製品に惚れこんで勝手な思い入れが出来上がっても、家族経営の為こちらのそんな思惑に関係なく、様々な家庭の事情で突然たたんでしまうことがままあります。



「Personality」というちょっと変わったブランド名のタイをご存知の方も多いことと思います。
一般的な構造の物から、共地の裏をつけたセッテピエゲを美しい飾り糸でからげた、工芸品ともよべるレベルのもの(ゆるめ難くあまり実用的でない)まで広いレンジの製品を産む技術があり、大量に扱っていたヴェルチェッリ通りのジェメッリから場末のディーン・ショップまで、ミラノではポピュラーなタイです。また様々な店のオリジナルが、ここの製造だったりします。

しかし、しばらく行ってないし日本では見かけなかったので、てっきり家の事情で閉めてしまったかと早合点していたところ、この秋店頭に並んでいるのを見かけました。
存続していたことに安堵し、どこが入れたのか見当をつけると、これはきっとA社だろうと思い浮かびました。

そんな矢先、先日久しぶりにパーティーで社長にお目にかかったので、伺ってみるとそのとおりでした。
最近「る・る・ぶ」化しているような私のブログの話になったので、汗顔の至りです。
近くに出掛けた折りには、必ず連絡させていただきますでございます。

そういう集い以外でも、仕事中にお邪魔してご迷惑をおかけするような方もありますが、年に一度のそういう機会でしかお目にかかれない方もいらしゃいます。
その日私はようやく会も半ば過ぎに着いたので、ゆっくり語ることが出来ず、ご挨拶だけで失礼させていただきました。

昨年のこの時期、パーティーの数日後にけがをされ、その後元気に回復されていたはずの方が先月急逝されたと伺ったのは、つい先日のことです。
ご家族や身近な人を亡くされた経験がおありの方なら、浅田選手の御不幸におけるコメントを引くまでもなく、そのいたみは容易に想像されることでしょう。
袖振り合うも多生の縁と申します。ようやく少し話をするくらいの仲でしたが、一年前には元気だった姿が今年ないのは寂しいもので、ご冥福をお祈りするばかりです。



チーターが、故郷熊本に帰ってノリノリのライブ?
言うまでもなく、ファニア・オールスターズの有名なライブです。
パーティーは鈴木さん所蔵の秘蔵映像や白井さんの秘宝で、こんな感じとは違う意味で盛会。
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ギンナンと鼻血

2011-12-05 | Others
 先日居酒屋で一緒にギンナンをつまんでいた安藤さんが、ギンナン食べ過ぎると鼻血でるぞと言ってました。
実験するつもりではありませんが、季節のものなので、それから数日家で食べ続けました。
しかし一向に鼻血がでる気配はありません。迷信か?待てよ、もしかしてこれが「逆さにしても鼻血も出ない」ということか........



昔、アメリカ社会をドキュメントしたような番組を見て、不思議に思うことがありました。
それは、日本でいえば反社会的な事業内容であっても、経済的に成功してさえいれば、その人物を称えるふうがあるように感じたことです。
まだ二十代だった自分にはすんなり納得し難い問題でしたが、その受ける印象から、次は自分たちがそうやって成功するかもしれないから......という感じが伝わってきました。

此処へ来て、突然目覚めたように激しいデモが頻発しておりました。
次のチャンスも、けっして自分たちにではないことにはっきり気づいたみたいに。

日本も昔とは大分違ってきました。
ケータイにおける課金アプリのなかには、子供のふところをかすめ取るようなものもあると聞きます。それが平気で宣伝されていたりしますが、昔だったらまともな大人の仕事とは呼ばれないものだったでしょう。それが、あたかも成長分野みたいに言われています。

マイク・ロイコというコラムニストの「大リーグのスト」(井上一馬訳)という話に、

「なにを隠そう、アメリカを大国にしたのは、まさにこの欲の深さなのである。とんでもない、それはフロンティア精神だ、などとはゆめゆめ考えてはならない。この大陸へやってきた初期の開拓者たちは他人のものだった土地を見つけては、それを奪い取ったにすぎないのだ。
インディアンたちはそのたびに、駄菓子屋で売っているような宝石一袋とマンハッタンを交換させられたり、テント小屋の下に金鉱があるかもしれないという理由で自分たちの土地から追い払われたりしてきたのである」

「今日の大都市にしても、そのもとを築いたのは、詐欺師とペテン師の集団である。すでに書いたように、まず最初にやってきた移民の群れがインディアンをペテンにかけた。そこへ不動産詐欺師たちがやってきて、最初の移民たちから土地を騙し取ったのである。そのつぎにやってきたのが業突張りの商人たちで、彼らは取りあえず二番目にやってきた移民たちと手を組んで商売を始めたが、用済みになるとすぐに彼らを追い出してしまったというわけである。
今日、高級住宅街のレイク・フォレストに住んでいたり、紳士録に顔を出したりしているのは、ひとり残らずその子孫たちであると思ってまちがいない」

こんな連中にあったんじゃ、まさに鼻血も出ないでしょう。




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思いもよらぬ方向に.......

2011-12-01 | Others
 新潮文庫の伊丹十三「女たちよ!」の解説は、池澤夏樹さんが書いています。

「最初に刊行された1968年にはこれはまったく新しい、挑発的な、驚くべき本だった。ぼくたちは一種まぶしいものを見るような思いでこの本を手にした。笑って読み、膝を打ち、あこがれ、勇気づけられた。
何がそんなに新しかったのか?まずは自信に満ちた個人主義、趣味を中心に据える人生観、食物や酒や車についての粋なセンス、(つまりは)消費の喜び、ヨーロッパを基点にしたホンモノ指向」

「四十年ちかい歳月の間に自分とこの国の人々が辿った道を振り返ってみて、ぼくはこの本の価値を再認識した。思えばぼくはこの本の教えるままに自分の好みを重視し、料理を覚え、自分の人生から偽物を排除しようと努力して、今に至った。そして今は自ら選んでヨーロッパで暮らしている」



世界各地に派遣されて、価値観の一元化を地ならしする先兵ともなった宣教師のように、事態は伊丹さんが思いもよらぬ方向に舵をきります。

「今になってこの本に感じる悲しみのもう一つの理由は、彼の啓蒙がおおかた達成されたにもかかわらず、あるいはその結果として、この国がこんな風になってしまったことだ。
これはもう悪い冗談みたいなもの。ルイ・ヴィトンはよいブランドだが、だからといって誰も彼もがあのバッグを持てばいいというものでもないだろう。日本の消費者は付和雷同という点では前よりももっと日本的にふるまっている」

とここ数十年の傾向を、池澤さんは分かり易く解いてくれます。

少し前に目を通した村上香住子さんという人の「のんしゃらん」という本に、
「ヴィトンのバッグの流行は、『anan』が火付け役だったし、エルメスのケリーも、マガジンハウスに端を発していたと思う。殆んどの女性編集者は、ヴィトンやケリーを持っていた、といっても過言ではない」

という一節があったので、伊丹さんの発言からブランド志向パンデミックみたいな状態へ上りつめるには、そうしたもう一段の後押しがあったのは間違いないところでしょう。

そして池澤さんの言葉どおり、伊丹さんもまさかこんな世の中になるとは思いもよらなかったはずです。

また村上さんの言うとおりなら、マガジンハウスはフランス経済に大きく寄与したかどで、フランス政府から表彰されていたとしても不思議ではないですね。今日に至るまで、永年月の莫大な売上を誘導したわけですから。
そして肥大したブランド志向の因子は、今は韓国・中国に伝播し日本をなぞってコンスタントな売上を本国に計上しています。

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