Men's wear      plat du jour

今日の気分と予定に、何を合わせますか。 時間があれば何か聴きましょう。

枯れた趣味

2024-09-05 | 生地
しばらく前にコンタクト頂いていた方とようやくタイミングが合って、先日お会いしました。
たいていの方は遠隔地からなので、距離に応じて帰りの楽そうな場所を選びます。
20代後半くらいで「かなり飲む」というので、昼にしては多めに飲みながら語り合いました。

初めての方の話を聴いていると、そう言えば自分もそういうふうに考えていた時期もあったとか思い出すことも多いです。
無駄に散財しないよう先回りしてこうした方がいいんじゃないとか言いそうになったりもしますが、せっかく試行錯誤してらっしゃるので邪魔しないよう気をつけます。

若いうちはやはりスペックなど気になるし、一度刷り込まれた価値観はなかなか上書きし難いし、色々見てモノサシが定まり趣味が枯れるまでには好みも二転三転することでしょう。
タイムレスで質の良い服を求めていろいろ試している方の話はそれなりに面白く、そんなこんなであっという間に3時間以上が過ぎてしまいました。

「枯れた趣味」と言えば、忘れた頃にコンタクトをくれるウィーンの仕立屋さんの話。
既にたくさん作っている顧客がある日その辺りで買ったという粗野な麻袋のようなものを持ってきて「これでジャケット作れないかな」と相談されたと言います。

きっと何度も洗って、地のしもしてみたでしょう。
麻袋みたいと言っても、たまに見るコーヒー豆が入っていたようなジュートっぽい素材とは違って、なるほどジャケットになりそうに見えました。
似た生地が'30年代のApparel Artsにも載っていたと思います。

その顧客の他の注文がどんなものか分かりませんが、「ずいぶん枯れた趣味だな」と思ったのを覚えてます。
知らず知らずのうちに、それがどこかに引っかかっていました。

普段自分のを作るとなると、質の高い素材、その良さを他の人があまり顧みない素材を優先的に選んでるように思いますが、その「枯れた趣味」を咀嚼して何か面白いのは出来ないかなとしばらく前から考えていました。



画像のX線写真みたいなのは、その候補の生地を陽に透かしたものです。
これを見ると「麻袋よりもっとひどい、服にはどうか」と心配されても不思議ない画像ですねぇ。



上のスケルトンのようなのを見た後では心配になりますが、生地はこんな顔。
イタリア製でモーダ系のブランドがよく使うメーカーの製品の中にあったものです。

一見ランダムに並んでいる糸の太さですが、色と不規則に見えた糸の幅が柄を成していて、さらに大きく見るとバンチのサイズでは見えないデザイナーの意図が分かる設計になっていて、伝統柄ではないのにクラシックなテイストも感じさせます。

映画「めぐり逢い」でケーリー・グラント扮する画家のニッキー・フェランテ氏が南仏ヴィルフランシュにお祖母さんを訪ねるシーンを思い出しながら、行ったことないけど風光明媚な土地にうまく溶け込みそうな色だなとか妄想を膨らませてましたが、職業的につい突き詰めすぎて色々集めた中から選んでしまうと、「枯れた」という融通無碍みたいなイメージからしだいに遠くなってしまいました。



猛暑の中そんなことをして遊びながらどうにかこうにか7月8月をやり過ごしたら、もう9月。
よく夏が暑いと冬は...なんて言いますが、今年はどうなりますでしょうか。
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リネンとツイード

2022-04-18 | 生地
以前も取り上げましたが、1933年秋に雑誌"Esquire"が創刊された時、編集長は29歳のアーノルド・ギングリッチという人でした。

若いギングリッチがヘミングウェイに寄稿してもらえるよう交渉したり、それを足がかりに他の作家への働きかけがスムーズに運んだりする話は、編集者として有名なマックスウェル・パーキンズが映画化されたのに劣らないくらいの作品になってもおかしくないような気がします。

創刊50周年記念号に作家のゲイ・タリーズが書いた献辞には、

「人気がなくなったり、酒と絶望で筆力がひどく衰えた才能ある作家をかわることなく支持して、彼らの作品を掲載しつづけた。
原稿を掲載できない旨の断りの手紙を書くとき、その手紙には相手を思いやり、かつ激励する真情があふれていた」

とあります。

他にも人となりを伝える中に「ツイードと麻のスーツを好み」という話があって、そのせいでもないと思いますが、年々その方向に導かれているような気がしないでもありません。

職業的に私どもははっきり分けていますが、実際よくあるのはスーツもジャケットもみんなスーツと言っている場合があって、必ずしも上下揃いの生地のものを言ってない可能性があります。
一応ここは額面通り受け取って、そんな「麻のスーツを好み」という人が選びそうなスーツ、というイメージにインスピレーションを得たのが画像の一着。



様々な生地を見ても「もう少しこうなっていたらいいのに...」と思うことが少なくありませんが、このアイリッシュ・リネンは色柄といいトーンといいギングリッチのような趣味の人にも喜んでもらえるのでは、というスーツになりました。

ツイードの方は、そのタイプとしてはかなり高価なものですが、今年初めて取引したマーチャントにやはり素晴らしいスーツになるだろうと思うのが一つ見つかりました。

書き忘れるところでしたが、残されているギングリッチの画像を見ると、とてもフェロウズやサールバーグの生のイラストを見ていたとは思えない着こなしです。
イラストに憧れてもなかなか着こなしに反映できないのは一般的な読者と同じ目線、と言えないこともないのはご愛嬌でしょうか。

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気分転換

2022-02-26 | 生地
1週間ほど店を空けることになり、何かあってご迷惑をかけるといけないので支払いなどすべて済ませスッキリ片付けて出かけました。

里心がついて結局5日で帰って来ましたが、場所を変えると多少考えることも変わるのか「春夏はどうしよう」なんて漠然と考えていた時、いつでも買えると思って3年くらい後回しにしていた生地が浮かんで来ました。

今やっていることは、「トレンドに目配りして..」なんて不必要な保険をかける必要がまったくないので、手に入るもので一番お薦めできるものをと考えています。
あれが今の気分だと、すっかり気持ちが固まりました。

帰って発注したところあっさり"Sold out"との返信で、これには落胆です。
そういうことってありますね。
以前はこういう場合、数日夢に見たりしました。

生地はかなり慎重に選んでいるので少ない候補からさらに欠けてしまうのは寂しいことですが、一般的なバンチにもよくよく探すとコーディネイトさえ間違えなければ服好きの方にも喜んでもらえそうな、良いワードローブの組めそうな候補がいくつかありますので、気持ちを切り替えるしかありません。



冬にお薦めする生地はことに長く着られるようなしっかりしたものが主ですが、上着だけなら作りでなく生地自体にもう少し柔らかさを求めるのもよいと思います。

20年くらい前に初めて着た生地で、糸の撚りと経糸緯糸の適度な隙間によってナチュラルストレッチとも言うべきニットのような伸縮性がうまれて快適な生地がありました。
ルーペで覗くと糸と糸の隙間は上下左右の毛羽立ちで埋まっているのが分かりますが、よく考えられていました。
ただその後も興味はしっかりしたものに行きがちだったので、忘れるともなく忘れてるうちに見なくなった素材です。

昨年秋10年以上前のその素材を二色見つけて、やはり上手く出来てるなと再確認しました。
これなら作りが多少劣っても手っ取り早く「軽く、柔らかく、動きやすい」服が作れそうと思うような生地ですが、やはり基本的なところをきちんと作っていないとせっかくの生地を十分に活かしてあげられなくて、もったいないことになったでしょう。
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S/S

2021-02-27 | 生地
立春を過ぎて、陽射しが力強くなってきました。
日により寒暖差が大きく、風邪などひかないよういつも以上に気をつけていますが、このような状況でも例年と変わらない自然の運行を心強く感じます。

自然以外にも普段どおり進む物事に助けられていて、昨年末に発注してあった盛夏の生地が年明け到着しました。
生地はすべてイギリスやイタリアからですが、両国とも現在も厳しい状況が続く中、滞りなくよく届いたと思います。
私どもの仕事は、何と言っても眼や指先を心地よく刺激してくれるような生地がないことには始まりません。



体を刺激すると言えば、整体の方が誰でも簡単にできるストレッチというのをあげてくれていて、たまにやってます。
体を捻ったり伸ばしたり道具はいらないのですが、中にバスタオル2枚を固く巻いて背中や腰の下にいれて行うストレッチというのが、家でないと出来ませんでした。



何か代わりになるものがないかと思っていましたが、段ボールだけは納品などでいくらでもあるので巻いてみました。
それだけでは見た目にちょっと愛想がなくて体への当たりも今一つですから、厚いコート地の残布をカットして、縫い目が少し動くよう加減して縫い合わせたものです。
これなら段ボールの反撥力がヘタってきても足したり入れ替えたりが可能ですが、その前にカシミヤの生地が保たないかも知れません。
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The Gray Flannel

2020-12-27 | 生地
勤めていた頃、ある日きれいなシルバーの髪の穏やかな感じの方が見えました。
チャコールグレー無地のスーツを急ぎで必要とのご要望にお応えしたのをきっかけに、毎シーズンご利用頂くようになります。
たいていは作りましたが急なご用はその後もあって、シーズン終盤など既製品のサイズが切れてお役に立てなかったのは、チャコール無地以外お召しにならなかったからです。

しばらくして、その方がある金融機関の立て直しを担っている方だと分かりました。
何故チャコールグレーの無地しかお召しにならないのか直接伺う機会を逸しましたが、もしかするとアメリカの銀行に赴任経験がお有りで、その時お手本となるイメージの方に出会われたのかもと後から想像しました。
グレーに対するイメージが、日本と海外のビジネスの場ではそれくらい違うように思います。

                   * * *

「自分が立派な服を着られる身分になったときには彼も、アメリカ最高の仕立屋はどこかをすでに知っていた。
そしてこの日の夕方彼が着ていたスーツは、まさにその最高の仕立屋が仕立てたものであった。
彼は、彼の母校の大学が、他の大学とはっきり違う独自の特色として持っている、あの万事に地味をよしとする嗜好、あの感覚をすでに身につけていた。
彼はそうした態度が自分にとって有利なことに気付き、意識してそれを習得してきたのである。
服装にしろ態度にしろ、無造作であるためには、慎重に意を用いる場合よりもはるかに大きな自信の裏打ちを必要とすることを、彼は承知していた」野崎孝訳 F. S. フィッツジェラルド「冬の夢」(初出1922年)

以前も引用した「冬の夢」の一節を思い出すと、主人公が着ていたのはグレーフランネルのイメージで、同時にこういうタイプの人々が息子に最初のスーツとして薦めるなら、グレー無地の印象があります。
若者から映画「大逆転」のデューク兄弟やアニェッリのような年配者まで、それぞれ合わせ方が変わるだけで、着こなしが楽しめるのも紺のブレザー同様こうしたオーソドックスなものの良さです。

その中でも一番重いFox Brothersのフランネルでのご注文で、出来上がりのコーディネート例をリクエストいただきました。


F.アステアは映画の中でもしばしばグレーフランネルを着ています。紺に白のストライプというタイもよく使っていますが、レップのがなかったのでシャンタンで代用してます。


ボルドー、バーガンディ、エンジ...も相性の良い色です。


以下4つはピンドットですが、プリントでもジャカードでも、ドットでなくても構いません。ただシルクプリントの場合、ドットやペイズリー、小紋等の古典柄以外は、チャールズにお任せしておくのが得策です。






こういう感じのジオメトリックと総称される柄でも、


ある程度年齢を重ねた方がされるとまた趣きが違います。


時には、様々なチェックという選択肢も。




「番外編」

ちょっと駆け足で、あり合わせのものでコーディネートしましたが、仮に色柄がハズれていても何か意図があるんじゃないかと忖度していただけるような素材ですから、極端な話何を合わせてもたいてい大丈夫です。
また時間の都合で使っておりませんが、シャツは他のブルー系ストライプや淡いピンクを持ってくると更に合わせが広がります。
色々楽しんで頂けることと思います。
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Tweed

2020-10-13 | 生地
今週末再び11月なみ、という予報です。
前回急に下がった時は、例年のことですがほっとしたような寂しいような気分が入り混じりました。
この先も上がったり下がったりを繰り返しながら、気がつくと重いものを着てるかも知れません。

仕事がら、色々な自然素材を扱ったり着たりします。
もちろんカシミヤのように滑らかな手触りが心地良いのは言うまでもありませんが、正反対の手触りを持つツィードの好ましさは年とともに増して、偏愛は募るばかりです。

海外の方があげていた画像で、少し山の中のような景色がありました。
石造りの橋がさほど大きくない緩やかな流れに架かり、周辺は苔や草木の緑が基調になって、紅葉し始めた黄から朱までのグラデーションを引き立てています。
それを見て、朱は入ってませんがすぐこの生地を思い出しました。



ツィードメーカーのひとつ、1826年創業のLovatというミルはこう記しています。

"The designing echoes the slate greys, blues and browns of the stone buildings and cobbled street of the historic Scottish border town."

何といっても、まずその自然や街に溶け込む色合いが良いです。
またフランネルやコーデュロイ、カバートのような素材でうまく色の合ったパンツと合わせた時、引き立て合うコンビネーションも良いですし、さらにセーターを合わせ心地よいハーモニーのような効果が得られた時は楽しく知的な作業ともなります。






 
上の朱で思い出しましたが、何年か前イギリスの小さなマーチャントが「映画の衣装に使って残ったから」というので全量、といってもほんの数メートルですが引き取ったのが下の生地。
あえて作らなくてもどこかのバンチにありそうなオーソドックスな色柄で、どこかイギリスの田舎を舞台にしたテレビ映画のことかななんて妄想も働きますが、何の作品か定かではありません。

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rustic?

2020-10-10 | 生地
昔から、お気に入りのジャケットのことを「古い友達のよう」なんて例えますが、まさに昔から着てたようなトーンのジャケットです。
落ち着いたベース部分だけの色だと本当に古いのと勘違いされそうですが、そこに金木犀のようなマットなオレンジのペインがのると、「古い友達のよう」というより「昔からのガールフレンドのよう」...ではニュアンスが違うし.....、やはり古い友達というしかないか...という色柄のジャケットです。



今「ハッキング」と言うと、最初にイメージされるのはコンピューター関連のことで、だいぶ遅れてバスケットボールの用語で、乗馬関連も思い浮かべるのは紳士服関係の方くらいでしょうか。
これをお読みくださるような方にも説明不要かと思いますが、「あぁ、カイロ⁉︎」なんていう方も好きです。

乗馬服のディテールに由来するそのスラントしたポケットには、下のウィンザー公のように、ポケットの形状が曲線的なものがあります。
英国起源なのでイタリアの仕立て服ではあまり見ませんが、注文によりますからA. Caraceniとか一部では見ます。

上手くアイロンでまげてないと、玉縁が「おそ松くん」のイヤミの靴下の爪先みたいに歪んでる英国製を見たことがあって、それもまた愛敬がありました。







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Cashmere 100%

2020-09-11 | 生地
だいぶ前のこと、コートに合わせてカシミヤのマフラーを贈ろうと思った時のことです。
気にかけてそれらしい店をこまめにのぞきましたが、なかなかイメージにぴったり合う色が見つかりません。
日は過ぎるし、微妙なニュアンスは諦めて普通に合う色でちょっと妥協してしまおうかと思った時、普段入らないような職場近くのブランドものの店で、思い描いていた色に近いマフラーを見つけました。

安堵と達成感で見落としてましたが、手渡してから、フリンジの中心が針の先くらいではありますが白いのに気づきました。
生機というか白無地のマフラーを大量に用意して、各ブランドから注文が来る度にその色に染めて出すというイタリアのメーカーだったと思われます。
それから何年かして、そのメーカーが作ったマフラーを一度に百本くらい触ったことがありますが、中に数本たいへん手触りの良い品が混じっていました。
とても同一価格とは思えないくらい差があります。
比べた人しか分からないとは思いますが、良いのに当たった人はラッキーだったでしょう。



ロロ・ピアーナのベビーカシミヤとか、アラシャンだとかアルバスだとか、カシミヤにも名の知れたグレードや産地があります。
それを製品にうたっている所もありますが、多くは組成表示だけで特にどうこうありません。
眼と指で判断するしかありませんが、情報に頼りがちだと危ないかも知れません。
同じカシミヤ100%でも、産毛だけと、より表層部に近い毛が混ざったものでは明らかに手触りが違います。
またマフラーなら柔らかい産毛だけの方が首が喜ぶと思いますが、糸に力が必要な服地にはことによると柔らかくて短い産毛より、繊維長のある方がより良いというのが理屈です。



どうでもいいような事を書いてますが、今回は「コーディネートの参考にするから、出来上がったジャケットの画像を使って」とリクエストをいただいたので、揚げさせていただきます。
生地の手触り・着心地をお伝えできないのが残念、と思うようなカシミヤ100%の素晴らしい生地でした。
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6464

2020-06-16 | 生地
梅雨だから仕方ないですが、蒸し暑いですねェ。
試しに湿度の低い都道府県と検索してみたら、「東京都」と出ました。
とするとピンポイントで例外はあるにしても、どこもあまり変わらないのかもしれません。

そんな中、生地屋さんからはもう秋冬の話。
池波正太郎さんのエッセイに、終戦直後の話があります。
終戦を迎えたばかりなのに、きちんと祭礼が立ち人の営みが滞りなく進むことの力強さに、この先どうしたら良いのか悩んでいた時期でもあり、たいへん励まされたそうです。
これから夏本番なのにいつもながら早いなぁ、と思いながらその話を思い出し、店まで足を運んで頂いて尻を叩いてもらった思いです。



という事で、もうツィードが届きました。
チェビオットとクロスブレッドの混紡560g/mで、ソーンプルーフに準ずるくらい目の詰んだ手触りは、カシミヤやハイカウントのウールと対照的です。

ベースは土とか収穫をイメージするような色で、そのメランジの綾にのったウィンドウペインのブルーが、最近見たアジサイと重なりました。
前にも書いたと思いますが、アジサイの色は土壌によると言われます。
どう影響するか調べたことはないのですが、たいてい淡いブルー系とかピンクから紫にかけてのグラデーションで、マットな青はそんなに見ません。



のんびりしていると、たいていあっという間に着るシーズンがやって来ます。
でも、さすがにまだ梅雨もあけていないので、どんな服になるかゆっくりイメージ出来そうです。
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VR 4

2020-05-29 | 生地
今回は、「春秋にむく紺・ブルー系で、少し面白味があるものを」というリクエスト。
生地は、新型コロナウィルスでロンドンからの物流がストップする直前に間に合いました。

一見、単にきれいな発色の「ブルーにウィンドゥペイン」ですが、近くで見ると引きで見るのとは違う表情が楽しめます。
本来正反対の手触りのモヘアとシルクは表面に若干のツヤを与え、打ち込みのよさが張りを感じさせる以外にも、微妙な手触りを生みます。



耳にある4番目のリネンの混率は3%。
素材自体の性格を左右するものではありませんが、下の画像に見られるとおり、白っぽくかすれたように見える不規則な繊維が表面にほんの少し表情を与えているのがそれです。
均一で整い過ぎて、平板に見える柄や表面感はクラシックなジャケットには今一つ、と以前書きました。
この引っ掻き傷のような麻の使い方は、それを回避する役目を果たしています。

また右下の、生地を折り返した部分をご覧いただくと分かりやすいかも知れませんが、経糸が茶、緯糸がブルーで構成されているために、見る角度によって違う色にも見えます。



紺・ブルー系は年齢を問わず男性を引き立ててくれる色ですが、注文頂いた方のイメージでしょうか、ある程度年齢を重ねた大人の男性に似合いそうなジャケットになりました。



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VR 3

2020-05-18 | 生地
今年は、花の時期が少しズレている気がします。
夕方のほの明るい中に宵待草が開くと、それはそれで風情がありますが、そこへキツいジャスミンが漂ってきました。
お茶は好んで飲みますが生花はまた別で、繁殖力が旺盛なのか、ここ数年あちこちの家からキツ過ぎるくらい匂います。

タイド・アップして出かけなくても出かけた気分になれる?VR第3弾。



ウール、シルク、リネンという組成自体は珍しくもありませんが、昔のW.Billのこのシリーズは、無地っぽく見えるものでさえとても複雑な色で構成され、設計していた人のセンスと眼がいかんなく発揮されていました。
この生地も例外ではなく、ルーペを覗くと非常に複雑な色の組み合わせから成っています。
地のトーンは一見したところ和にも通じるようにも見えますが、そのシリーズの中でも異色で、合わせの難しいものの一つでした。







前回と違って、振れ幅の小さな変化の中に微妙な違いを求めていますが、あまり違って見えないかも知れませんね。
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VR 2

2020-05-11 | 生地
分かりやすいことに、5月1日から急に暑くなりました。
連休明けはもう7月並みになっているそうです。
どうりで日中歩くのに、体がやけに薄着をもとめると思いました。

たまに電車乗ろうとマスクしてサングラスして帽子かぶったら、昔見た「透明人間」みたいです。
いずれにしても三つ揃うと怪しまれても仕方ないので一つ削りましたが、間違ってマスクを削ると、今はもっと怖がられますし笑えません。

自粛ももう一息というところで、追加のVR企画。
生地は、少し前にあげたヘンプとシルクの交織素材です。



寸法に適宜補正をほどこした後、服になってからくるいが出ないようザックリした生地のタテヨコの糸を入念に整えてもらって、加湿と放散、加熱しては冷ますことを繰り返しながらもろもろの工程を経て、6週間ほどで上がってきたのがこちらのジャケット。






色柄はもちろん、合わせるものの質感によっても表情が変わりますというお話。
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VR

2020-04-03 | 生地
新型コロナウイルスの脅威は日増しに拡大してきました。
不便に見えるくらい隔絶された土地でもない限り、最早だいじなご家族を守るには無駄な外出を避ける以外、打つ手はないのではと思うような段階です。

それでも服好きな方の「好き」は変わらないでしょうから、家にこもっていると、眼から何らかの情報を取り込みたい衝動にかられるかもしれません。
生地から服が出来上がって、コーディネートまでをご覧いただいたら、服を作った気分を家で味わえるのでは...という、「こうしたら、こうなった」のバリエーション。



元はこのようなカントリー・テイスト横溢の、ウールとシルクがほぼ半々という老舗マーチャントの生地がありました。
それをフィッティングの後に流すと、出来上がってくるのが下です。
中間的な厚さですから春とか秋に向きますが、例えばコーディネートするとこんな感じに。



同じネクタイを合わせても、他を変えて全体のトーンを少し濃くすると秋っぽいイメージかと思いますが、限定しなくてもその日の気分と気候しだいでいずれにも合わせられます。



多少、溜飲が下がりましたでしょうか。
どうぞ大事な方々との生活を最優先に、皆様くれぐれもご自愛ください。
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こうしたら、こうなった。

2020-03-22 | 生地
オーソドックスな色柄で良いものほどは見つかりにくいかも知れませんが、ちょっと新し目な組み合わせの色柄で気にかかるものもたまにあります。
画像は以前、"Harrisons of Edinburgh"がスコットランドのミルに織らせていたモダンなシリーズの中の一枚。
グレンチェックやハウンドトゥース、ガンクラブといった古典柄とは違う、ディストリクト・チェックと総称される格子柄です。

トーンを抑えたサックス、オレンジ、濃色、白の組み合わせに、何かひかれるものがありました。
もちろん色柄だけでなく、ウール66%シルク22%リネン12%の滑らかな質感も好ましい手触りです。



多少、雰囲気の伝わりそうなイラスト。
盛夏なら、こうした明るく白っぽいコーディネートをすぐ思いつきます。
それ以前の時期には、もちろんミディアムグレーのパンツを持ってくるでしょう。


Charles F. Petersによるイラスト。

で上の生地をかたちにしたら、こうなりました。



素材の良さをいかす芯との組み合わせにより、柔らかさが出ているかと思います。
生地もオーソドックスなものにはオーソドックスな良さが、ポップなものには遊びやそれなりの魅力がありますから、コーディネートしだいでそれぞれの楽しみがあります。


「川瀬巴水 1939年」
一番奥に描かれた山のブルーが、ジャケットのブルーに似ています。
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Hemp

2020-03-03 | 生地
日射しが春めいて来ました。
唐突ですが、ヘンプってご存知ですか?

「あぁ、ちょっと片田舎みたいなところ...?」
「あー、時計の部品ね!」
「聞いたことある、何でしたっけ?」
はい、リネン等と同様に植物の繊維ですね。

数十年前まで日本でも広く利用されていたというだけでなく、現在も注連縄とか神事に関わるものの多くに欠かせないそうですが、世界的に長年取締りの対象だったため、衣料用に生産されている国はイタリア他そう多くないそうです。



前回の當麻寺(たいまでら)の話を書いてすぐ、イタリア生地でヘンプとシルク交織のジャケットが上がって来ました。
プレーンなベージュ、通気の良さそうなざっくりした綾織り、濃い糸と明るい糸で適度なツヤと表情があります。
複雑で奥行きある色柄も面白いし、こうした何でもないようなものも好みですが、何しろ植物の茎の外皮から取る繊維ですから、出来るかぎり事前に処理をしても遠慮なくシワになるでしょう。
それもキチンと作ったフォルムと相殺で、リラックス感が出ると思います。

20年くらい前、Linen50%Hemp50%という組成の伊メーカーのジャケットをどんなものか試してみました。
麻100%と何か違うのかという好奇心でしたが、今思えば当たり前で、何のことはないただの麻100です。

大昔から利用されてきた素材なのに50年以上日陰の身で、家庭用品品質表示法では指定外繊維の扱いからその後「植物繊維」表示になったそうです。
一般的にこうした扱いにくい素材は好まれないと思いますが、これは色柄・質感ともうまくマッチして、スポーティーなジャケットが出来上がりました。
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