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曽田修司の備忘録&日々の発見報告集

縦覧

2007-11-23 14:20:32 | 大学
ひとつ前の記事の続き。

以前にも少し触れたことがあるが、私は、どの授業についても、授業の最後に学生から短いコメントを書いたカード(市販のB6版の大きさのもの)を提出してもらっている。(ちなみに、私はこのカードのことを「レスポンスカード」と呼んでいる。私の授業に対するレスポンス、という意味である。)

先日、「芸術文化とNPO」の授業の中で、NPO法人の設立手続きについて少し触れ、都道府県や内閣府などのNPO担当部局に設立申請書類を申請すること、申請後、NPO法人としての適格性の審査に2ヶ月、そのあと、書類の縦覧に2ヶ月かかるので、設立申請をしてから最低4ヵ月はかかるという説明をした。

すると、その回のレスポンスカードに、「NPO法人になるための『縦覧』は、誰がどのような目的で見るのか。問題があったらどうなるのか」という質問があった。

聞かれて初めて気がついたが、これは、なかなか本質を突いた質問だと思った。

私は、そうか、たしかにそこを説明する必要があったなぁ、と思いながら、「縦覧というのは、誰でもが書類の中身を見ることができるということだから、社会的不正を防ぐ意味合いがあるわけです」と説明し、「何か悪いことをしている人は、不都合なことは隠しておきたいわけだからね」と付け加えた。さらに、「重大な不正が発覚した場合には、NPO法人の認証を取り消されることもあります。実際に認証の取り消しを受けたNPO法人もいっぱいあります」という説明も加えた。

その説明をしている途中で、あれ、ひょっとして、これは説明しだすと結構大変なところに踏み込んでしまうかも知れない、となかば無意識に感じつつ、そのあと、「誰でも書類を縦覧できるというのは、ちょうど、不動産の登記簿を誰でもが自由に見ることができるのと同じです。公正な取引が行われるように、法律で登記関係の書類の公開を義務付けているわけです」と説明を続け、そこまで行ってようやく、そうか、これは行政手続きとか行政機関の存在意義そのものの本質を説明しようとしているようなものだなぁ、と思い当たった。

(参考)不動産の登記についての解説 → 不動産登記のABC

考えてみれば、アーツ・マネジメントには、このような法律や行政手続きの理解が必要な局面がかなりしばしば出てくる。

たしかに、20歳やそこらの学生にとって、(例えば)不動産の登記簿を見るような機会は普通ないわけで、そういう世間のしくみについて知らないのは仕方がないといえば仕方がない。だが、そうだからと言って、そのうちわかる、とばかりに説明を省いてよいわけでもない。

さらにもう少し身近な別の例でも説明すると、学生は普通、所得税の確定申告をしなければならないことはないし、申告の仕方について日常生活において学ぶ機会がないのだからそのことについて知らないのは当然である。
多くの人は、自分が仕事についてお金を稼ぐようになると、(給与所得者は対象外だが)確定申告をある決まりにしたがって半ば機械的に行っている。これは、やってみなければなかなかそのしくみが理解できないし、逆に、自分がやってみれば特別な知識をもっていなくても、なるほど、こうすればいいんだ、ということが誰でもわかる、というような種類の事柄である。

だが、なぜ、そのような仕方で確定申告をしなければならないか、ということに関して制度的な意味を理解をしている人はごく少数である。

このように、実際にある現象が存在している、ということを理解することと、なぜ、それが存在しているのかということを理解するのとでは、理解の次元が違うことになる。
「縦覧」についても、行政職員なら、現にそのしくみはこうなっています、ということについては、いとも簡単に答えられるであろうけれど、問題なのは、なぜ、そうなっているのか、ということである。
私は、行政のしくみを専門的に学んだことはないのだが、「縦覧」についての上記の説明は、常識的に言って、まあ、間違いではないと思う。

ところで、授業中にこの説明をしているうちに、ふと、「縦覧」というのは、なぜ、「縦」という字を使うのだろうと気になった。

後でネット辞書で調べてみたら、「縦覧」とは、自由に見ること、とある〔大辞泉〕。いつでも誰でも、自由に閲覧できることを「縦覧」というわけである。
ということは、「縦」は、自由気まま、欲しいまま、という意味なのだ、とわかる。
「放縦」の「縦」である。

こういう、ちょっとした言葉の使い方を考えるだけでも、なかなか奥が深い。







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