goo blog サービス終了のお知らせ 

詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(25) 

2019-01-13 09:54:06 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
25 三月十五日

 池澤は書く。

 現題は「三月のイデス」で、イデスは一か月のまんなか。三月の場合には十五日をさす。
 主題は無論カエサルの暗殺である。(略)ある予言者は「三月のイデスに用心せよ」と言ったが、その日カエサルは警告を無視して元老院におもむいた。(略)暗殺計画を知ったアルテミドーロスなる哲学教師がその詳細を書いた手紙を登院する途中のカエサルに手渡したが、彼はそれを読まずに、手にしたまま元老院に行って殺された。

 このことを踏まえて、カヴァフィスは書いている。

仕事もすべて後まわしにせよ。ほかの者も
挨拶も会釈もみな無視するがいい、
(彼らにはまたあとで会える)。元老院さえ
待たせるに支障はない。ただちに読むがいい、
アルテミドーロスの重大な知らせを。

 池澤の注を読み、印象に残るのは何だろうか。暗殺計画を教えてくれる者があったのにカエサルは無視した。そのために死んだ、という「事実」を書いているという印象が強くなる。
 その通りなんだろうけれど。
 私がいちばんおもしろいと思ったのは、でも、そういう「事実(歴史)」と舞台裏ではない。もう一歩、踏み込んだところ。

(彼らにはまたあとで会える)

 これは誰のことばだろうか。アルテミドーロス? それとも、「事実」を知ったカヴァフィスのことば? カヴァフィスだろうなあ。だとしたら、この括弧に入ったことばは何を意味しているのだろうか。なぜ、わざわざ括弧に入れて書いたのかなあ。
 たぶん、カヴァフィスは自分自身に言い聞かせているのだ。誰かに会いたくても、もし、忠告する人がいるならその忠告に従い、会うのは後回しにしろ。忠告は「いま」しか存在しない。「彼らにはまた会える」。
 でも、カエサルはどう思ったか。「彼らにはまた会える」かもしれない。けれど「いま会いたい」。
 ここにも「禁じられた恋」が隠されている、と読んでみたい。




カヴァフィス全詩
クリエーター情報なし
書肆山田


「高橋睦郎『つい昨日のこと』を読む」を発行しました。314ページ。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804
↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑
ここをクリックして2500円(送料、別途注文部数によって変更になります)の表示の下の「製本のご注文はこちら」のボタンをクリックしてください。

オンデマンド形式です。一般書店では注文できません。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。



以下の本もオンデマンドで発売中です。

評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009

評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 池澤夏樹のカヴァフィス(24) | トップ | パブロ・ソラルス監督「家へ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

池澤夏樹「カヴァフィス全詩」」カテゴリの最新記事