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詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(47)

2019-02-04 09:43:33 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
47 テオドトス

おまえの喜びと勝利は長く続くものではなく、
自分が人に秀でているという思いは--何が秀でている?--消滅しよう、
アレクサンドリアで、テオドトスが
血まみれの盆に載せた
ポンペイウスの生首をもたらすその時に。

 引用部分は詩の中程なのだが、ことばのリズムが「論理的」すぎる感じがする。
 「自分が人に秀でている」を「何が秀でている?」と反論(?)したあと、「消滅しよう」と否定する。この否定は、しかもそのあとに「倒置法」のように条件が説明される。そのため、「血まみれの盆に載せた/ポンペイウスの生首」さえも、劇的な感じがしない。「説明」を聞いている感じになる。あるいは「註釈」を読んでいる感じといえばいいのだろうか。

 池澤は、

 この詩におけるカエサルへの呼びかけの手法は25「三月十五日」の場合とまったく同じ。(略)最も強力な対抗者であったポンペイウスの悲惨な最後がカエサルに対する一つの警告であったとカヴァフィスは見ているのか。

 と書いている。
 「歴史」とその「意味」はいつもあとでつくられる。でも、それだけなら、やはりそれも「説明」で終わってしまう。
 「警告」を引き継ぐのではなく、「事件」を反芻するというだけでいいのではないか、と思う。
 「意味」の方が伝わりやすいが、「意味」ならば詩にする必要はない。

おのが人生にあまり自信をもつな。
節制と秩序をこころがけて地面を踏んで歩めば
そのような恐しくも劇的なことは起こらぬ、と思うな。

 「節制と秩序をこころがけて地面を踏んで歩めば」は、ギリシャ的慣用句かもしれない。そこにカヴァフィスのことばのおもしろい部分がある。「ほら、言ったじゃないか」という声が聞こえる。しかし、その直後の「そのような」が「論理的」過ぎる。「恐しく」と「劇的」のことばの積み重ね(追い打ち)のリズムにはあわない。
 現場を目撃しているという感じがしない。 





カヴァフィス全詩
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池澤夏樹のカヴァフィスー47 (大井川賢治)
2024-05-08 16:53:59
/事件ならば反芻するだけでいい。意味ならば詩にする必要はない/安易な詩作に対する警鐘ですね。
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