北川透『わがブーメラン乱帰線』(6、その2)(思潮社、2010年04月01日発行)
さて、七日目--のはずであるが、「ギャーッ」。七日目がない。
なんなだなんだ、六日目は「朝」と「夜」と二回、詩を書いている? 急いでページをめくると、スーページ先に、
おおおい、北川さん、裏切りじゃないか。裏切りだよ。こんなふうに、突然、朝と夜とに一日をわけるなんて……。
と、書きながら、実は、私はこの裏切りが好き。なんというか、闘争心がわいてきますねえ。負けない、つきやってやるぞ、追い付いてやるぞ、なんて思ってしまう。こういう気持ちになるから(させられるから)、詩というか、文学というか、芸術って楽しい。
いくら頑張ったって、私が北川のことばに追い付けるなんてことはありえないのだけれど、でも追い付きたいという気持ちにさせられる。ことばを読み進めたいという気持ちにさせられる。瞬間が、なんとも、うれしいのだ。
追い抜いてしまった(そう感じる)ことばはおもしろくない。脇をすーっと走っていってしまうことばを見た瞬間、あ、追い付きたい、そのスピードにあわせて走りたい、そのスピードで走ることばが見るものを見てみたい--そういう気持ちになる。
「ギャーッ」と叫んで、それから、私は大急ぎでことばを追いかける。速く追いかけないと、22日(7日目)になってしまう。
きのうの「短歌」の影響だろうか、「汽笛」というような日本的情緒にことばがひっぱられている。ああ、この瞬間こそ、「ことばを失った」ということなのかもしれない。ただ、何かを言えなくなる、ことばがつづかなくなる--というのではなく、ことばが、それまであったことばのなかにかすめとられていく。その瞬間こそが、ことばを失うということなのだと思う。不思議なのは、そういうときも、「胸に響いている」ものがあるということだ。
でも、それは、北川が否定すべきものだ。
詩を真剣に模索している北川がここにいる。
さて、七日目--のはずであるが、「ギャーッ」。七日目がない。
六日目の夜。
まだ、わたしは家には帰らない。帰れない。
なんなだなんだ、六日目は「朝」と「夜」と二回、詩を書いている? 急いでページをめくると、スーページ先に、
夢にうなされて目が覚めた。
たしか七日目の朝だろう。
おおおい、北川さん、裏切りじゃないか。裏切りだよ。こんなふうに、突然、朝と夜とに一日をわけるなんて……。
と、書きながら、実は、私はこの裏切りが好き。なんというか、闘争心がわいてきますねえ。負けない、つきやってやるぞ、追い付いてやるぞ、なんて思ってしまう。こういう気持ちになるから(させられるから)、詩というか、文学というか、芸術って楽しい。
いくら頑張ったって、私が北川のことばに追い付けるなんてことはありえないのだけれど、でも追い付きたいという気持ちにさせられる。ことばを読み進めたいという気持ちにさせられる。瞬間が、なんとも、うれしいのだ。
追い抜いてしまった(そう感じる)ことばはおもしろくない。脇をすーっと走っていってしまうことばを見た瞬間、あ、追い付きたい、そのスピードにあわせて走りたい、そのスピードで走ることばが見るものを見てみたい--そういう気持ちになる。
「ギャーッ」と叫んで、それから、私は大急ぎでことばを追いかける。速く追いかけないと、22日(7日目)になってしまう。
まだ、わたしの詩は一行も書けていない。
空漠とした天上から濃い闇が海面に降りてきて、
ポー、ポー、ポーと気だるく汽笛が鳴る。
高く低く、強く弱く、かすかな光が尾を引いて、
めざめる。ゆっくりと、それが何だと言うのではない。
わたしは幾度もことばを失った。でも、
いま、胸に響いているものは何か。
きのうの「短歌」の影響だろうか、「汽笛」というような日本的情緒にことばがひっぱられている。ああ、この瞬間こそ、「ことばを失った」ということなのかもしれない。ただ、何かを言えなくなる、ことばがつづかなくなる--というのではなく、ことばが、それまであったことばのなかにかすめとられていく。その瞬間こそが、ことばを失うということなのだと思う。不思議なのは、そういうときも、「胸に響いている」ものがあるということだ。
でも、それは、北川が否定すべきものだ。
そんなものはない。そんなものを信じて、
おまえの体内の真っ赤なインク壺をぶっちゃけるな。
汽笛は鳴っても……、繰り返し鳴ってはいるが、
船は影さえ見せない。詩はノスタルジックな汽笛ではない。
詩は経験のぼろ屑、世界に見捨てられた玩具、
詩は臭い断片の集積、おまえと他者が必死に生きて排泄した経験の、
詩は剽窃、裏切り、ひ弱で卑賤な感覚の綴れ織り、
詩は宙吊り、仮死、調子の狂ったコレクション、
詩はことばのチェーンスモーカー、中毒、四肢錯乱……
詩を真剣に模索している北川がここにいる。
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