監督 ダニエル・トンプソン 出演 ギヨーム・カネ、ギヨーム・ガリエンヌ
私はピカソが大好きである。その次に好きなのがセザンヌ。三番目がマチス。
セザンヌの生涯を私はまったく知らない。(ピカソについても、マチスについても知らないが。)
この映画はゾラから見たセザンヌを描いている。こども時代からの友情と反発。当然、間に女がからんでもくる。ゾラは小説家として成功するが、セザンヌは名声を手に入れることができない。そればかりか、ゾラの「制作」という小説のなかで、みじめな画家として描かれる。そのことが二人の関係をとりかえしのつかないものにするのだが。
というようなことは、別にして。
あ、別でもないのかなあ。うーん、セザンヌというのは、こんなに我の強い人間だったのか。
まあ、それはそれでいいんだけれど。
この映画の収穫は、そういう人間描写よりも、エクス・アン・プロヴァンスの自然の美しさをとらえていること。ふたりが(仲間も参加するが)エクス・アン・プロヴァンスの野山を歩くと、そこにそのままセザンヌの描いた風景があらわれる。赤い土、水分の少ない木々のみどり、でも太陽に向き合う強いみどり。透明な光。あ、セザンヌの絵だ、と叫びそうになる。
私は「芸術」の舞台には関心がないが、あっ、エクス・アン・プロヴァンスへ行きたいと思ってしまう。エクス・アン・プロヴァンス全体がセザンヌの絵なのだ。
サント・ヴィクトワール山をみつめるシーンが途中で一瞬出てくる。このときはまだサント・ヴィクトワール山を描いていないが、セザンヌの絵といえばサント・ヴィクトワール山。それをちらっただけみせるところが、とても印象的だ。いつセザンヌがサント・ヴィクトワール山を描くところを映画にするんだろうとずーっと待っていたら、映画の終わりで、何枚ものサント・ヴィクトワール山が重なるようにあらわれる。
思わず涙が流れる。セザンヌは十分な評価を受けないまま死んでいったが、他人の評価とは関係なく、ひたすらサント・ヴィクトワール山を描くことで、絵の構図と色との関係を追及したのだと思うと、「芸術家の理想の生き方」のように感じてしまう。
映画のなかでポーズを取るモデルに向かって、「リンゴは動かない」と何度もいう。モデルが動いてしまうことに対して怒るのだが、この「リンゴは動かない」の「動かない」にはセザンヌの「哲学」があふれている、と私は思う。「動かない」を象徴するのがサント・ヴィクトワール山だ。セザンヌのふるさとの山だ。動かないものを求めている。動く必要のないものを求めている、と言えばいいのか。
セザンヌといえば、構図と色だが。がっしりした構図と堅牢な色。
その色について、やはりおもしろいことを言う。妻をモデルに描いているとき、動くことに対して「リンゴは動かない」と文句を言うだけでない。「色」が違う(いろが動いている)と文句を言う。きのうは美しかった肌の色が、きょうは青ざめている。セザンヌは動かない色を求めていたのだ。
でも。
サント・ヴィクトワール山の色は、季節によって違うね。動いているね。セザンヌは、何枚ものサント・ヴィクトワール山を描いているが「同じ色」のものはない。セザンヌは、この「色の変化」をどう感じていたのか。
たぶん「変化」を描きながら、その「変化」の奥にある「不動」を探していたのだろう。これは、「見果てぬ夢」というか、かなえられない「到達点」かもしれない。
でも、この「動かない色を求める」という意識がセザンヌの堅牢な色を産み出しているのだと思う。
そしてこれは「動かない色」というのは、変な言い方になるが「動き出すことができる色」なのかもしれない。光が動く、感情が動く。そうすると、それにあわせて「色」のなかから別の色があらわれて動く。ちょうどエクス・アン・プロヴァンスの野山で、風が吹くと木々のみどりが変化し、風の匂いが変化するように、その絵を見た人の「感情」に触れて、動き出すことができる色。
セザンヌの色は「堅牢」だが、その「堅牢」は、「色が生まれる力を持っている」という強さの別の言い方かもしれない。
うーん、セザンヌ詣でをしたくなるぞ。
でも、やっぱり、映画としては不満だなあ。
何よりもセザンヌが絵を描くシーンが少なすぎる。カンバスの上で絵筆が動くシーンが少なすぎる。「色」がうまれてくる瞬間がパレットでしか描かれていない。筆の動きが描かれていない。
これは「再現できなかった」ということなのだろうけれど。
再現してみせたら再現してみせたで、「文句」がくるだろうけれど。私も、えっ、その描き方おかしいんじゃない、と苦情を言う方かもしれないけれど。
セザンヌ好きには、ちょっと、評価に困る映画だった。
(KBCシネマ1、2017年11月01日)
*
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私はピカソが大好きである。その次に好きなのがセザンヌ。三番目がマチス。
セザンヌの生涯を私はまったく知らない。(ピカソについても、マチスについても知らないが。)
この映画はゾラから見たセザンヌを描いている。こども時代からの友情と反発。当然、間に女がからんでもくる。ゾラは小説家として成功するが、セザンヌは名声を手に入れることができない。そればかりか、ゾラの「制作」という小説のなかで、みじめな画家として描かれる。そのことが二人の関係をとりかえしのつかないものにするのだが。
というようなことは、別にして。
あ、別でもないのかなあ。うーん、セザンヌというのは、こんなに我の強い人間だったのか。
まあ、それはそれでいいんだけれど。
この映画の収穫は、そういう人間描写よりも、エクス・アン・プロヴァンスの自然の美しさをとらえていること。ふたりが(仲間も参加するが)エクス・アン・プロヴァンスの野山を歩くと、そこにそのままセザンヌの描いた風景があらわれる。赤い土、水分の少ない木々のみどり、でも太陽に向き合う強いみどり。透明な光。あ、セザンヌの絵だ、と叫びそうになる。
私は「芸術」の舞台には関心がないが、あっ、エクス・アン・プロヴァンスへ行きたいと思ってしまう。エクス・アン・プロヴァンス全体がセザンヌの絵なのだ。
サント・ヴィクトワール山をみつめるシーンが途中で一瞬出てくる。このときはまだサント・ヴィクトワール山を描いていないが、セザンヌの絵といえばサント・ヴィクトワール山。それをちらっただけみせるところが、とても印象的だ。いつセザンヌがサント・ヴィクトワール山を描くところを映画にするんだろうとずーっと待っていたら、映画の終わりで、何枚ものサント・ヴィクトワール山が重なるようにあらわれる。
思わず涙が流れる。セザンヌは十分な評価を受けないまま死んでいったが、他人の評価とは関係なく、ひたすらサント・ヴィクトワール山を描くことで、絵の構図と色との関係を追及したのだと思うと、「芸術家の理想の生き方」のように感じてしまう。
映画のなかでポーズを取るモデルに向かって、「リンゴは動かない」と何度もいう。モデルが動いてしまうことに対して怒るのだが、この「リンゴは動かない」の「動かない」にはセザンヌの「哲学」があふれている、と私は思う。「動かない」を象徴するのがサント・ヴィクトワール山だ。セザンヌのふるさとの山だ。動かないものを求めている。動く必要のないものを求めている、と言えばいいのか。
セザンヌといえば、構図と色だが。がっしりした構図と堅牢な色。
その色について、やはりおもしろいことを言う。妻をモデルに描いているとき、動くことに対して「リンゴは動かない」と文句を言うだけでない。「色」が違う(いろが動いている)と文句を言う。きのうは美しかった肌の色が、きょうは青ざめている。セザンヌは動かない色を求めていたのだ。
でも。
サント・ヴィクトワール山の色は、季節によって違うね。動いているね。セザンヌは、何枚ものサント・ヴィクトワール山を描いているが「同じ色」のものはない。セザンヌは、この「色の変化」をどう感じていたのか。
たぶん「変化」を描きながら、その「変化」の奥にある「不動」を探していたのだろう。これは、「見果てぬ夢」というか、かなえられない「到達点」かもしれない。
でも、この「動かない色を求める」という意識がセザンヌの堅牢な色を産み出しているのだと思う。
そしてこれは「動かない色」というのは、変な言い方になるが「動き出すことができる色」なのかもしれない。光が動く、感情が動く。そうすると、それにあわせて「色」のなかから別の色があらわれて動く。ちょうどエクス・アン・プロヴァンスの野山で、風が吹くと木々のみどりが変化し、風の匂いが変化するように、その絵を見た人の「感情」に触れて、動き出すことができる色。
セザンヌの色は「堅牢」だが、その「堅牢」は、「色が生まれる力を持っている」という強さの別の言い方かもしれない。
うーん、セザンヌ詣でをしたくなるぞ。
でも、やっぱり、映画としては不満だなあ。
何よりもセザンヌが絵を描くシーンが少なすぎる。カンバスの上で絵筆が動くシーンが少なすぎる。「色」がうまれてくる瞬間がパレットでしか描かれていない。筆の動きが描かれていない。
これは「再現できなかった」ということなのだろうけれど。
再現してみせたら再現してみせたで、「文句」がくるだろうけれど。私も、えっ、その描き方おかしいんじゃない、と苦情を言う方かもしれないけれど。
セザンヌ好きには、ちょっと、評価に困る映画だった。
(KBCシネマ1、2017年11月01日)
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