詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

Estoy Loco por España(番外篇280)Obra, Picasso y.....

2023-01-21 13:24:44 | estoy loco por espana

Obra, Picasso y.....


 ピカソとその時代(ベルリン国立ベルクグリューン美術館展)を見た。私がいちばん気に入ったのが、「鶴」。ブロンズなのだが、もとはスコップやフォーク、ガス栓(?)などである。自転車のサドルとハンドルを組み合わせた牛の頭と同じように、そのあたりにあったものをパッと組み立てている。もちろんパッとというのは「比喩」。ほんとうは素早くではないかもしれない。しかし、ピカソのすべての作品がそうであるように、思いついたらその場ですぐに、という印象がある。スコップを見た瞬間に鶴の羽を思い出したのだろう。それをそのまま形にしていく。ここにはなんといっても造る喜びがあふれている。 「踊るシノレス」と比較すると、そのスピード感が違う。「男と女」(手前は、ジャコメッティー)は、やはりスピード感があるが、「鶴」の方がはるかに速い。それは「思いついた」という印象を与えるからだろう。

 この美術展では、マティス、セザンヌも展示されている。私はピカソ、マティス、セザンヌという私にとっての三大画家を見ることができるのというので見に行ったのだが、あっと驚いたのがクレーである。30点以上展示されている。私は特にクレーに関心があるわけではないのだが、見ていて、笑い出したくなった。どういうことかというと……。ベルリン国立ベルクグリューン美術館というのは、ベルクグリューン家のコレクションが中心らしいのだが、そのベルクグリューンというひとは、どうもクレーが大好きだったらしい。その「大好き」という気持ちが作品を見ると伝わってくるのである。私は目当ての作家でもないし、軽い感じで見ていたのだが、コレクションの「密度」が高い。セザンヌ、マティス、ピカソはばらつきがある。作品によって引きつけられ方が違う。ところがクレーの「吸引力」の方は一定している。安定している。どの作品を見ても気持ちが落ち着く。じっくりと見たい気持ちになる。これは、ベルクグリューンの「ほら、これ見て。いいだろう?」と自慢している声が聞こえるからである。


 自分にとってあまり関心がないことであっても、あるひとが、そのことを熱心に語っているのを聞くと、その熱心さに引き込まれる。何を話していたか忘れてしまうが、熱心に話していたことだけは忘れることができない。そういう感じで、クレーを見てしまう。クレーか、何があるは忘れたが、クレーを見るならベルクグリューン美術館がいいよ、と言ってしまいそうである。これではベルクグリューン美術館がいいといっているか、クレーがいいといっているか、わからなくなるが、芸術とはそういうものだろうと思う。作品に直接引きつけられるときもあれば、その作品を紹介するひとの熱意に引きつけられて、作品に近づくこともある。
 

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「現代詩手帖」12月号(43)

2023-01-21 08:58:16 | 現代詩手帖12月号を読む

「現代詩手帖」12月号(43)(思潮社、2022年12月1日発行)

 三角みづ紀「幼いまま枝を広げて」。

どうして星は光るのか
どうして雨は降るのか
どうしてお菓子のはいった缶は
食べたら空っぽになるのか

どうして と問いつづけた
小さい自分を忘れないまま

ことばを丁寧に受けとめ、
いとおしく触れて、
疑いの眼で対峙している
わたしの日々

 この三連目は「ことばを丁寧に受けとめ」る、「(ことばに)いとおしく触れ」る、「(ことばと)疑いの眼で対峙している」と、「ことば」を補うと、互換性のない動詞に一貫性があらわれる。さらに、「(どうして)ことばを丁寧に受けとめ」る、「(どうして/ことばに)いとおしく触れ」る、「(どうして/ことばと)疑いの眼で対峙している」という具合に展開してみると、「わたしの日々」は「小さい自分(幼い自分)」のままなのだとわかる。一貫する「どうして」が「日」を「日」にわけていく。分裂させていく。
 この姿は、こう展開される。

やがて
ときおりやってくる鳥に
どうして飛べるの
と問うような
砂漠に立つ一本の木になりたい

 「鳥」は「ことば」かもしれない。「木」は私かもしれない。そうすると「砂漠」は「日々」かもしれない。
 「どうして」かは、書かない。

 吉増剛造「「愛着!」/"rouge "!」。

 吉増の詩は、引用できない。タイトルは仮に転写してみたが、正確なものではない。感嘆符は斜めのものをつかっているし、「rouge 」には「ルージュ」とルビがついている。本文中も、ルビが頻繁に出てくる。ひらがなにまでカタカナのルビがあれば、「アカ」ということばには「rouge 」というルビがついている。
 吉増は「音」にこだわっているのだろう。「ことば」を「音」に還元したいのだろう。だが、そうだったら、紙の媒体にアンソロジーを載せることにどんな意味があるのか。いまはインターネットでいろいろなことができる。「音」を収録したサイトをURLで表示するくらいの工夫(読者向けの対策)をするべきなのではないのか。
 さらに、この「音」へのこだわりから、もう一度「表記」へもどっていけば。
 吉増は、きっと「表記」にもこだわっているはずだ。単に、ルビだけではなく、文字の大きさも詩と考えているだろう。活字ではなく、手書きの文字(形)にもこだわれば、そのときの紙、筆記具にもこだわっているだろう。すべての「感覚的なもの」が総合されて詩になっている。たぶん、吉増の「老い」そのものも。それを紙の雑誌を媒体にしてつたえるのは不可能だろう。
 谷川俊太郎ではじめ、吉増剛造でとじるアンソロジーの形式にこだわるくらいなら、もっとほかのことにこだわった方がいいだろう。

 「現代詩手帖」の表紙には、「2022年代表詩130篇収録」とある。私は一日3篇ずつ読んできた。43回×3篇=129篇。ただし、最終回の今回は2篇の感想なので、どこかで2篇、感想を書き漏らしているようだ。どの感想を書き漏らしたのか、調べても意味はないだろう。だから、このままにしておく。


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