「現代詩手帖」12月号(32)(思潮社、2022年12月1日発行)
粕谷栄一「天使」。
それはそれは、本当に楽しいひとときだった。何もかも辛抱して生きていても、気の合う二人が、すべてを超越して、愉しく語り合うことが、この世で、未だできるのだ。
「それはそれは」か。いいなあ、この繰り返し。「それは」の「向こう側」までいってしまいそうだ、というと変だけれど。きっと「超越」というのは、そう言うことだと思う。「それは」では不十分なのだ。
北川朱実「草原と鯨」。モンゴル体験。
遊牧民が影を指さし
鯨の頭蓋が埋まっていると言う
そのことばを北川がどう聞いたのか、よくわからない。
粕谷の詩には「二人」が出てきた。一人ではできないことが、二人ではできた。北川が「遊牧民」に出会ったとき、北川は「二人」になっただろうか。「鯨の頭蓋が埋まっている」という「秘密」は二人の宝になっただろうか。私がもしモンゴル人だとしたら、そして、北川が私のことを「遊牧民」と呼ぶのだったら、私は北川に、私の「秘密」を語らないだろう。
季村敏夫「薄明」。
あの日 木の椅子から身を起こし
少し横を向き ほほえみ
ゆっくり立ち上がるまでの
一つひとつの所作
かすれた息づかいまで
この世のものとはおもえなかった
ここには、粕谷が「それはそれは」と呼んでいるものがあらわれている。「それはそれは」この世のものとはおもえなかった。だからこそ、それを確かめるために、繰り返している。つまり、思い出して描写している。
ことばにしなくても、季村には、それが思い出せる。見える。それを「わざわざ」書くのである。きっと書かなければならないのは、こういうことなのだ。
どこにも特別なことはない。ありふれた「所作」。だが、「それはそれは」というしかない「所作」なのだ。粕谷のことばを借りて言えば「この世の所作」なのだが、それは「この世の所作」であることによって、「この世」を超越する所作になるのだ。季村のことばをとおして私が見る(想像する)のは、「この世の所作」をこえたもの、「あの世の所作」として動くことによって、逆に「この世」を感じさせる美しさである。「それはそれは」美しい。
**********************************************************************
★「詩はどこにあるか」オンライン講座★
メール、skypeを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、ネット会議でお伝えします。
★メール講座★
随時受け付け。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。
★ネット会議講座(skypeかgooglemeet使用)★
随時受け付け。ただし、予約制。
週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。
費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。
お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com
また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571
*
オンデマンドで以下の本を発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512
(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009
(3)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804
(4)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455
(5)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977
問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com