詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

「現代詩手帖」12月号(32)

2023-01-10 17:13:33 | 現代詩手帖12月号を読む

「現代詩手帖」12月号(32)(思潮社、2022年12月1日発行)

 粕谷栄一「天使」。

 それはそれは、本当に楽しいひとときだった。何もかも辛抱して生きていても、気の合う二人が、すべてを超越して、愉しく語り合うことが、この世で、未だできるのだ。

 「それはそれは」か。いいなあ、この繰り返し。「それは」の「向こう側」までいってしまいそうだ、というと変だけれど。きっと「超越」というのは、そう言うことだと思う。「それは」では不十分なのだ。

 北川朱実「草原と鯨」。モンゴル体験。

遊牧民が影を指さし
鯨の頭蓋が埋まっていると言う

 そのことばを北川がどう聞いたのか、よくわからない。
 粕谷の詩には「二人」が出てきた。一人ではできないことが、二人ではできた。北川が「遊牧民」に出会ったとき、北川は「二人」になっただろうか。「鯨の頭蓋が埋まっている」という「秘密」は二人の宝になっただろうか。私がもしモンゴル人だとしたら、そして、北川が私のことを「遊牧民」と呼ぶのだったら、私は北川に、私の「秘密」を語らないだろう。

 季村敏夫「薄明」。

あの日 木の椅子から身を起こし
少し横を向き ほほえみ
ゆっくり立ち上がるまでの
一つひとつの所作
かすれた息づかいまで
この世のものとはおもえなかった

 ここには、粕谷が「それはそれは」と呼んでいるものがあらわれている。「それはそれは」この世のものとはおもえなかった。だからこそ、それを確かめるために、繰り返している。つまり、思い出して描写している。
 ことばにしなくても、季村には、それが思い出せる。見える。それを「わざわざ」書くのである。きっと書かなければならないのは、こういうことなのだ。
 どこにも特別なことはない。ありふれた「所作」。だが、「それはそれは」というしかない「所作」なのだ。粕谷のことばを借りて言えば「この世の所作」なのだが、それは「この世の所作」であることによって、「この世」を超越する所作になるのだ。季村のことばをとおして私が見る(想像する)のは、「この世の所作」をこえたもの、「あの世の所作」として動くことによって、逆に「この世」を感じさせる美しさである。「それはそれは」美しい。

 

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