ワインバーでのひととき

フィクションのワインのテイスティング対決のストーリーとワインバーでの女性ソムリエとの会話の楽しいワイン実用書

ワインバーでのひととき ファースト(改訂) 115ページ目 ペトリュスのなぞ?  

2012-05-24 19:38:38 | ワインバーでのひととき1改訂四話 完
【115ページ】


「すると、1945年のペトリュス2本と出品者の父親のワイン1本が残ったわけだね?」

「はい。それで出品者の父親が造ったワインのラベルを剥がし、空になった

ペトリュスのラベルを貼ったそうです。」

「話の内容はよく判った! 出品者には、落札金の返却を求めなくてもいいので、その

ように連絡してください。」


 ペリーが電話を切ると、長尾に秘書からの電話の内容を説明した。

ペリーが落札したはずの1945年のペトリュスは、本物が2本、ラベルの貼り替えが

1本であった。


「1945年のペトリュスが2本?」


 長尾が首をかしげた。


「和音さんがテイスティングした2本目のワインはラベルの貼り替えでしたが、1本目

は1945年のペトリュスだった?」

「二人で1本目と3本目の飲み比べをしてみましょう。」

「ええ。」長尾がうなずいた。


 ペリーと長尾が2本のワインを飲み比べしたが、ペトリュス通のペリーでさえ

違いが判らなかった。


「私には、違いが判らない!」


ペリーは、二つは同じ1945年のペトリュスだったと確信した。


「和音さんが、間違った?」


長尾が不安な表情を見せた。 

ワインバーでのひととき ファースト(改訂) 114ページ目 ペトリュスのなぞ? 

2012-05-23 23:16:26 | ワインバーでのひととき1改訂四話 完
【114ページ】


「さて長尾社長、2戦目はペトリュスでないワインをテイスティングに出したということで

私の失格負けです。これで1勝1負の引き分けになりました。」

「私の会社との業務提携をお願いできるのでしょうか?」

「勿論です。契約書にサインをして、お祝いをしましょう!」


 ペリーは、2本目と3本目の開栓されているワインを見た。


「お祝い用のワインは開けてしまっていた・・・・・。」

「私もお祝い用として2,000年のペトリュスを用意しています。しかし1945年

のペトリュスもぜひ飲ませてください!」長尾が言った。


 テイスティング対決を終えた和音は、ホテルのスイートルームから退席した。

和音を見送った二人は、早速業務提携の契約書のサインを取り交わした。

二人が業務提携合意のお祝いのワインを飲んでいる時、ペリーに電話が入った。


「オークションに出品された方からお詫びの電話がありました。」

「ペトリュスでないワインが混じっていたのだろう?」

「そうです。3本の1945年のペトリュスの内1本が出品者の父親が造った

ワインだったそうです。 落札金は全額返金させていただくとのことです。」


 電話は、ペリーの秘書からであった。


「手違いの理由についても話があったかね?」

「はい、出品者の息子さんが、プライベートパーティーで家にあったペトリュス

3本と祖父の造った3本のワインを飲もうとしたそうです。遅れて来た友人が、

1945年の高額なペトリュスに気付いた時には、ペトリュス1本と祖父のワイン

2本を空けていました。」


ワインバーでのひととき ファースト(改訂) 113ページ目 ペトリュスのなぞ? 

2012-05-22 23:08:52 | ワインバーでのひととき1改訂四話 完
【113ページ】


 和音は、テーブルに置いたワイングラスを再び手に持ち上げた。

そして、目を閉じワインのテイスティングを行なった。


「ところが・・・・・・」


 和音の目の前に、1945年のヴィンテージがくっきりと浮かんできた。

次にPETRVSの赤い文字が浮かび、ラベルのペトロの人物のイメージも湧いた。

彼の右手には、しっかりと鍵が握られている!


「二つ目の年代は、1945年です。」


 和音は、目を開き言葉を発した。


「1945年のペトリュスには1本500万円近い値段が付けられる時もあります。

1945年は、マダム・ルバがペトリュスの単独所有者になった記念すべき年なのです。

彼女のすごいところは、ペトリュスが世界最高のワインであると信じて、決して安売り

しなかったことです。」


「和音さん、このワインはペトリュスですか?」ペリーが聞いた。


 和音は、グラスの残りのワインを飲み干した。


「これは、テイスティング対決で飲み干した2杯目のワインです。ペリーさんのお陰で

最高のワインを2種類味わうことができました! これは正真正銘の1945年の

ペトリュスです。 ペリーさんも確認してください!」

「いえ、和音さんのテイスティングを信じます。 3本の1945年のペトリュス

をオークション落札したつもりが、なぜこのようになったのでしょうか?」

「ペトリュスに勝るとも劣らないすばらしいワインの造り手に悪意はないと思います。」




ワインバーでのひととき ファースト(改訂) 112ページ目 ペトリュスのなぞ? 

2012-05-20 20:52:26 | ワインバーでのひととき1改訂四話 完
【112ページ】


「私がテイスティング対決で、グラスのワインを飲み干したのは初めてです!

テイスティングを忘れさすほど魅惑的なワインでした。しかし残念ながら・・・。」

「ペトリュスでないと?」

「まったくの別物です! これはペリーさんも同意されるでしょう?」


 ペリーは、2本目のワインをグラスに注ぎ、テイスティングを行なった。


「うむ?」


 ペリーは、さらに確かめるようにもう一口飲んだ。


「なぜだ! オークションで落札した同じヴィンテージのペトリュスなのに1本目と

味覚がまったく違う。 ペトリュスに勝るとも劣らないが、確かにペトリュスではない!

これはどういうことだ?」


 ペリーは、3本目のワインを抜栓し、グラスに注いだ。

ペリーは、1本目のワインがペトリュスだという自信が揺らいできた。


「和音さん、3本目のワインも念のためテイスティグをして頂けませんか?」


 和音は、ペリーの差し出したグラスを受け取り、目の前で凝視した。


「これは、オーラというか圧倒的な存在感を感じさせるワインです。

まるでオーナーの喜び、自信、希望が満ち溢れているようだ。」


 和音は、このワインをテイスティングしないで、テーブルに置いた。


「ペトリュスにとって、記念すべき年代が二つあります。ひとつは1889年です。

パリ博覧会ワイン品評会で金賞を受賞し、それまでほとんど無名だったペトリュスが

世に知られるようになったのです。しかし金賞をとっても今のように高額で取引される

ワインではまだなかった。」

ワインバーでのひととき ファースト(改訂) 111ページ目 ペトリュスのなぞ? 

2012-05-18 20:51:15 | ワインバーでのひととき1改訂四話 完
【111ページ】


 長尾は、この後の言葉を言うかどうか躊躇った。


「このワインがどうしたというのだ?」


 ペリーは、長尾に詰問した。


「和音さんがテイスティングしたワインはペトリュスではないのでは?」

「何? ペトリュスでないと?」


 ペリーは、自分でワインをグラスに注ぎ、一気に飲み干した。


「これは、間違いなくペトリュスだ!」


「ペトリュス通のペリーさんでも思い込みで間違う時もあるのですね?」


 和音は、にこやかに話しかけた。

ペリーは、ペトリュスでないと言われて、怒りのあまり、じっくりテイスティングをする

余裕を失っていたのだ。


「このワインがペトリュスでないと言い張るのなら、もう一本開け間違いを証明だ!」


 ペリーは、残り2本の中から1本手に取り、抜栓した。

それをワイングラスに注ぐと、和音を睨めつけるようにしてグラス手渡した。

和音は、グラスを受け取ると、ワインの色を見て、香りを嗅いだ。


「やはり。」


 和音はひと言発すると、グラスを口に近づけた。


「60年以上の熟成を経ても、まだおいしさのピークを保っている。

これは素晴らしいワインだ!」


 和音は、このワインをとてもおいしそうに飲み干した。