雨あがりのペイブメント

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児童文学 「ビルマの竪琴」に見る水島上等兵の気持ち(3) 地獄を見た水島上等兵

2016-08-09 15:15:53 | 読書案内

児童文学 「ビルマの竪琴」に見る水島上等兵の気持ち(3) 

地獄を見た水島上等兵

 
しかし、呼びかけられたお坊さんは、
黙って顔を伏せ、何も言いません。
皆はがっかりしました。
その時です。
ビルマ僧は傍らの竪琴を取り、奏で始めたのです。

 ポロローン ポロローン

 あの懐かしい音色が聞こえてきたのです。
それは、水島上等兵が、部隊にいたときいつも奏でていた懐かしい音色でした。
もう疑う余地はありません。

 「水島!」「おーい水島!」「一緒に日本に帰ろーっ」

 しかし、ビルマ僧は何も語りません。
一度も振り返らずに、日が落ちた夕闇の中に消えていきました。
ビルマ僧が奏でた、「仰げば尊し」の別れの曲のメロディが、
いつまでもいつまでもみんなの耳に残っていました。

 翌日、兵隊たちは、収容所を出発して、
日本に帰る輸送船に乗り込みました。
兵隊たちの思いは複雑でした。

「あれは水島に違いない。しかし、なぜ水島は何も言わなかったのだ」
兵隊たちは、
このままビルマを離れていってしまうのが、心残りでなりませんでした。
「水島
!」「水島!」と心の内でつぶやきました。
はるかに遠くなっていく陸地を眺めながら甲板に集めた兵隊の前で隊長は、
一通の手紙を読み上げました。
それは、あのビルマ僧、
いいえ、水島上等兵の長い長い手紙だったのです。

「隊長殿、戦友諸君。私は、どれほど皆様を懐かしく思っているかわかりません。
どれほど日本に帰りたいか。
しかし、帰るわけにはいかないのです」と、その手紙は書き始められています。

 降参しない日本兵を説得に行った水島は、
負傷し、
道にはぐれ、
戦場を彷徨っていました。

 そこで見たものは、
冒頭に述べた無謀な作戦の犠牲になった白骨化した日本兵の骸でした。
死体に群がる鳥やうじ虫が戦争の悲惨さを物語っているようでした。

「同じ日本人として、いや、人間としてこれらの亡骸を見捨てていくわけにはいかない」
死体を集めて、焼き、土を盛って丁寧に埋葬し、
兵隊らしく、
そのお墓に向かって敬礼をする水島上等兵でした。

いったい、ビルマにはこのような場所がいくつあるのでしょう。
     (2016.8.6記)             (つづく)

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