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雨あがりのペイブメント

雨あがりのペイブメントに映る景色が好きです。四季折々に感じたことを、ジャンルにとらわれずに記録します。

千度呼べば 新川和江 ② なみだ

2018-07-26 07:53:09 | ことの葉散歩道

千度呼べば 新川和江 ② なみだ

 なみだ

   谷間に降る
   小さな雨さえ
   ひとすじの流れとなって
   岸辺に青い花を咲かせ
   たくさんの魚を泳がせ ゆうらん船を運び 
   そうしてやがては
   あかるい海にながれ入るのに

   あのひとを思い
   夜ごとに流すわたしのなみだは
   どこへ流れていくのでしょう
   さみしい蝶の
   影ひとつうつさず
   岩魚(いわな)いっぴき
   そだてることもできずに
              新川和江詩集「千度呼べば」より

  新川和江の詩には、
  激しく立ち上がる女の愛が、ゆらめき、
  情念の炎となって燃え上がっている。

  十分に吟味された言葉の一つ一つは、
  静かで語りかけるように優しい。寂しい。
  だが、
  人には見せない青白い情念の炎が
  「愛」という女心の裏側で燃え上がっている。

  想いこがれる心の裏に、女の切ない思いが「なみだ」となってあふれ出る。
  ひとを思うことが、どんなに辛いことか
  「夜ごと流すなみだは どこへ流れていくのでしょう」と、
  不安とやるせなさを詠う。

  とどかぬ思いに流すなみだを
  なんの役にも立たないなみだだとなげく女

  一途に流すなみだは
  かなしいが美しい女のなみだだ。
              (2018.7.24記) (ことの葉散歩道№42)