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落合順平 作品集

現代小説の部屋。

舞うが如く 第五章 (2)竹子の決意

2013-01-12 10:02:12 | 現代小説
舞うが如く 第五章
(2)竹子の決意




福島県会津若松市の中心部から少し離れた
神指町(こうざしまち)を流れる湯川のほとりに、
薙刀を手に持った一人の女性の白い石像がひっそりと建っています。

この湯川にかかる柳橋の付近は、
戊辰戦争で激しい戦いが行なわれた場所でした。
会津城下で激戦が行われる中、猛々しい武士達に交じって、
いくつかの女性達の集団が、薙刀を手にして
激しい戦いを繰り広げました。

 「会津婦女薙刀隊」、
通称「娘子隊(じょうしたい)」と言われた一隊もそのひとつです。
その娘子隊の中に、中野竹子(なかのたけこ)
という一人の女性がいました。



 弘化3(1846)年3月、中野竹子は
会津藩士・中野平内の長女として江戸和田倉の会津藩邸内で生まれました。
竹子は幼少の頃より、藩主・松平容保の義姉である
照姫に武道の指南をしていた赤岡大助に薙刀を習いました。
さらに藩内の書の大家であった佐藤得所に書道を習い、
薙刀の腕前は、道場の師範代を勤めるほどになりました。。
書道もまた、備中庭瀬藩主・板倉侯夫人の祐筆を勤めるまでに成長をします。



 竹子はその他にも和歌をたしなむなどして、
幼少の頃から、文武両道に秀でた女性を目指していたようです。
又その通りに、自身の才能を磨くことに明け暮れる日々を送っていたのでした。
しかし、そんな彼女の平穏な日々も長く続くことはありませんでした。


 慶応4(1868)年1月、「鳥羽・伏見の戦い」において、
幕府軍が薩長連合軍に敗れたため、幕府軍の一員として参戦していた会津藩も京を去り、
江戸に退却せざるを得なくなりました。
前将軍・徳川慶喜は江戸で謹慎生活に入ることになったため、
藩主・容保以下の会津藩士達は、故郷会津へと引き上げることに決まりました。

 その頃、竹子は薙刀を習っていた赤岡大助の養女となり、
会津城下郊外の坂下(ばんげ)にあった赤岡家の道場に寄宿していました。
ここで師範代として、武道に鍛錬する生活を続けていたのです。
竹子の才能を大きく買っていた養父・赤岡大助が、
兄の息子を養子にして、竹子と縁組させようと考えましたが、
当人の竹子自身が、

「藩が危急存亡の秋を迎えているというのに、
縁組どころではありません!」


 と、怒りを露にし
結局赤岡家とは離縁をして、実家へと戻ってきてしまいました。




 「才女がゆえの見識ですね。」


 「そういえば、いつぞやの覗きの若者たちは
 どうなされたのでしょうか、
 いまだに、竹子さまを慕っておいでのようですが・・・」



 「歳もいかない少年たちでしたが、
 放置すれば後に祟ると思い、脅しの意味もありましたが、
 一度懲らしめておこうと、ある意味では、実は本気でもありました。
 隙あらば、一刀のもとに斬る捨てるつもりでおりました。」


 「もう、そのくらいで良いでしょう。」


 薙刀の稽古を終えて、八重がもどってきました。



 「今は、白虎として、練兵中の若者たちのことですね。
 わたしのところに、銃の鍛錬に来ている者もその一人ですが、
 竹子どのが、美しすぎるゆえの悪戯心と、ついぞ白状をいたしました。
 混浴の銭湯が嫌いゆえの、
 罪作りでもあると思うのですが・・・
 美しいことは、たいそうな罪も生みますね。」


 八重や竹子、妹の優子が琴の指導のもと、
薙刀の鍛錬に明け暮れている頃、鳥羽伏見から始まった戦乱は、
王政復古の改革の炎として、日本列島を覆いはじめました。


 江戸へ到着した徳川慶喜は、1月15日になると、
幕府主戦派の中心人物・小栗忠順(小栗上野介)を罷免しました。
さらに2月12日になってから、慶喜は江戸城を出て上野・寛永寺に謹慎をしました。
自ら、明治天皇に反抗する意志がないことを示したものでした。


 一方、明治天皇から朝敵の宣告を受けた松平容保は
会津藩兵たちとともに会津へ戻りました。
松平容保は新政府に哀訴嘆願書を提出して、天皇への恭順の姿勢は示しましたが、
新政府の権威は認めず、武装も解かず、求められていた出頭も
謝罪もしません。


 その一方で松平容保は、
先の江戸での薩摩藩の騒乱行為を取り締まったために、
新政府からの敵意を感じていた、庄内藩主・酒井忠篤と会庄同盟を結成して、
薩長同盟に対抗する勢力の結集を着々と進めていました。

 旧幕府に属した人々は、ある者は国許で謹慎し、
またあるいは徳川慶喜に従い、またあるいは反新政府の立場から
会津藩を頼りにしながら、主戦場を求めて
東北地方へと逃れはじめます。




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