落合順平 作品集

現代小説の部屋。

舞うが如く 第一章 (5)神童・房吉(後)

2012-11-13 09:58:32 | 現代小説
舞うが如く 第一章
(5)神童・房吉(後)




 同村に、須田栄蔵という
房吉と同じ歳の若者がおりました。
房吉とは生家も近く、幼いころからの顔馴染です。
同じく祖父の道場に籍を置く同期の練習生ですが、
剣術よりも、読み書きを得意とする若者です。



 剣の腕は、はるかに房吉には及ばないものの、
ある日ふと思い立ち、願をかけます。
深山の庵に籠り、一心に月に祈り身を清めたまま、ひと月近くを、
ひたすら瞑想のままに過ごします



 満願となったその夜に、房吉を呼び出し、
酒食でもてなした後、立会いをもとめ試合にとおよびました。



 双方、しばし打ちあいますが
不思議と房吉の竹刀が、空を切り栄蔵には届きません。
届きそうで届かない間合いに、じれた房吉が
強引に、前に一歩を踏みこみました。



 その刹那、力を溜めていた栄蔵の竹刀が
鋭く伸びてきて、房吉の面を綺麗に打ち抜け、
見事な一撃が房吉の面上をとらえました。




 房吉は驚き、
竹刀を垂れて、友の挑戦を止めました。



 見事な一撃に、房吉は友の栄蔵を称賛します。
再び酒を酌み交わしながら、
この時より二人は終生を共に過ごすことを誓い合います。



 友の戒めに発奮した房吉が、
生来の直向(ひたむき)きに加えて、
さらに過酷な修練と鍛錬に明け暮れるようになりました。
その甲斐もあって赤城の神童が心身ともに開花して、
その腕前は、近在では敵なしのとの評判にまでいたります。

 二十歳となった房吉を、
法神が自らの庵に呼び寄せました。
これより免許皆伝のための試練を与えると宣言し、
「一本の技を身につけるためには、万本の打ちこみを要する」と諭します。



 さらに法神流の奥義のすべてを授けるために
これより三年と三カ月の間、山中にこもって修練に励めと問われます。
房吉も、もとより承知の上とこれを受けて立ち、
両親に暇を願いでたのちに、
法神とともに赤城の山中に踏み込みます



 それから三年と三か月の間、この子弟の二人は、
剣と柔術の鍛錬にひたすら励みます。
天狗の剣といわれた法神が80歳とも、
90歳とも言われた時のことでした。



 みずからの後継者として
房吉にすべてを託した修業の後、
一段とたくましさを増した房吉は、師匠との約束通り
無二の親友である栄蔵を伴って、
さらに三年間の武者修行の旅にと出ます。




 終生、無敗の剣士としてその名を知られた
房吉の深山法神流の天狗剣法は、
こうして誕生したのです。




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